巨人現る
「・・・さて、さっさと森の中にいる魔物共を倒すとするか。」
ブレイから降りた焔と震は、森の中を歩いて魔物を探していた。
「敵は、サラマンダー達とは比較にならないほど弱いけど、油断は禁物だ。ゴブリンは弱くても、数で押してくるだろうし、オークやトロール、オーガは力自慢だ。あと、オーガは力だけでなく、頭もいいらしい。油断できる相手じゃない。」
「でも、サラマンダーほど強くもねーし、イフリートのように頭もよくはねーんだろ?楽勝だぜ。」
油断しないよう告げる震に対し、焔は大丈夫だと自信満々に答える。そんな焔に、震は不安を覚えていた。
「・・・!いた!ゴブリンだ!」
その時、森の奥からゴブリンの群れがやって来た。数は、十体は超えていた。
「ゴブリンのランクは、単独ではHだ。でも、群れればGになる。さっきも言ったけど、気を付けて戦うんだ。まずくなれば、僕が援護する。」
「必要ねーよ。俺一人で十分だぜ!」
焔は、ブレイカー・オブ・ブレイを手に、ゴブリンの群れに突っ込んでいく。
「筋力強化!行くぜ!」
焔は、大きく振りかぶってゴブリン達を攻撃する。先頭にいた数体が、ブレイカー・オブ・ブレイに切り裂かれ、地面に転がった。
「ギギギィ!」
仲間を倒されたゴブリン達は怒り、全員で焔に殺到する。手には、小さな刃物や棍棒などが握られていた。
「はっ!」
焔は向かってきたゴブリンをさらに数体一気に切り倒す。だが、大剣による攻撃は、一度攻撃すると大きな隙ができてしまう。その隙を突いて、ゴブリン数体が武器で焔を攻撃しようとする。
「援護を!」
「必要ねー!」
震の援護を焔は制する。ゴブリンの短剣と棍棒が、そのまま焔に直撃する。だが、その攻撃が焔を傷付けることはなかった。なんと、短剣の刀身は砕け、棍棒も折れて宙を舞っていたからだ。
「!?」
「筋力強化を舐めんなよ!強化された筋肉はな、鎧にもなるんだぜ!」
武器が壊されたことに動揺したゴブリン達を、焔はそのまま容赦なく切り捨てる。
(・・・なるほど。筋力強化が防御にも利用できるということを知っていて、わざと隙を作ったのか。・・・そういえば、サラマンダーとの戦いも、奴の急所を狙って下に潜り込んでたな。・・・普段は頭が悪いのに、戦いに関しては頭が切れるのかも。)
焔の意外な側面に、震は少々感心していた。
しばらくして、焔はゴブリンの群れを全滅していた。
「おう、もう終わりか。」
「本当に一人で片づけたね・・・全く危な気なかったしね。」
「当たり前だろ。この程度の奴らにやられるかよ。」
「まあ、今回は上位種がいなかったからね。いたらまた変わっていたかもしれないよ。」
「上位種な・・・ゴブリンの上位種って、何て奴だった?」
「一般的にはホブゴブリンだね。それより上だと、ゴブリンキングとか、ロードとかかな?他にもあると思うけど・・・有名どころはそんなところだね。」
「どうせなら、そんな奴らと戦いてーな。」
「・・・何度も言ってるじゃないか。僕達の目的は、あくまで掃討なんだ。強い敵と戦うことじゃ・・・。」
『おい、お前。』
突然、焔の頭に声が響き渡る。
「!?な・・・!いきなり声が!?」
「・・・ブレイからの【遠隔疎通】だろ?何かあったのかもしれないよ?」
「な・・・何だよ、脅かしやがって・・・。『どうした、ブレイ?何かあったのか?』。」
『お前達の入った森に、デカい魔物がいるぞ。どうする?俺が倒そうか?』
『デカい魔物!?そいつ、つええのか!?』
『知らん。・・・だが、見た目からして巨人種のようだ。』
『巨人種?』
「!巨人だって!?」
焔の口にした言葉に、震は驚愕する。
巨人種は、最低でも5mを超える大型の魔物で、見た目通りの怪力と耐久力の持ち主である。
「最低でもCランクの魔物だ!この森にいるのか!?」
「・・・ブレイの話によるとな。『・・・それは、本当なのか?』。」
『当たり前だろ。見えてんだからよ。』
『見えてる?そんなにデカいのか?なら、何でもっと早く言わなかった?』
『どうやら寝てたみてーだ。今さっき起きて、立ち上がったみてーだ。』
「・・・相手の強さが分からない以上、下手に刺激するのは危険だ。一旦森から出て・・・。」
「・・・いや、そいつは無理そうだ。」
「?どうして・・・。」
「・・・もう俺達に気付いてやがるからだ!」
そう言い終わるや否や、焔は、震を突き飛ばす。すると、震のさっきまでいた場所に、何か巨大なものが凄まじい速さで落ちてきた。落ちてきた衝撃で、周囲の木々は吹き飛ばされ、地面は大きく凹んでいた。
「・・・!」
震は、突然の出来事に混乱していた。さっきまでいた場所に、巨大な剣の刀身があり、周囲の木々や地面が無残な状態になっている。そんな状況を見れば、頭が追い付かなくて当然である。
「・・・こいつはヤベーな。サラマンダー並みじゃねーか・・・?」
すると、焔達を覗き込むように、巨人が顔を見せた。巨人は兜を被り、左目には大きな切られた傷痕があった。
「おう、本当にデカいな!震!こいつはどんな魔物なんだ!?」
「・・・。」
「?おい、震!」
「!あ・・・ああ、こいつは巨人種の中では一番有名なジャイアントソルジャーだ。ランクはC。だけど、徒党を組めばBにもなる。」
「一番弱くてこれかよ・・・。まあ、ブレイと比べれば可愛いもんか。それにCなら、サラマンダーよりよええってことだな。安心したぜ。」
「・・・決して弱くはないんだけどね・・・。まあ、サラマンダーとかと比較すればね。」
震は、立ち上がると、倒れた際に服に付いた泥をパンパンと掃う。
「それにしても、お前も結構油断してんじゃねーか。俺だ助けねーと、危なかったじゃねーか。しかも、ビビってんのか?こんくらいでビビってたら、お前五大竜と契約なんてできねーぞ。」
「な・・・!・・・事実だけど、君に言われると、色々と悔しいものがあるね・・・!」
あれほど油断するなと語っていたはずなのに、実際は焔の方が反応でき、自身は反応できなかった。それを指摘された震は、心底悔しそうな面持ちでジャイアントソルジャーを睨む。
『おい、俺がやろうか?あれなら森に入らなくても倒せると思うぞ?』
「『いいや、俺達で倒す。そこで見てろ。俺がお前の契約者に相応しいことを!』・・・いくぜ、震!」
「・・・ああ。僕に恥をかかせてくれたお返しをしないとね!」
焔と震は、ジャイアントソルジャーに向かって行くのだった。
巨人の中では雑魚とはいえ、パワーだけなら一ランク上です。
トロールとオーガの知能を入れ替えました。