ソウの提案
渚の口調を変更します。
ブレイとの戦いで消耗した風太達は、神殿近くで野営をすることにした。幸い、簡易的なテントと保存食は用意していたので、キャンプをするのに問題はなかった。
「ふう。親父から教えてもらったテントの張り方が役に立ってよかったぜ。」
焔は、テントを張り終わると、火を起こしていた風太の方を見る。
「どうだ?火は点いたか?」
「・・・点かない。・・・やり方は間違っていないはずなのに・・・。」
「そんな面倒なことしなくても、焔に点けてもらえばいいじゃないか。」
「焔にやらせたら、焚火どころじゃなくなる。」
「・・・同感だね。あの火力馬鹿は・・・。」
震は、忌々しそうに焔を見る。
「・・・うるせーよ。悪かったな、火力馬鹿で。」
震の視線に、焔は、ムッとした表情になる。
「人には得手不得手があるんだから、気にすることはないよ。」
一方、周辺の森で食べられそうなものがないか探していたソウが、木の実やキノコをたくさん抱えてやって来た。
「ソウ。無理にそんなことしなくても、保存食が・・・。」
「保存食は、あんまり美味しくないんじゃないかな?こっちの方が美味しいよ。いや~、よかった。僕の知っている木の実やキノコが現存していて。」
「・・・そうか。お前がこの世界から離れてて、相当経ってたからな。」
「風太。水を汲んできたよ。」
渚が、気の桶いっぱいに水を汲んでくる。風太は自分がやると言ったが、何の役にも立てなかったから、これは自分がやると言って譲らず、結局、半ば勝手に汲みに行ったのだ。
「大丈夫だったのか?」
「大丈夫。魔力がちょっとは回復していたから、身体のダルさもとれていたし。」
「・・・水も食料も手に入ったな。・・・あとは、火を起こすだけだけどな・・・。」
「わ・・・分かってる!も・・もう少し待ってくれ!」
風太は、四苦八苦して火起こしをする。それから五分後、ようやく火が点くのだった。
「・・・さて、今後どうするかだけど・・・。」
日は沈み、キャンプ地周囲は完全な闇と化していた。火を起こし、無事に料理を作ることができた風太達は、焚火を囲み、料理に舌鼓を打っていた。そんな最中、唐突にソウが、交互についての話を振ってきた。
「どうするかって・・・このまま周辺の地域を解放して、この大陸のヤミー軍の拠点を制圧・・・。」
「それじゃあ効率がちょっと悪い。せっかく五大竜が三体仲間になったんなら、それを活かさないと。」
「活かす?」
「地域の解放と、拠点の制圧を同時進行で行うんだ。」
「同時進行・・・。じゃあ、二手に分かれるってことか。」
五大竜は、一体でもいれば十分、いや、一体でも過剰すぎる戦力なのだ。三体使って地域を解放しながら敵の拠点を目指すより、分散させて利用した方が効率がいいのは風太も理解できた。
「そう。で、僕からの提案なんだけど・・・。地域の解放は焔と震が、敵拠点の制圧は風太と渚が行うのがいいと思う。」
「・・・その人選の根拠は?」
「まず、焔にはブレイの力に慣れてもらう必要がある。だから、周辺地域にいる弱い敵と戦って慣れさせるんだ。」
「なるほど。確かに、ぶっつけ本番で大技はまずいな。慣れとかねーとな。」
「それに、焔は頭が悪いからブレイン的な存在が必要だしね。なら僕が打ってつけだね。」
「んだと!?」
震の言葉に、焔は酷く立腹する。
「じゃあ、私と風太に拠点を制圧してもらうのは、力に慣れているから?」
「そう。風太はかなりフィードの力を使えている。次点で君だね。だから、君達二人に拠点へ行ってもらう。」
「・・・分かった。それじゃあ、俺達が拠点に向かっている間に、焔と震はワルド大陸の解放を頼む。」
「おう!任せとけ!」
「君達が拠点を制圧する前に終わらせるよ。」
二人は、自信満々に告げる。
「・・・それと、風太と渚には、もう一つ提案があるんだ。」
「もう一つ?何だ?」
「しばらく、フィードとエリアスの力を使わないで戦うんだ。」
「え?」
「どうして?」
「おいおい、五大竜の力を利用するのに、どうして使うななんて言うんだよ?」
ソウの意図が分からず、風太達は首を傾げる。ただし、唯一、震だけが、ソウの意図を理解した。
「・・・なるほど。君の狙いは、僕達自身の強化だね。」
「震は分かったようだね。そう、今回の同時進行の本当の狙いは、君達自身が強くなることだよ。」
「俺達自身が?」
「五大竜の力は、あんなものじゃないよ。彼らは、僕がこのアナザーワールドを維持するために生み出した存在だ。でも、今は、君達と契約したことで弱体化しているといってもいい。それは分かるね?」
「ああ。契約している俺達の力に依存しているんだったな。」
「だから、彼らの本来の力を引き出せるようになるためには、君達自身がもっと強くならないと駄目だ。」
「私達自身が・・・。」
「そう。そのために、君達に合った強くなるための修行方法を提案したんだ。焔は、さっきも言ったけど、まずは五大竜の力に慣れる修行。力を使う前の慣らしだ。そして、五大竜の力をある程度使えている二人には、自分自身を強くする修行だ。自分の力と魔法だけで戦って、魔力を鍛えるんだ。魔力を鍛える一番の方法は、魔力を消費することなんだ。体力を付けるために、激しい運動をするのと同じことだよ。」
「つまり、魔法を使いまくればいいのか?」
「乱暴な言い方をすればそうだね。」
「風太、何だか面白そう。」
「渚、遊びじゃないんだぞ。」
「いや、楽しむのも重要だよ。好きこそものの上手なれって言うからね。寧ろ、そっちの方が、上達が早いんだ。ヤミーとの戦いも大事だけど、ちゃんと肩の力を抜くことも必要だよ。」
そう言って、ソウは水の入ったコップを風太に手渡す。
「・・・そういうものなのか・・・?」
「そういうものだよ。大丈夫だよ。心配しなくても、君はまだまだ強くなれる。焦らなくてもいいんだよ。」
「・・・。」
「・・・風太。」
「・・・分かった。その代わりソウ、俺をちゃんと強くしてくれよ。」
「分かってるよ。任せて。」
風太からの頼みを、ソウは快く引き受ける。
「それじゃあ、ご飯を食べ終わったら寝ようか。明日から忙しくなるからね。休める時に休んでおかないと。」
「見張りはどうするんだい?ここは、兵士が警戒している城じゃないんだ。見張りを立てないと、魔物の襲撃を受ける恐れがある。」
「そこは大丈夫だよ。ブレイの結界がまだ機能しているから、これを利用する。」
「利用?」
「君達に悪意や害意を持つものが侵入できないよう結界を改造にする。」
「そんなことができるのか?」
「できるよ。結界を一から張るんじゃなくて、今あるものを利用するから消耗も少ないし、簡単にできる。」
「・・・本当にお前、残っている力が偏っているよな・・・。」
「・・・言わないでよ。・・・気にしているんだから・・・。」
「ははははは!」
ソウの消沈した様子に、風太達は思わず笑ってしまうのだった。