渚の想いと風太の想い
「・・・渚・・・。」
あまりに変わり果てた渚の姿に、風太は絶句した。しかも、渚の身体は、ところどころボロボロで、今にも崩れてしまいそうだった。
[・・・まずいね。相当魂を侵食されてる・・・。]
「・・・見たのね・・・私の心の中・・・。」
渚は、責めるような、それでいて後悔しているような声で風太に語り掛けてくる。風太は何も言わず、渚の言葉を待っていた。
「・・・そう。私、風太のことが好きだったの。・・・風太は私のこと、意識してなかったみたいだけど・・・私は違った。ずっと前から好きだった。・・・異性として。・・・男として。」
「・・・。」
「でもね、風太にはいつも風子ちゃんがいた。そして、風太は風子ちゃんしか見てなかった。」
「な・・・何言ってるんだ!風子は妹だぞ!異性として見ているわけ・・・!」
「気付いてないのは風太だけよ。風子ちゃんもね、風太のこと異性として見ていたのよ?」
「!?」
渚からの衝撃的な告白に、風太は驚愕する。まさか、風子が自分のことを?風太には信じられなかった。あくまで風太が風子に向けていた感情は、家族の情であり、保護者としての想いである。好意を持つ異性という感情ではない。だが、当の風子は、風太を異性として意識していたと言うのだ。まさか、あんな幼い子が、いや、そもそも兄妹でそんな感情を抱くのかと、風太の脳内は混乱していた。
「・・・風子ちゃんがいなくなって、私は本当に心配した。・・・でも、私の心の奥底で、もう一つの気持ちが芽生えたの。」
「・・・もう一つの・・・気持ち・・・?」
「・・・これで風太は私のもの・・・私だけのものって・・・。」
渚は、不気味に笑う。あまりに不気味な笑みに、風太は背筋がゾッとする。
「こんな感情抱くなんて、私は異常だよね?妹みたいに可愛がっていた子に嫉妬するなんて・・・。だから、私はこの気持ちを抑えることにした。こんなの異常だって分かるから。でも、風太は風子ちゃんを見るのをやめようとしなかった。毎日毎日、夜遅くまで風子ちゃんを捜していた。・・・こんなことを続けてたら、風太も風子ちゃんみたいにいなくなるんじゃないかって心配だったけど、それと同じくらいに、私の中の醜い私は嫉妬した。どうして風子ちゃんばっかりって。・・・抑えようとすればするほど、それはどんどん大きくなっていったの。」
「・・・。」
「そんな醜い私が私は嫌だった。こんな私を知られたら、風太は絶対に私のことを嫌いになる。だから、風太を気にする優しい幼馴染を必死に演じようとした。・・・でも、どんどんボロが出てきていたのを私は感じていた。」
「・・・。」
「風太は言ったわよね?都合のいい奴だって。そうなの!私は都合のいい女なのよ!風太の傷心に付け込んで、風太と仲良くなろうとするような、そんな女なのよ!」
渚は、今までのどこか遠い所を眺めているような様子から一転、激情に任せて吐き捨てるように言い放ち出す。同時に、渚の身体が、またボロボロになっていく。
「・・・そんなことないだろう?・・・風子を助けに行くと言っただろ?・・・それに、王様もモーゼも助けてくれた。・・・お前はそんな酷い人間じゃ・・・。」
「そんなの建前よ!私が付いてきたのは風太を守るため!風太に見てもらうため!風太の側にいるためだったのよ!風子ちゃんが心配だとか、そんなの全部建前よ!私は風太の側にさえいられれば、それでよかったのよ!」
渚の身体の崩壊がさらに進んでいく。渚はそんなことにも意を介さず、自分の中にある醜い想いを吐露していく。
「風太がヤミーにやられた時も、私は風太のことばかり考えていた!ミリィには当たり障りのないこと言って誤魔化したけど、本当は風太のことしか考えてなかった!風太が死んだかもしれない!風太が死んだらどうしよう!そればっかりよ!」
「・・・渚・・・。」
「これで分かったでしょう!私はこんな女なのよ!小さな子に嫉妬して、その子がいなくなれば好きな人に振り向いてもらえるなんて考える!耳障りのいい口実を作って、好きな人の側にいようとする!好きな男さえ無事ならそれでいいと思っている!こんな汚い女なのよ!だから放っておいて!このまま私を・・・!」
「・・・。」
自分を卑下する言葉を吐き続けようとする渚を、風太は抱きしめる。突然のことに渚は言葉を失う。
「!?」
「・・・もういいんだ、渚。自分をそんなに傷付けなくても・・・。」
「!ち・・違う!私は本当に・・・!」
「・・・じゃあ、この写真は?」
風太は、渚に一枚の写真を見せる。それは、幼い風太と風子、そして幼い渚が笑顔で写っている写真だった。写真には、幼い子供の書いた字で、『ずっといっしょだよ』と書かれていた。
「・・・渚。渚が俺に言った言葉は、渚の本心かもしれない。・・・でも、渚にはあるんだ。ちゃんと風子を想っている気持ちが。」
「ち・・・違・・・!」
「渚。勝手に入ってきたのは謝る。それに、今まで渚に酷いことばかり言ってたことも・・・渚が苦しんでいたことに気付かなかったことも・・・ごめんな・・・。」
「・・・嫌・・・やめて・・・そんなこと言わないで・・・!」
「渚は悪くない。悪いのは俺だ!俺は、無意識のうちに、渚の善意に甘えていた!渚なら、俺を手伝ってくれるものと、勝手な想いでそれを押し付けていた!だから、渚があんな態度を取った時、勝手に裏切ったなんて思ったんだ!・・・渚だって苦しんでいたのに・・・そんなこと考えようともしなかった!・・・ごめん。」
「やめて・・・やめてよぉ・・・!」
ボロボロだった渚の身体が、徐々に戻っていく。風太の想いが、ダイレクトで彼女に伝わっているのだ。
「・・・渚。最低なのは俺だってそうだ。頭では渚に負担を押し付けていると分かっていても、認めようとしなかった。渚をいいストレスのはけ口にしていた。俺の言うとおりに動いてくれる人間なんて思っていた。俺だってそうなんだ。渚だけが醜くくて最低なんかじゃない。」
「・・・。」
渚の目から、涙が流れていく。
「・・・渚。俺みたいな人間の側にいたいって言ってくれてありがとう。俺を好きでいてくれてありがとう。俺をずっと支えてくれてありがとう。」
「ああ・・・!!!」
「・・・大好きだ、渚。」
風太からの言葉に、渚はその場に崩れ落ちる。彼女は、涙でぐしゃぐしゃの顔になり、泣いていた。
「・・・ソウ。ソウルイーターを引きはがすにはどうすればいい?」
[君の想いをそのまま魔力と共にぶつければいい。フィードの剣を持っているね。]
「ああ。・・・でも、剣ならお前の剣の方が・・・。」
[あんなの、面白半分で適当に作った玩具だよ。それより、フィードの剣の方がいい。]
「・・・分かった。」
風太は、ソード・オブ・フィードを鞘から抜くと、魔力を込める。
「・・・渚の心をここまで食い荒らしてくれたな!ここはお前の餌場じゃない!俺の大事な人間の大切な場所だ!とっとと出て行け!」
風太は、ソード・オブ・フィードから魔力を込めた斬撃を放つ。斬撃は、渚を通過するが、渚は傷付けず、彼女から引きはがされるかのように、ソウルイーターを吹き飛ばす。
「きしゃあああああああああああ!」
吹き飛ばされたソウルイーターは、そのまま遠くへ飛ばされ、消えてしまった。
[・・・!よし!ソウルイーターが分離した!かなり弱っている!今まで取り込んだ力が、吐き出されてしまったみたいだ!]
「そっちは任せていいか?」
[うん。こうなればこっちのものだよ。モーゼ、封印だ!]
「・・・渚。もう大丈夫だ。」
風太は渚に微笑む。その顔を見て、渚は顔を赤らめる。
「・・・風太。・・・私・・・。」
全部風太に知られてしまった恥ずかしさに、渚はこの場で消えてしまいたいと思った。
「ごめんな。全然気付いてなくて。・・・ソウにも言われたけど、俺は相当鈍いみたいだ。」
そう謝る風太の姿は、昔自分が好きになった風太の姿であった。それを見て、渚は徐々に、活力を取り戻し出していた。
「・・・そうよ。風太は鈍感すぎるのよ。私がどれだけ苦しかったか・・・ちょっとは分かってほしかったかな。」
「ああ。これからはちゃんと、渚を見るよ。・・・でも・・・あんなこと言って悪いけど・・・その・・・。」
「分かってる。私のこと、まだ異性とかそんなで見れていないんでしょう?」
「・・・。」
「大丈夫。風太がどれだけ無神経で鈍感か知ってるから。だから、気にしなくていいわよ。」
「渚!お前・・・!」
「ふふふ・・・ははは。」
「・・・ははは。」
自然と、二人に笑顔が戻っていた。まるで、昔、幼い頃の二人に戻れたかのように・・・。
私の文才のなさでは、これが限界でした。恋愛シーンを書くのは難しい・・・。反省。
一応、渚はメインヒロイン扱いです。