表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/161

渚救出作戦

 「・・・これは・・・!」

 渚の眠る部屋に来た三人は、室内の光景に絶句した。ベッドに眠る渚の周囲には、何かモヤモヤしたものがかかり、彼女は苦しそうな寝顔をしていた。

 「・・・彼女の魔力を吸って、相当成長しているな。・・・でも、この成長は、魔力だけじゃないね。彼女の負の感情も相当吸っているみたいだ。」

 「・・・なあ、二人には何が見えるんだ?俺には、モヤモヤしたのが漂っているようにしか・・・。」

 「漂っているのが見えるなんて、それ時点で凄いよ、君は。普通の人間じゃ、それすら認識できないから。」

 「魔力を感知する訓練はしたであろう。そうすれば、自ずと見えてくる。」

 「・・・分かった。やってみる・・・。」

 風太は、意識を集中し、周囲の魔力を探ってみる。すると、次第にモヤモヤしたものが、形ある何かに見え出す。それは、瞳のない空洞な目と、同じく空洞な口を持つ顔をし、半透明な身体をした背の高い人型の魔物だった。その魔物は、渚に覆い被さるようになっていた。

 「・・・これが・・・ソウルイーター・・・!」

 あまりに悍ましいソウルイーターの姿に、風太は一瞬たじろぐ。まるで、ホラー漫画に出てくるお化けのようだったからだ。

 「そうだ。・・・この様子では、青野渚の精神は、かなり侵食されているようだ。」

 「でも、まだソウルイーターは完全に成長し切っていない。まだ、彼女が生きている証拠だ。・・・時間は残り少ないけどね。」

 「・・・なら、早速例の禁術を頼む。俺が精神に入って、こいつを追い出す。」

 「うむ。・・・では行くぞ。」

 モーゼは、魔法の詠唱に入る。その時、モーゼが発する言葉は、風太も知らない言葉だった。

 「【スピリットダイブ】!」

 魔法の発動と同時に、風太の意識は遠くへ飛ぶ感覚に包まれる。風太の身体は、その場に崩れるように倒れた。


 「・・・!ここが・・・渚の精神か・・・?」

 気が付いた風太は、周囲を見渡す。そこは、ピンク色の空に、綺麗な星やハートが浮かび、地面はピンク色の風船が一面に敷き詰められた空間だった。そして、道端には、可愛らしい動物のぬいぐるみや、美少女ものの人形がたくさん置かれていた。

 [風太、聞こえるかい?]

 「!ソウ!ああ、聞こえる。」

 [よかった。無事に入れたみたいだね。]

 「なんとかな。・・・でも、どうしてソウの声が?」

 [一応、神様だよ僕は。僕の声を君に届かせるくらいはできるよ。これから君を、渚のいる所まで案内するね。そこに、ソウルイーターもいる。]

 「案内できるのか?」

 [大丈夫。僕の感知力は、人間とは比較にならないからね。そのまま真っ直ぐ進むんだ。彼女はそこにいる。]

 「分かった。」

 ソウに指示され、風太は風船でできた道を歩いていく。意外なことに、風船は割れることなく、風太は真っ直ぐ進むことができた。

 「・・・それにしても、このピンクの空や大量のぬいぐるみに、風船でできた道は何の意味があるんだ?」

 [ここは、彼女の心の中だ。彼女の心理が投影されている。彼女の好きなものなんじゃないかな。]

 「・・・でも、あいつがピンクなんて似合わないな・・・。おまけに、ぬいぐるみに美少女人形。あいつ、下手な男より気が強いのに。」

 [・・・君、女の子に結構失礼だね。可愛いものが好きでも、それを見せない子は多いと思うよ。]

 「・・・。」

 (・・・そうだとしたら、俺、渚のこと・・・全然分かってなかったのかもな。普段の渚は、そんな素振り見せなかったから・・・。)

 そう思って、風太はハッとする。風子がいなくなる前の渚のことを。どこにでもいる普通の女の子で、風子と一緒に可愛いものを愛でていたこと。美少女ヒロインアニメのキャラクターが好きで、自分にウンザリするまで話してきたこと。そんな渚がいたことを思い出したのだ。

 (・・・違うな。見せなかったんじゃない・・・。俺が忘れていたんだ・・・。俺が、見えなくなっていたんだ・・・。・・・くそ!)

 自身への苛立ちを覚えつつも、風太は先へ進んでいく。しばらくして、風太の目の前に、小さな子供が姿を現す。

 「?誰だ?・・・!」

 風太は、子供の顔を見て驚く。なんと、子供の顔は、幼い頃の渚だったのだ。

 「・・・渚!?どうして渚が!?」

 [当たり前じゃないか。ここは、彼女の心の中なんだから。]

 「・・・そうだな。でも、どうしてここに?」

 「・・・風太。お願い。ここから出てって。」

 「え?」

 幼い渚は、風太にここから出て行くよう言ってきた。

 「・・・どうしてだ?このままだとお前、ソウルイーターに食い殺されて・・・!」

 「・・・いいの。私、酷い人間だから・・・だから、死んじゃった方がいいの。」

 「・・・何を言ってるんだ?意味が分からない。とにかく通して・・・。」

 「来ないで!」

 幼い渚は、鬼のような形相でそう言うと、大量の水を風太に放ってくる。

 「!?」

 突然のことに、風太は反応できず、水に流されてしまう。残された幼い渚は、悲しそうな、どこか嬉しそうな表情になる。

 「・・・これでいいの。本当の私、醜いの。風太は絶対に嫌いになる。だから、これでいいの。」

 そう言う幼い渚の目には、涙が浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ