強行突破
「いてててて・・・何だよあれは・・・?」
幼い渚の攻撃で流された風太は、最初の場所にいた。
「・・・ソウ。あれは何だ?小さい頃の渚だとは思うんだけど・・・。」
[ここは、彼女の心の中だからね。見られたくないものを見られないように邪魔をすることがあるんだ。]
「・・・邪魔って・・・下手すると死ぬんだぞ?」
[・・・死んでも見られたくないものだってある。たぶん、君には絶対見られなくないんだよ。]
「俺に見られなくない?・・・この奥に何があるんだ?」
[さあね。・・・でも、なんとなく分かる気がする。]
「何だ、それは?」
[・・・僕が言っても意味がないよ。自分の目で確かめたらいい。]
「・・・でも、このまま行ったらまた流されるしな・・・。・・・よし、ちょっとズルい手だけど・・・!」
風太は風魔法を後ろに向けて放つ。風太お得意の、風魔法を推進力にする高速移動で一気に渚の守りを突破する作戦に出たのだ。
「これで一気に奥へ行くぞ!」
しばらく行くと、風太の目の前に、再び幼い渚が姿を現す。
「どけ!渚!」
「嫌!来ないで風太!」
幼い渚は、あの時と同様に、大量の水を風太に向けて放つ。しかし、今の風太は、砲弾のようなスピードで突っ込んでいるため、簡単には押し流されない。激流を突っ切り、先に進もうとする。
「やだやだ!来ないで風太!私の心に入ってこないで!」
「何言ってるんだ!このままじゃ死ぬんだぞ!見捨てられるか!」
「どうして!?いつも無視するくせに、どうしてこんな時ばっかり!」
「・・・無視なんて・・・!」
風太は言い淀んでしまう。今まで自分が渚にしてきた態度を思い出し、反論することができなかったのだ。
「風子ちゃんが無事ならそれでいいんでしょう!?だったら私なんて放っておいて、助けに行けばいいでしょう!」
「・・・渚。」
激昂する幼い渚。だが、その顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
「帰って!帰ってよ!もう私のことなんて放っておいてよ!風子ちゃんがいいんでしょう!?わたしなんて、どうだっていいんでしょう!?」
「・・・。」
[風太!気持ちで負けたら追い返される!この世界は、精神力の強さで勝敗が決まる!迷いがあれば、君の魔力が上回っていても、負ける!]
「・・・。」
風太は何も言わず、ただ前に進み続ける。どうみても、風太の方が不利に見えたが、次第に風太の進むスピードが上がっていく。
「!?どうして・・・!?」
「・・・そうだ。お前の言う通りだ。俺は、風子しか見ていなかった。周りの人間が手を差し伸べてくれていても、見ようとしなかった。・・・お前をここまで追い詰めていたなんて・・・俺は知らなかった。・・・ごめん、渚。」
「・・・何よ・・・今更・・・。」
幼い渚は、徐々に後ずさる。
「ああ、今更だ。でも、今からでも俺は、渚に今までのことを謝りたい。そして、俺を支えてくれていたことを感謝したい。」
「・・・嫌・・・やめて・・・やめてよぉ・・・!」
「だから、ここを通る!そして、ソウルイーターを倒して渚、お前を救う!」
風太のスピードがさらに上がる。対して、渚の水流は、徐々に弱くなっていく。もう、風太を止めることなどできなくなっていた。
そして、ついに風太は水流を突破し、さらに奥へと進んでいく。突破された幼い渚は、唖然とした様子で取り残されていた。
「・・・この先だな!」
[うん、間違いない。この先が彼女の心の最奥だよ。そこに、本物の彼女がいるはずだよ。・・・風太、覚悟はできてるかい?]
「ああ。渚を絶対助ける!」
[・・・そっちじゃないよ。僕が言っているのは、彼女の心の奥底に秘めた感情や想いを見る覚悟だよ。]
「どうしてそんなことを?」
「さっきの妨害を考えると、彼女は君に、心の中にある想いを知られたくないんだよ。確かに、他人に心の中を覗かれるのは誰だって嫌さ。でも、彼女の場合は、特に、君に見られるのを嫌っていた様子だ。・・・たぶん、それを知れば、君はもう、渚を単なる幼馴染として見られなくなるかもしれない。・・・それでも行くかい?]
「ああ。渚が俺をどう思っていようと関係ない。・・・行くぞ!」
風太は魔法のスピードをさらに上げ、進んでいく。しばらくして、風太は眩い光に包まれていく。
[・・・心の最奥に入ったよ・・・!]
風太は目を開ける。すると、そこには夥しい風太の写真があった。写真は、小さなものから等身大の大きさのものと、多数あり、写っているのも、子供から現在の風太とバラバラだった。
「・・・なんだ・・・ここ・・・?」
[・・・これが、彼女がずっと心の奥に秘めていたものだよ。写真をよく見てみて。]
「?」
風太は、写真の一枚を見る。写真には、小学生くらいの自分が写っており、右下に赤いペンか何かで傘のようなものが描かれていた。そして、傘の下には、名前が書かれていた。自分と渚の名前が。
「・・・これって・・・?」
[君の世界で言う、あいあいがさ・・・っていうのかな?」
「・・・これも・・・これも!・・・これもだ!写真の右下に、どれも同じものが描かれている!」
全部とはいかないが、かなりの確率で写真に傘が描かれていて、風太は驚愕する。
「・・・なあ・・・まさか・・・渚は俺のことを・・・好きだと思っているのか・・・?・・・その・・・家族じゃなくて・・・異性として・・・。」
[そうだね。君も意外と鋭いね。てっきり頓珍漢なこと言うとばかり思ったよ。]
「ここまで見れば、鈍い俺だって分かる。・・・でも・・・渚が?・・・てっきり、俺の母親か姉だと思っているとばかり・・・。」
[・・・男はどの世界も鈍いんだね。]
「・・・?あれ?この写真。」
ふと、風太は一枚の写真を拾い上げる。それは、カッターのようなものでズタズタに切られ、黒いペンか何かで酷い落書きがされていた。だが、この写真は、自分の写る写真ではなかった。
「!・・・これ・・・風子の写真だ・・・!」
「・・・見たのね。」
「!」
風太が振り向くと、そこにはまるで死体のように真っ白な顔の渚が、生気のない目でこちらを睨んでいた。




