風太の帰還
翌日、日が山の上から見え始めた頃、一人の兵士が慌てて廊下を走っていた。兵士は、ある人物の許に真っ直ぐ向かっていた。その人物とは他でもない。国王である。
「大変です!陛下!」
寝室にて何やら書状を書いていた国王の許に、その兵士が入ってきた。
「!何事だ?まさか、ヤミーの手の者か!?」
「いえ!・・・竜です!五大竜の一角、風竜が王都上空に現れました!」
「風竜!?ここに水竜以外の竜が現れるなど、今までないことだぞ!?」
国王は、困惑した表情を浮かべる。
「・・・風竜は何故、ここに?目的は何だ?」
「それが・・・『自分は契約者を得た。ヤミーの討伐に協力する。』と・・・。」
「!風竜が協力を!?しかし・・・いつの間に契約を・・・?契約者は何者かと言っていなかったか?」
「・・・それが・・・契約者は・・・。」
「!それは真か!?」
国王の表情が一転、安心と希望に満ちたものに変わった。
「勇者殿!賢者殿!無事でよかった!」
城の中庭に着陸したフィードから降りた風太に、国王と騎士団長が、護衛の兵士を伴って迎える。
「ご迷惑をおかけしてすみません。」
「いや、無事であるだけで十分だ。」
「それにしても・・・いつの間に風竜と契約を結ばれたのだ?」
「それについては、落ち着いて話せる場所で話しましょう、団長、陛下。」
「うむ。そうだな。」
「・・・ところで、風竜の上に、他にも乗っている人間がいるが、あれは何者だ?」
「俺の知り合いです。三人とも、降りてくれ。」
風太に促され、三人はフィードの上から降りる。
「紹介します。俺の昔の友人の焔と、その友人の震。そして俺を助けてくれたソウです。」
「赤羽焔だ。・・・あっと・・・相手は王様だったな・・・。は・・・初めまして!・・・赤羽焔です!」
「・・・君に敬語は似合わないよ。初めまして、僕は黄沢震です。」
「ははは。構わぬ。ここは、公式の場ではないのだ。自由にして構わん。」
「・・・はー・・・助かったぜ・・・。」
ガチガチに緊張していた焔は、緊張から解放されたのは、体勢を崩す。
「・・・初めまして、僕はソウ。よろしくね。」
「・・・。」
「?陛下?どうされました?」
「・・・いや。・・・この者とは、どこかで会ったような気がしてな・・・。」
「え?」
「いや、それはあり得んな。赤羽殿、黄沢殿、ソウ殿、よくぞ来てくれた。心から歓迎しよう。」
国王は、温和な表情で三人を迎え入れる。
「では、話せる場所に移動するとしよう。賢者殿、何があったのか、詳しく聞かせてもらおう。」
「御意。」
「・・・フィード。一旦カードに戻ってくれ。さすがにここに置きっぱじゃ・・・。」
『大丈夫。僕、しばらく空飛んでるから。』
そう言うと、フィードはあっという間に上空に飛んで行ってしまう。
「・・・本当に自由な奴だな・・・。」
「では、行くとしよう。陛下、私の部屋を使いましょう。」
「賢者殿の部屋・・・。・・・よかろう。」
モーゼの部屋で話をするということに、何かを感じた国王は、温和な表情から一転、真剣なものに変わる。
「・・・では・・・そちらにおわす方が・・・アナザーワールドの創造神様!?」
モーゼの部屋にて、今までの話を聞いた国王は、ソウの正体を知り、驚愕した。
「あー・・・できれば神様神様ってガチガチにならないでほしいな。・・・僕、そういうの嫌いだから。」
「・・・ですが・・・。」
「陛下。お願いです。ソウを神様としてよりも、ソウとして扱ってください。」
「・・・勇者殿は、創造神様を本当に友人と思っているのだな。・・・分かりました。ですが、せめて様と呼ぶことは許可していただきたい。」
「それくらいならいいよ。」
「・・・そして、勇者殿のご友人。二人も磨けば、相当の強さになる。そうですな、賢者殿。」
「はい。この部屋で修行すれば、外界では三日も経たないうちに宮廷魔術師を上回るでしょう。緑川風太、青野渚のように。」
「それは楽しみだ。ワルド大陸を奪還する希望が見えてきた・・・。」
「大陸奪還?」
「現在、ワルド大陸は、王都より南部分はヤミーの勢力下にある。我らラグン王国は、ここの奪還の計画を何度か行った。だが、十回を超える遠征は、全敗だった。第三回の遠征には、陛下のご子息が大将軍として出撃されたが・・・戦死なされた。」
騎士団長は、悔しそうな顔で言う。詳しく聞くと、団長は当時、王子の護衛の一人として従軍していたという。だが、王子を守ることができず、護衛は自身を残して全滅、自身だけ重傷を負って生き延びたのだという。
「本来なら、自害せねばならないところを、陛下の恩情で生き永らえてしまった・・・。それから、遠征の度に私は従軍し、前線で戦った。殿下を守れなかった責任を果たすために。・・・だが、結局は一度も成果を挙げられずに終わった。」
「・・・ヤミーの軍勢は、そんなに強いんですか?」
「先の戦いで出てきた軍勢が普通だが・・・勇者殿ならいざ知らず、我々では撃退が精一杯だ。攻め入って奪還など、夢のまた夢だ。だが、先の戦いでの敗北を考えれば、もう同じ手は使うまい。今後は、Fランク以上の魔物ばかりを使うだろう。・・・そうなれば、奪還作戦どころではない。王都が落とされる。」
「・・・。」
自分の想像以上に世界がピンチだったことを知り、風太は戦慄を覚える。だが、同時に自分達異世界人が、どれだけこの世界で有利に戦えるかも分かり、風太はいい方法がないか考えた。
「・・・モーゼ。二人が俺達みたいに戦えるようになるのに、どれだけかかる?」
「先ほども言ったが、外の時間で三日もあればいい。」
「よし。なら、その間は俺と渚で王都を守って、二人が戦えるようになれば、四人で奪還作戦を・・・。」
「いや。緑川風太。君は、残りの竜をすぐに探した方がいいと思う。ここの防衛は、その青野渚に任せればいい。」
「どういうことだよ、震?」
「・・・ヤミーは、五大竜が自分に対抗できる存在だと知ってるんだろう?・・・なら、先に五大竜を消そうとするんじゃないかな?」
「そんな!さすがにヤミーもそんなこと・・・。・・・しないとは言えない・・・か。もうあれは、僕の知るヤミーじゃないからね・・・。他の竜を殺す可能性はある。」
反論しようとするソウだったが、変わり果てたヤミーを見てしまった彼は、否定ができなかった。
「でも、渚一人に守らせるのはきついと思うぞ。あの時の戦いだって、かなり辛そうだったんだ。それ以上となると、どうなるか・・・。」
「では、青野渚と話して決めるといい。彼女が大丈夫だと言えば、そなたは他の五大竜探しを行う。駄目なら、この二人の修行が終わるまで、彼女と共に王都を守る。そうすればよい。」
「それがいいな。じゃあ、俺は渚に会って・・・。」
「賢者様!」
その時、いきなりミリィがモーゼの部屋に入ってきた。
「ミリィ!?」
「ミリィ、どうしたのだ。そんなに慌てて。そなたに会うのが遅れたのは、まず陛下に話さねばならないことが・・・。」
「大変です!渚が・・・渚が・・・!」
「!渚がどうした!?」
「・・・ソウルイーターに・・・取り込まれました!」




