焔と震の異世界修行3
「私が、あなたに魔法を教えるホムラよ。」
焔に魔法を教える魔術師は、オレンジのショートヘアの女性だった。ホムラの名乗る彼女の服装は、半袖短パンという動きやすそうな服装で、一見すると魔術師には見えなかった。さらに、しゃべり方も王に仕えている固い人間というイメージではなく、話しやすそうな感じだった。
(・・・女?しかも、この格好・・・どう見ても魔法使いには・・・。)
「・・・私を見て、魔術師っぽくないと思ったわね?」
「!すみません!・・・自分の考える魔法使いのイメージと、あまりに異なっていたため、驚きました!」
焔は、相手が教師ということもあって、敬語を使う。モーゼに対して敬語でなかったのは、アナザーワールドに行く前に会っていたこともあるし、敬語を使わなくてもいいというモーゼの配慮があったからだ。
「敬語はいいわ。いつもの感じでしゃべっていいわ。私、そういうの嫌いだから。」
「・・・分かった。じゃあ、いつも通りのしゃべり方でしゃべらせてもらう。」
「いい子ね。やっぱり自然体でないと、教えるのは大変よ。」
ホムラはクスクスと笑うと、焔に魔法について簡単に説明する。
「魔法は、自身の体内の魔力を放出することで様々な現象を引き起こすことの総称よ。そして、属性魔法とは、その放出した魔力を、自身の持つ属性に変換することで発動する魔法よ。私とあなたの場合、それが火というわけ。」
「変換・・・そいつは自動なのか?」
「自動じゃないわ。手動・・・いえ、任意と言った方がいいわね。もし自動なら、無属性魔法なんて存在しないわ。」
「なるほど。」
「属性魔法は、自身の属性をどれだけイメージできるかが鍵よ。私が手本を見せるから、真似してやってみて。」
「おう。」
ホムラは手をかざすと、呪文を唱える。
「【ファイアバレット】。」
すると、ホムラの手から火の弾丸が放たれる。火の弾丸は、的の丸太を撃ち抜くと、丸太を燃やす。
「おお!すげー!」
初めて見たリアルな魔法に、焔は大喜びする。
「次はあなたよ。私のやった魔法を使ってみて。」
「よし!」
焔は、ホムラがやったように手をかざすと、【ファイアバレット】をイメージする。
(・・・火の玉が弾丸みたいに飛んでいく・・・あんな感じで・・・。)
「【ファイアバレット】!」
かざした焔の手から、ホムラのものを上回る火の弾丸が放たれる。その弾丸は、丸太を撃ち抜き、燃やすだけでは飽き足らず後ろの丸太置き場を直撃し、炎上させた。
「!?」
「おお!こいつが魔法か!すげー!初めてだってのに、なんつー威力だ!なあ、俺の魔法はどんなもんだ?」
焔は、自分の魔法の感想を聞くが、ホムラはあまりの焔の魔法の威力に、唖然としていた。
「・・・。」
「・・・?どうした?」
「・・・いえ・・・魔力が凄まじく多いことは知っていたけど、まさかこれほどとは思わなかったわ・・・。」
「やっぱり凄いのか、俺のは。」
「ええ。威力だけなら下級魔法のレベルを超えてるわ。さすがは勇者様の友達ね。」
「へん!いつかは風太を超えて、俺が最強の魔法使いになってやるぜ!」
「じゃあ、次はあなたの知りたがっている強化魔法を教えるわ。火属性の強化魔法は、筋力強化だけど、意外と奥が深いわ。心してね。」
「おっし!」
焔は、まるで子供が遊園地で遊ぶように楽しそうに魔法を学んでいく。しばらくして、ホムラが教えられるものはなくなってしまうほどだった。
「下級魔法・・・は・・・魔力と魔法の・・・イメージ・・・が・・・基本・・・。これは・・・・どの属性魔法・・・も・・・共通・・・。」
一方、震はロックという宮廷魔術師に、魔法を習うこととなった。ロックは、ローブを着、フードを被るという魔術師然とした恰好の男性だった。顔はよく見えないが、声の感じからして、まだ若いようである。ただ、しゃべり方はたどたどしく、どこか聞き取りづらかった。
「・・・下級魔法は分かった。で、中級以上の魔法はどうなのかな?」
「いきなり・・・中級は・・・無理・・・。まずは・・・他の魔法・・・使える・・・ように・・・した方・・・がいい・・・。」
「他の魔法?強化魔法かい?」
「それも・・・いい・・・。でも・・・今から・・・教えるの・・・は・・・防御魔法。」
「防御魔法?」
「防御魔法・・・自分の・・・属性・・・の・・・結界を・・・張る・・・。」
「聞いたことがある。いわゆる、属性のバリアだね。でも、防御なら魔法障壁の方が強いって本には書いてあったけど?」
「それ・・・半分正しい・・・。でも・・・半分間違い・・・。魔法障壁・・・強い・・けど・・・魔力・・・消耗・・・激しい・・・。震・・・でも・・・長時間・・・使えない・・・。」
「それでも、覚えておいて損はないからね。それも教えてほしい。」
「分かった・・・でも・・・まずは・・・防御魔法・・・。」
「分かったよ。じゃあ、防御魔法を教えてくれ。」
ロックは、ブツブツと呪文を唱えると、ロックの目の前に岩の壁が出現する。
「・・・これ・・・【ロックウォール】・・・。土の防御魔法・・・。」
「これが・・・ランクは下級?中級?それとも上級?」
「・・・中級。・・・震には・・・まずは・・・これを教える・・・。」
ロックは、またブツブツと呪文を唱える。すると、ロックの周囲を砂が舞い、彼を包み込む。
「・・・下級。・・・【サンドプロテクション】。・・・これは・・・下級・・・簡単。」
「・・・確かに、砂が舞うイメージをすればいいからやりやすいか。・・・【サンドプロテクション】!」
すると、震の周囲を砂が舞い、包み込む。しかし、その量は、ロックに比べても多かった。
「・・・やっぱり・・・凄い・・・。こんな・・・簡単に・・・できる・・・人間・・・いない・・・。」
ロックは、感心した様子で、震の魔法を褒める。震は、様々な防御魔法を習得し、ロックはその度にとても褒めた。もっとも、はたから見たら、いつもと変わらないようだったが。
「渚。もう動いても大丈夫なのか?」
城の物見台で警戒していた風太の許に、渚がやって来た。顔色もずいぶんよく、足取りもしっかりしていた。
「うん。もう大丈夫。ごめんね、風太。今まで一人で無理させて。」
「無理なんてしてないさ。それに、こうしているのもいい修行になる。」
「そう。・・・。」
渚は、自身の身体を風太に密着させる。渚の胸が、風太の背中に押し付けられる形になる。
「!?な・・・渚!?何を!?」
「ん~?何のこと?私、何もしてないけど?」
渚は意地悪そうに言う。だが、身体を押し付けるのはやめようとしない。風太の顔は、どんどん赤くなっていく。
「や・・・やめろって・・・渚・・・!」
「ふふふ。風太がそんな反応するなんて初めてだな~。風太って、意外とムッツリなんだね~。」
「@-^@:・!」
声にならない声を出す風太。
ソウルイーターの一件以来、風太の渚を見る目が変わっただけでなく、渚も色々と積極的になっていた。はたから見れば、まるでカップルのように見えるだろう。
『風太。』
「!フィード!?」
突然、フィードから【遠隔疎通】が届いた。【遠隔疎通】。契約した魔物が遠くにいても意思疎通ができる魔法である。渚の積極的なアプローチから逃れる機会と感じた風太は、物見台から飛び降りると、風魔法で落下速度を殺して着地し、フィードとの通信に集中した。
『フィード、どうした?何があった?』
『何がって・・・竜の神殿を見つけたから、連絡したんだよ。火竜ブレイの神殿。』
『・・・そうか。・・・ありがとう・・・。』
『・・・風太。ひょっとしてお邪魔だった?何だか風太が物凄くドキドキしていたから、話しかけたんだけど・・・余計な事・・・。』
『いいや!お前はナイスタイミングで声をかけてくれた!何も問題ない!』
『・・・そう。』
『・・・とにかく、この調子で他の竜も探してくれ。焔と震は、順調に修行が進んでいるらしい。』
『分かった。じゃあ、切るね。』
フィードは、【遠隔疎通】を切る。風太は大きなため息を吐くと、その場に座り込む。
「・・・今まで本当に意識したことなかったけど、渚って、女だったんだよな。まさか、あそこまでとは・・・。・・・いや、俺の渚に対する認識が、小学生のままだっただけか。・・・どれだけ見えていなかったんだろうな・・・。」
止まっていた時間が、ようやく動き出したのだと思うと、風太は少々複雑だった。
渚のアプローチが積極的になっていきます。