ソウの遺作
タイトルの遺作は、力があった頃の神としての遺作です。ソウは死んでませんので。
「・・・ここは・・・?」
目を開けた風太は、周囲の状況を見渡す。そこは、一面真っ暗な空間で、自身の身体でさえ見えないほどだった。
「・・・二人とも、近くにいるのか?」
「いるよ。」
「私も。」
二人の声が近くから聞こえるも、風太の目には何も見えなかった。
「・・・暗すぎて何も見えない。灯りとかないのか?」
「ごめんごめん。すぐに明るくするから。・・・光源魔法、起動。」
ソウが起動を命じると、途端に周囲が明るくなる。風太の目に、二人の姿が入った。
「・・・おお・・・明るくなった。」
「・・・!風太!あれ!」
「?・・・!何だあれは!?」
渚が指した方を見た風太は、そこにあるものを見て驚いた。
それは、巨大なドラゴンだった。いや、正確には、ドラゴンのような形をした金属の物体であった。大きさは、フィードやエリアスの五倍以上あった。
「これが、僕の目的のもの、【鋼竜】だよ。」
「鋼竜・・・。」
「僕が趣味で作ったゴーレムの一種だよ。形状は、六体の竜達を模して作ったんだ。鋼って付けてるけど、材料はミスリルとオリハルコンでできているから、厳密にいえば違うけどね。まあ、メタリックな色をしているから、鋼竜って付けたんだ。そっちの方がかっこいい感じがしてね。」
ソウは、自分の自慢のコレクションを見せる子供のように風太に鋼竜を説明する。
「何でこんなデカいゴーレムを作ったんだ?これ、フィードよりずっと大きいぞ。」
「空を飛んで世界を見て回りたいと思ってね。」
「自分で飛べばいいだろう。それか、フィード達に乗せてもらえば・・・。」
「そんなんじゃなくて、こんな風なものに乗って飛びたいって思っていたんだ。」
「こんな風なものって・・・これ、上に乗るんじゃないのか?」
「うん、これはね・・・ハッチオープン。」
ソウの言葉に反応して、鋼竜の一番後ろの部分が動いた。それは、まるで軍用飛行機の開閉ハッチのようで、動いた後に入り口のようなものが現れていた。そして、奥には広い空間があった。
「こうやって、中に入って乗るんだよ。で、中から動かすんだよ。」
「・・・これ・・・飛行機だよな。」
「・・・飛行機だね。」
その様子を見た風太と渚は、鋼竜が飛行機のようだと感じた。
「君達の世界で言うなら、そんなものだね。」
「でも、飛行機なんて驚いたな。お前、外の世界のことは、行方不明になってから知ったんだろう?よくその前にこんなこと考え付いたな。」
「世界の文明は、似たようなところが結構あるんだよ。僕の考えたアイデアが、たまたま君の世界の飛行機に似ていただけだよ。実際、僕が立ち寄った世界にも、いくつか飛行機みたいなものはあったから、ビックリしたよ。」
「ただの偶然か。・・・でも、飛行機みたいな科学的なものをこんなファンタジーの世界で見ることになるなんて思わなかったな。」
風太は、マジマジと鋼竜を見る。どちらかと言えば、自分の世界の飛行機と言うより、SF漫画に出てくる飛行型マシーンのように見え、色々違和感を覚えていた。
「・・・で、こいつをどうするつもりなんだ?」
「これを今後の足にするんだよ。」
「こいつをか?空を飛ぶなら飛行のできる魔物で十分だろ?フィードやエリアス、ブレイも・・・。」
「それはそうだけど・・・一度も使わないでここに死蔵されていたんだから。使わないなんてもったいないじゃないか。それに、この鋼竜は、単なる移動手段じゃない。頑丈で防御魔法も展開できるから、拠点としても使えるんだ。中も広いから、いろんなことができるよ。」
「・・・なるほど。こいつがあれば、野宿しなくても済みそうだな。それに、食料もたくさん持っていけそうだ。そう考えればいいかもな。」
「・・・それに。」
「それに?」
「・・・単純にこれに乗りたいんだ。」
「結局それか!」
深い意味があるわけではなく、個人的願望だと分かり、風太は思わずツッコむ。だが、内心風太も、この鋼竜に乗ってみたいと思ってはいたが。
「・・・ねえ、そもそもこれ、ちゃんと動くの?」
渚が当然の疑問を述べる。
「・・・そういえばそうだな。こいつは何千年、いや、何万年も前のものなんだろう?・・・使えるのか?」
「使える・・・と思うよ。普通の金属じゃなくて、ミスリルとオリハルコンでできているんだから。そこいらの金属で作ったものとは違うよ。それに、仮にもゴーレムだ。経年劣化対策はしているよ。」
「・・・本当か?」
「本当だよ。さあ、とにかく乗ろう。」
ソウは二人を中へ案内する。二人は、若干の不安と期待を抱き、中へと入っていく。
「・・・これは、座席だな。本当に飛行機の中みたいだ。」
鋼竜内部に入った風太は、機内の装飾を見て、自分の世界の飛行機に似ていることに驚いていた。
「何度も言うけど、偶然だよ。僕がこれを作った時は、外の世界のものなんて知らなかったんだから。」
「・・・でも・・・これはな・・・。」
「・・・あ、あそこがコックピットかな?」
機内の先頭部分に行くと、そこには何か丸い石のようなものが入った台座があるだけの場所だった。それ以外は、外が見える大きな窓があるなど、風太の世界の飛行機と変わらない構造だったが。
「・・・計器類はないな。これでどうやって飛ぶんだ?」
「この魔石が、君の世界で言う操縦桿だよ。」
「・・・この石がか?どうやって動かすんだ?」
「ただ、これに触れて飛べと念じればいいだけだよ。簡単さ。」
「じゃあ、俺が試してみる。とりあえず、周囲をちょっと動かしてみるな。」
「うん、まずは飛ぶんじゃなくて、簡単に動かすところから始めたらいいよ。」
「・・・よし。」
風太は石に手を触れる。
(・・・動け・・・。)
風太は動かそうと念じる。だが、鋼竜はピクリとも動かない。
(・・・動け・・・動け・・・!)
尚も強く動くよう念じるが、鋼竜が動く気配はない。
「・・・なあ、ソウ。動かないぞ?」
「おかしいな・・・ちゃんと動くはずなのに・・・。」
「・・・燃料がないんじゃない?」
「それはないよ。君達の世界の機械と違って、空気中の魔力を燃料として利用しているんだ。燃料切れなんてあり得ないよ。」
「でも、動かないけど?」
「・・・どうしてなんだろう?」
ソウも分からないといった様子で肩をすくめる。
「・・・震がいてくれれば、何か分かったかもしれないな。」
「でも、今は焔と一緒に別行動しているから・・・。」
「はあ・・・使えると思ったんだけどな・・・。」
ソウは、ガッカリした様子で項垂れる。
「・・・でも、原因が分かれば使えるかもしれない。焔と合流したら、またこっちに来て見てもらおう。それに、目的の魔物との契約はできたんだ。成果としては十分だろう。」
「そうだね。じゃあ戻ろう。ウンディーネが心配してると思うし。」
「だな。じゃあソウ。一旦戻ろう。」
「・・・乗りたかったな・・・。」
「・・・。」
意気消沈したソウを引きずるように、風太達は機内から出て行くのだった。
後々これは移動手段として使えるようになりますが、それはもう少し後になります。