ウンディーネとの契約
「・・・ここは・・・?」
気が付くと、渚は一人、水の中にいた。まるで、深い湖の中に沈んでいくような感覚だった。
「!?息が・・・!・・・あれ?息ができる・・・?」
周囲の状況に慌てかける渚だったが、息ができることが分かり、少し落ち着いた。
「・・・でもどうして?私は確か、湖にいて・・・。」
『ここは、私の精神空間です。』
「!」
いついたのか、渚の目の前にはウンディーネがいた。彼女は、先ほど見せた厳しい表情で渚を見ていた。
「・・・ウンディーネ。・・・精神世界?」
『この空間では、あなたの心は直接私に伝わります。あなたが本心を偽ろうとも、私には通じません。ここで、あなたの本心を見させてもらいます。私の契約者に相応しいかどうか。』
「・・・。」
『では、まず最初の質問です。あなたは何故、私との契約を望むのですか?』
「ヤミーと戦う力を得るためです。」
渚は即答する。ウンディーネは表情を変えることなく、質問を続ける。
『では、次です。何故闇の神と戦うのですか?』
「私の大切な人の力になりたいからです。」
『大切な人。あなたの隣にいた人間ですね?』
「はい。緑川風太。私の幼馴染です。」
『何故、闇の神を倒すことが、彼の力になるのですか?』
「風太の妹の風子ちゃん・・・いえ、風子が・・・。」
『呼びやすいままで大丈夫です。そもそも、堅苦しい言葉は不要です。自然でどうぞ。』
ウンディーネは、渚に話しやすいようにするよう伝える。
「・・・分かった。風太の妹の風子ちゃんが、ヤミーに攫われたからよ。今、風子ちゃんは、ヤミーの依り代にされているの。」
『・・・闇の巫女ですね。異界から連れ攫われた者だということは知っていましたが、まさか、あなたのよく知る人間だったのですね。』
「・・・そのせいで、風太は、ううん、風太だけじゃない。風太の家族も、周りの人達もどんどんおかしくなっていって・・・。」
『・・・そこまでで十分です。よく分かりました。あなたがどうして闇の神を倒そうと思うのか。』
渚は顔を俯かせ、言い辛そうになる。それを察したのか、ウンディーネは、話を遮ると、それ以上聞こうとはしなかった。
「・・・ありがとう。」
『・・・ですが、それだけではありませんね。闇の神を倒す理由は。』
「・・・ええ。単に知り合いの妹を助けて知り合いを救いたいとかいうだけじゃなくて、私自身がライバルが不在になるのが嫌なんだと思うから。」
『ライバル・・・ですか。』
「・・・口に出して言うのが恥ずかしいし変だとは思うけど、私は風子ちゃんを本当の妹のようにも見てるし、ライバルだとも見てる。・・・風太を巡っての。」
『その子は妹なのでしょう?ならば、あなたの想い人と結ばれることはないはずです。』
「あなたは風子ちゃんに会ったことがないから分からないと思うけど、あの子、小さいけど風太に対しての思い入れが強いの。・・・きっと、ヤミーに攫われなければ今頃、口で言えないようなこと風太に仕掛けてたと思う。」
『・・・そう・・・ですか・・・。』
渚の思考が入ってくる影響か、ウンディーネは若干引いてしまった。
「もちろん、ライバルが減るのは嬉しいって想いもあるけど、私はしっかり勝負して風太と結ばれたいの。だから、風子ちゃんを助けたい。」
『・・・色々思うところはありますが、あなたの想いに偽りはありませんね。』
ウンディーネは、しばらく考え込む。そして、口を開く。
『いいでしょう。あなたと契約しましょう。』
「!ありがとう!」
『・・・それに、あなたをこのまま放置するのは危険ですから。』
「え?」
『ふふふ、何でもありませんよ。』
ウンディーネは、何もないとはぐらかした。
「・・・あれ?そもそも私の心が伝わるのなら、わざわざ私が言う必要なかったんじゃ・・・?」
『あなたの言葉で聞きたかったのです。』
ウンディーネはそう言うと、クスリと微笑む。
『・・・では、そろそろあなたの意識を戻しましょう。・・・彼が心配しています。』
「あ!」
『さあ、戻りなさい。目覚めればあなたの許に、私のカードがあります。それに・・・。』
ウンディーネが言い終わる前に、渚の意識は遠退き、気を失った。
「・・・さ、渚!渚!」
気が付いた渚の目に、心配そうに顔を覗き込む風太の顔が映る。
「・・・あ・・・風太・・・。」
「!よかった・・・目を覚ました・・・。」
「だから、大丈夫だって言ったじゃないか。ウンディーネは合格でも不合格でも試練の相手を死に至らしめることはしないよ。」
「・・・分かってても、不安なものは不安だ。」
「・・・そうだね。君は本当はそういう人間だからね。」
「・・・ウンディーネは?」
「ああ、あそこにカードがある。」
風太が指した場所に、地面に落ちたサモンカードがあった。渚はヨロヨロと立ち上がると、カードを回収する。
「・・・ちゃんと契約できたんだな。」
「うん。ちょっと大変だったけど・・・うまくいってよかった。」
「?渚。湖に何かあるぞ。」
「?・・・本当だ。」
風太に言われ、湖を見た渚は、そこに浮かぶものがあるのに気付いた。それは、水色を基調としたローブのような服で、まるで水がそのまま衣服となっているかのようだった。
「・・・これは・・・何だろう?」
「それは、ウンディーネが契約者に渡す装備、【水精霊の衣】だよ。着ているだけで水属性に対して完全な耐性を得られる上、水の魔法を強化できるんだ。君を認めた証だよ。」
「なるほど。渚のパワーアップに必要って、そういうことか。完全に渚向きの装備だからな。」
「そういうこと。・・・さて、それじゃあ僕も、自分の用事をしないと。渚。ウンディーネを呼んで湖の水を割って道を作ってくれないかな。湖の中心まで行きたいんだ。」
「分かった。」
「渚。召喚する前に、これを着ろ。これは、もうお前のものだからな。」
風太は、拾った【水精霊の衣】を渚に手渡す。
「ありがとう。」
受け取った渚はそれを羽織る。
「・・・どう・・・かな・・・?」
「似合ってる。やっぱりそれは、渚に合ってる。」
「そうかな・・・へへへ。」
風太に褒められ、渚は顔を赤らめてはにかむ。
「・・・惚気もいいけど、僕の用事もちゃんとしてよ。」
そんな二人をソウは呆れた様子で手伝ってほしいと頼む。
「あ、ごめん。今召喚するから。【サモン・ウンディーネ】!」
渚はウンディーネを召喚する。
「ウンディーネ。早速お願い。湖の中心まで行く道を作って。」
『分かりました。』
ウンディーネが手を上げると、湖の水が割れ、湖底が道のようになる。
「ありがとう、二人とも。これで中心まで行けるよ。」
ソウは渚とウンディーネに礼を言うと、湖の中心まで駆けていく。そして、中心に着いたソウは、湖底を触る。
「・・・よし、活きてる。あとは、地下の空間が無事ならあれが使える・・・。」
「ソウ、どうだ?」
「・・・待って・・・もう少し・・・。・・・!よし、大丈夫だ!風太、渚。こっちに来て。」
「分かった。」
「ウンディーネ、ちょっと待ってて。」
ソウに促され、二人は湖の中心に向かう。
「来たね。これから起動させる。」
「起動?何を?」
「この湖の地下に転移するための魔法陣だよ。」
「湖の地下?」
「この湖の地下には、巨大な空間があるんだ。そこに、僕の目当てのものがある。」
「使えそうなのか?」
「空間はちゃんと残っているみたいだから、大丈夫だとは思うよ。・・・まあ、実際に使えるかは試してみないと分からないけど。」
「分かった。じゃあ、連れて行ってくれ。」
「いいよ。・・・転移魔法陣、起動。」
ソウの起動の言葉に反応し、三人の足元に光る魔法陣が展開される。そして、魔法陣が一層強い光を放ったと同時に、三人は姿を消していた。
風子が仮に攫われていなければ、渚が言う通りR指定確実な懸案になります。おそらく、ここでは書けないようなことに・・・。
総合評価が100を超えました。このような作品を見てくださってありがとうございます。