上位属性と希少種
「・・・ここが、その泉か。」
戦力強化のために新しい魔物を求める風太達は、ソウに案内されて目的地の泉へと到着した。
「・・・綺麗な泉。水がとても澄んでる・・・。」
「・・・泉・・・と言うよりは、どっちかといえば湖の方が正しい気がするけどな。」
その泉は、とても大きな泉で、風太の言うように湖と言う方が適切なほど大きかった。水は、底が見えるほどの透明度で、水の中には小魚のような魔物がたくさん泳ぎ、この湖が見た目だけでなく、本当に綺麗な湖であることが窺えた。湖の周囲には、小鳥のような魔物がたくさんいて、のどかにさえずり、湖上を飛んでいた。
「・・・まだ残っていたんだね。しかも、こんなに大きくなっているなんて。・・・よかった。昔創った場所だから、残っているか不安だったけど。」
「!昔創った!?・・・おい、まさか、残っていないかもしれなかったのか、ここ?」
大昔に自分の創った場所で、残っているか分からなかったと言われ、風太は思わずツッコむ。
「・・・ま、まあ、あったんだからいいじゃないか。」
「・・・でも、ここにそんな強い魔物がいるのか?もの凄くのどかで平和な場所だけどな。・・・本当にここにいるのか?」
「いるよ。まずは、精霊だ。見てごらん。出てくるよ。」
すると、湖の水面が、突然盛り上がる。そして、その盛り上がった水は、女性の形に変わっていく。とても穏やかで美しい容姿の女性である。
「出たよ。あれが、水の精霊ウンディーネだ。」
「・・・水の精霊。イフリートの水属性版のようなものか。」
「そう。イフリートと同格の精霊だ。そして、彼女の周囲にも他の水の精霊が出てくるよ。」
ソウが指摘した通り、ウンディーネの周囲に湖面から水が浮かび上がり、人型や球体に姿を変えていく。
「低位の水の精霊達だよ。ウンディーネの眷属みたいなものだよ。」
「・・・不思議な形。ウンディーネはあんなにしっかりしているのに。」
「ランクの低い精霊は、不安定だからね。さて、渚。彼女と契約してみるかい?」
「私?」
「やっぱり、同じ属性の方が契約しやすいと思うからね。」
「・・・分かった。やってみる。」
ソウに促され、渚はウンディーネと対話を試みることにした。
「ええと・・・まずは、【魔物意思疎通】。『・・・あの・・・すみません。』。」
『?あら、人間がこんな所に何の用ですか』
『ええと・・・お願いがあります。私と契約してください。』
『契約?』
『はい。私達は、ヤミーと戦っています。でも、ヤミーはとても強くて私達だけでは戦えないんです。そのために、一人でも多くの味方が必要なんです。』
『そのために、私に力を貸してほしい。そういうことですね?』
『はい。』
『・・・力を貸すことは構いません。・・・ですが、あなたの言葉が偽りでないのならですが。』
先ほどまで、穏やかな表情をしていたウンディーネの表情が、厳しいものへと変わる。
『あなたの言葉と意志が真であるなら、契約しましょう。』
すると、周囲の精霊達がウンディーネを守るかのように集まり出す。
「!おい、ソウ!あいつ、何を・・・!?」
「大丈夫。直接攻撃してはこないよ。」
「・・・でも・・・!」
「いいから。それに、これは渚本人のパワーアップに必要だから。」
「・・・どういうことだ?」
「まあ見ててよ。」
ソウの真意が分からず、風太は困惑する。そうこうしているうちに、渚に水の精霊達が向かってくる。
「!逃げろ!渚!」
「大丈夫。彼らは渚に危害は加えないよ。」
『あなたの心の強さを確かめさせてもらいます。』
水の精霊達達は、渚に纏わり付く。すると、渚の身体が、大きな水滴に包まれてしまう。
「!渚!」
「だから大丈夫。あれは、彼女を殺すためのものじゃない。彼女の心に働きかけるためのものだよ。」
「・・・どういうことだ?」
「ウンディーネの試練は、力を見る試練じゃなくて、心を見る試練なんだ。あの水滴は、彼女の心に干渉する特殊な水滴なんだ。」
「・・・心に干渉する・・・。」
「それに、君も渚じゃなくて、自分の心配をした方がいいよ。・・・来たみたいだ。」
「?・・・!」
その時、巨大な何かが湖に降り立つ。それは、とても巨大な白鳥だった。いや、見た目は白鳥なのだが、大きさはガルーダやフェニックスと変わらないくらいで、風太は驚愕と同時に困惑した。
「・・・何だ・・・このデカい白鳥は・・・!?・・・いや、そもそもこいつは白鳥なのか!?」
「フロストスワンだよ。ランクBの魔物で、氷属性の魔物だよ。綺麗な水辺にしか降り立たないんだ。」
「?氷・・・属性?」
聞き慣れない単語に、風太は首を傾げる。
「・・・モーゼから色々習ったはずだろう?聞いてないのかい?」
「・・・。」
「属性は、この前も話したと思うが六つある。火、水、風、土、光、闇だ。だが、稀にこれを超える高位の属性を持つ、或いは進化する場合がある。この属性を、上位属性と呼ぶ。」
モーゼが、本を片手に風太と渚に説明する。
「火なら炎、水なら氷、風なら嵐、土なら地、光なら閃光、闇なら暗黒となる。」
「上位属性と通常の属性とで違いはあるのか?」
「相性は変わらん。炎は嵐に、嵐は地に、地は氷に、氷は炎に強い。閃光と暗黒は強弱の関係にある。これ自体は通常の属性と変わらん。だが、通常の属性と撃ち合うとしたら、強さに明確に差が出る。もし、火と炎を撃ち合ったのなら、炎が勝つ。ダメージを受けた際、火属性は炎により多くのダメージを受けるが、炎属性が火の攻撃を受けたとしても、ダメージはあまりくらわぬか、無効化できる。あと、通常の属性では優位でも、上位属性では不利になりえることもある。風は火に弱いが、嵐なら火に勝ち得る。」
「そうなのか・・・。じゃあ、そいつらと戦う時は、注意が必要だな。」
「だが、上位属性を持つ魔物はそう多くない。Sランクの魔物なら有しているだろうが、それ以下のランクの魔物でありながら上位属性を持つのは稀だ。これを、希少種と呼ぶ。」
「五大竜は違うのか?」
「五大竜は特別だ。あれは、属性の根源といえる存在だ。通常の魔物と比べることはできん。ある意味、存在そのものが上位属性だ。」
「風太。そんな魔物がいるのなら、見ていみたいね。」
「ああ。」
「・・・そういえば、そんな話を聞いたような気がするな。」
風太は、モーゼから教わった内容を思い出し、上位属性のことを思い出した。
「ということは、あいつはレアな魔物ってことか?」
「そうだよ。ビッグスワンっていう水属性の魔物が稀に進化して、氷属性のフロストスワンになる。この魔物が生まれるのは、幸運の象徴とさえ言われているんだ。」
「へー・・・じゃあ、こいつを見れるってだけでも縁起がいいわけだ。」
「まあね。でも、見るだけじゃ駄目だよ。しっかりと契約して、初めて幸運が訪れる・・・かもね。」
「そこは幸運が訪れるって言えよ。・・・まあ、やってみるか。」
ソウに促され、風太はフロストスワンと対峙する。
『・・・なあ、フロストスワン。』
『む?人間が何故ここに?』
『頼みたいことがある。・・・俺と契約してくれないか?』
『契約?』
『俺は・・・。』
『断る。』
風太が理由を説明する前に、フロストスワンは拒否した。
『・・・どうして?』
『人間如きが、私と契約したいだと?身の程を弁えろ。』
『・・・じゃあ、力尽くで言うことを聞かせるぞ。』
『力尽く?私に勝てるとでも・・・?』
『【エアロバースト】!』
風太を見くびり、すっかり油断しきっていたフロストスワンに、風太は【エアロバースト】を放つ。フロストスワンは直撃を受け、吹き飛ばされてしまう。
「・・・やりすぎたか?」
「問題ないよ。ほら。」
しばらくして、吹き飛ばされたフロストスワンは急いで飛んで戻ってきた。
『き・・・貴様!私を吹き飛ばすとは・・・!』
『力尽くで言うこと聞かせるって言っただろ?』
『・・・いいだろう。そこまで言うなら本気で相手をしてやろう。私に勝てば、契約でも何でもしてやる。・・・ただし、負けたのなら・・・!』
すると、フロストスワンの周囲の空気が冷たくなり、湖の水も徐々に凍り付いていく。
『貴様には死んでもらう!』
フロストスワンは、強烈な冷気を風太に飛ばしてくる。それは、風太への宣戦布告だった。
この上位属性ですが、将来的に重要な意味を持ちます。