赤羽焔&黄沢震対巨人兵士
「いくぜ!大男!」
焔は、筋力を強化してジャイアントソルジャーの足元を切り付ける。焔の剣は、ジャイアントソルジャーの皮膚にかすり傷を負わせた程度で弾かれてしまう。
「固っ!なんだこれは!?」
「巨人種は、防御力も高い!ただ筋力を強化して切っても意味がない!ブレイカー・オブ・ブレイに魔力を込めるんだ!」
震の方は、土魔法のストーンバレットを放つ。こちらの方がダメージが大きいのか、ジャイアントソルジャーは吹き飛ばされる。だが、さすがは頑強な魔物で、倒れることなく持ち堪える。
「くっ!巨人種は土属性が多い!同属性の魔法じゃ効果は薄いか!」
「土なら俺の魔法も効きにくそうだな。・・・まあ、森ん中で使うわけにもいかねーか!」
そう言って焔は、魔力を込めた一撃を食らわせる。今度はジャイアントソルジャーの足を切断とまではいかないものの、血が噴き出すほどの傷を付けた。さすがにこれは堪え切れず、ジャイアントソルジャーはそのまま倒れ込んでしまう。
「今だ!奴の弱点は頭だ!頭を狙うんだ!」
「よし!決めてやるぜ!」
倒れ込んだジャイアントソルジャーの頭に、焔と震は攻撃を加える。だが、被っている兜に阻まれ、剣は通らず、魔法も弾かれてしまう。
「!?固い!?・・・いや、こいつは固いっつーより・・・。」
「どうやら、防御魔法がかかっている兜みたいだ。普通の方法で壊すのは無理だね。」
「ちぃ!」
『防御魔法が付与された防具か。なら、解除する魔法で打ち消せばいいだろう。』
ジャイアントソルジャーの兜の防御魔法に苦戦している焔の頭に、ブレイが【遠隔疎通】でアドバイスを送ってきた。
『解除魔法!?んな高度な魔法、使えねーよ!』
『解除魔法だけが手段じゃねーぞ。強力な魔力でかき消すって手もあんだぞ。』
『魔力でかき消す!?んなことできんのか!?』
『ああ。お前とそいつの魔力なら、できると思うぞ。やってみろ。』
「・・・震。俺達の魔力で奴の兜の魔法をかき消す。」
「魔力でかき消す?・・・確かに、そんな方法があるそうだけど・・・余程魔力がないとできないはずだ。」
「ブレイが言うには、俺達ならできるだとさ。なら、できるんじゃねーか?」
「ブレイが?意外だね。そういうことには疎そうに思えたのに。」
「人は見かけによらねーぜ。・・・あ。ブレイは竜か。」
「とにかく、やってみるか。」
二人は、体内の魔力を手に集中させる。一方、ジャイアントソルジャーは、足が使えなくなったため、手に持つ剣をでたらめに振り回す。周囲の木々が、まるで草刈り機で刈られる草のように飛び散る。だが、そんな適当な攻撃では、二人を捉えることなどできず、空振っていた。
「・・・よし!いくぞ!」
二人は、ジャイアントソルジャーの兜に魔力を飛ばす。すると、兜に変化が見られた。外見は変わらないものの、明らかに込められていた魔力が消えていたのだ。
「今だ!」
兜の防御魔法が消えたのだと判断した二人は、攻撃を再開する。震のストーンバレットが兜を貫き、ジャイアントソルジャーの頭部に到達する。同属性であるためダメージは少ないが、弱点である頭部への攻撃は強烈で、ジャイアントソルジャーは苦痛の悲鳴を上げる。そこに、焔のブレイカー・オブ・ブレイが兜を断ち切り、ジャイアントソルジャーの頭蓋骨を割り、脳に刃が到達する。ジャイアントソルジャーは、断末魔の絶叫を上げ、それを最後に完全に動かなくなった。
「・・・終わったな。」
「でも、意外と手こずったね。Cランクとはいえ、油断できない強さだったよ。」
『なんだなんだ、この程度の魔物でヒーヒー言ってるようじゃ、先が思いやられるな。』
なんとかジャイアントソルジャーを撃破できた二人を見、ブレイは皮肉たっぷりに【遠隔疎通】で言う。
『うるせー!あんなデカい奴と戦った経験がなかっただけだ!今度会ったら瞬殺してやるぜ!』
『そうか・・・なら、さっさとやってもらおうか。』
『・・・え?』
『知らねーのか?巨人種は仲間意識が意外とつええ魔物だ。しかも、そいつはソルジャーだ。ソルジャーは死ぬ間際、危険を知らせる叫びを上げる。・・・意味が分かるな?』
『・・・まさか・・・。』
ブレイの言葉に、焔は嫌な予感がする。すると、森の中から次々と、ジャイアントソルジャーが出現した。
「!?まさか・・・まだいたのか!?」
『おい、ブレイ!こいつはどういう・・・!?』
『寝てたんだろ。だが、お前達が仲間を殺したんで、その叫び声を聞いて目を覚ましたんだろう。仲間を殺された巨人はつええぞ。』
「・・・マジかよ・・・。」
「・・・焔、ブレイに頼んで手伝ってもらおう。ソルジャーは単体だとCだけど、群れるとB相当だ。さっきのような感じだと、僕達にBはまだ早い。ブレイに・・・。」
「・・・震、やるぞ。」
「・・・え?」
震のブレイに手伝ってもらうという提案を焔は拒否する。
「俺達は、ブレイとやり合えたんだ。今更Bランク程度の魔物にビビっててどうする。」
「単独と複数戦は訳が違う!しかも、巨人はランク以上に厄介だ!無理して戦うこと・・・!」
「それじゃあ風太に置いてかれちまう!これ以上、置いていかれるわけにはいかねー!」
「・・・。」
「確かに、五大竜と契約はできた。でも、まだ風太の方がつええ。このままじゃ、あいつの力になんてなれねー。俺自身がもっと強くならなきゃ駄目なんだ。」
「・・・焔。」
「それに、ヤミーはブレイよりずっとつええんだろ?なら、なおさら退けねー。」
「・・・。」
震は、焔という人間を誤解していたことに気付いた。焔は、確かに単純で猪突猛進、考えて行動するのが苦手な人間である。今回のジャイアントソルジャーとの戦いも、いつもの考えるのが苦手な男の力押し戦法だと震は思っていた。だが、焔自身は、自分の無力さを誰よりも痛感し、このままでは友の力になれないと思っていたのだ。だからこそ、焔は自分が強くなるためにあえて危険な敵と戦い、強くなろうと思っていたのだ。頭が悪いなりに自分を鍛えようとしていたのだ。
それを理解した震は、やれやれといった様子で巨人の群れに向き直る。
「・・・分かったよ。こうなれば、とことんまでやるよ。ただし、僕の指示に従ってくれ。君が力任せで戦うより、ずっと効率よく戦えるはずだ。」
「ありがとな。・・・いくぜ!デカ物共が!」
焔と震は、ジャイアントソルジャー達に向かっていくのだった。
『・・・あいつら、あの巨人共に俺抜きで戦う気か。』
遠くから眺めているブレイは、呆れとも感心ともとれる様子で呟く。
『まあ、俺の契約者だ。あれくらいできてもらわねーと困るな。』
ブレイは二人の意志を尊重し、この戦いを見届けるのだった。
一時間後、二人は何とかジャイアントソルジャーの群れを全滅させることに成功するのだった。
初見殺しの敵って、攻略法が分かった途端弱くなりますよね。