その頃渚は1
今回は、入浴シーンがあります。さらっとですが。
風太が自分の世界に戻っていたのと同時刻。謁見の間にて、渚は国王と謁見していた。国王は、鎧ではなく、普段の服に着替え、玉座に座っていた。
「女勇者殿。此度の活躍、素晴らしいものであった。余は感謝してもしきれん。王都を、民を、兵士達を救ってくれて誠に感謝する。」
「い・・・いいえ・・・。私は、モーゼさん・・・いえ、賢者様に魔力を渡しただけです。大したことはしていません。」
臣下の礼をしながら、渚は謙遜して答える。
「そんなことはない。女勇者殿がやらねば、王都は放棄され、余も兵士達も皆死んでおった。それを覆したのだ。これは大変な功績だ。」
「私より、風太の方が凄いと思います。魔将軍を倒したのは、風太です。」
「うむ。本来なら、勇者殿にもここで感謝の意を伝えたいのだが・・・。賢者殿から、ヤミーと対峙した際に傷を負い、療養が必要と伝達があったのだ。・・・賢者殿が一緒であるなら、大丈夫だとは思うが・・・。」
(・・・風太・・・。)
渚は、風太が心配だった。戦いが終わった後、彼女はミリィから風太のことを聞いた。ヤミーに叩き潰され、風子を助けられなかった。そして、回復のために、しばらく療養が必要だと。
(・・・せっかく風子ちゃんを助けるチャンスだったのに・・・できなくって・・・。気落ちしてないかな・・・?)
「女勇者殿。今日は、ゆっくり休まれるといい。部屋を用意させよう。」
「・・・ありがとうございます。」
渚は深々と頭を下げると、謁見の間から退室した。
「・・・騎士団長。今回、我が軍は損害なく勝利することができたが・・・次はそうはいかんだろうな。」
「・・・はい。現在、王都より南方の地域は完全にヤミーの制圧下です。今後、散発的に王都へ攻撃を行う恐れもあります。」
「・・・女勇者殿には、今後も戦ってもらわねばならぬか。」
「はい。敵も今回の敗北で、低ランクの魔物を使うことはもうないでしょう。おそらく、最低でもEかFの魔物の軍勢が来るかと。」
「・・・そうか。早く、賢者殿と勇者殿が戻ってくるとよいな・・・。」
国王は、悲痛な面持ちで天を仰ぐのだった。
「ふう。生き返るわ~・・・。」
「・・・。」
ミリィと渚は、王城にある大浴場にて入浴していた。浴場は、日本の銭湯を思わせるほど広く、浴槽も十人入ってもまだまだ余裕があるほどだった。
「怖かったわね。まさか、ヤミーが直接来るなんて。正直、生きた心地がしなかったわ。地下にいても、あんな凄まじいプレッシャーを感じたんだから。・・・さすがは神話の邪神ね。」
「・・・。」
「・・・渚、どうかしたの?」
「・・・何でもない・・・。大丈夫・・・。」
「・・・緑川風太が心配?それとも、緑川風子?」
「・・・両方・・・。」
「・・・そうよね。あなたは、緑川風子を妹みたいに可愛がっていたのよね。・・・それに、緑川風太。ヤミーに挑んで返り討ちにされたって。・・・幸い、大したことはないそうだけど、心が折れてないか心配ね・・・。」
「・・・また何もできなかった。・・・風太を助けられなかった・・・。」
渚は悔しそうな顔で、自身の肩を強く握り締める。渚の肩からは、血がにじみ出ていた。
それは、モーゼがアロンをあと一歩まで追い詰めた時だった。地下にてモーゼに魔力を送っていた二人は、突如として現れた気配に衝撃を受けた。
「!?何!?この凄まじいプレッシャーは!?」
「・・・ミリィ・・・。魔法をよく知らない私でも・・・何となく分かる・・・。・・・何か、とんでもないものがいる・・・!」
『引け、アロン。』
「!今の声は!?」
「・・・暗黒竜・・・ヤミー・・・!」
「今の声が!?」
「間違いないわ・・・。声だけじゃない・・・。これほどまで強烈なプレッシャーは・・・エリアスでも出せない・・・!」
「・・・でも・・・この声・・・聞いたことがあるような・・・?」
渚は、ヤミーの声に聞き覚えがあった。だが、どこで聞いたのか、すぐには思い出せなかった。
『・・・この大陸に住む全ての者共。我が名はヤミー。暗黒竜ヤミー。このアナザーワールドの神である。この度の戦いは反逆者共、お前達の勝利だ。だが、次はない。次なる戦いでお前達は、我が僕に勝利したことを後悔するだろう。』
「・・・!まさか・・・この声・・・風子・・・ちゃん・・・?」
「風子・・・。緑川風子ね。ええ、おそらくそうよ。ヤミーは、ヤミー自身の声と、もう一つ、子供の声を発しているのよ。」
「・・・じゃあ・・・!」
城の外に風子がいる。渚は外に行こうとする。だが、ミリィは渚の腕を掴み、彼女を制する。
「行ったら駄目!渚の力ではヤミーに勝てない!」
「でも!風子ちゃんが・・・!それに、風太が・・・!」
『・・・そうか、お前は器の兄・・・。まさか、この世界まで器を追いかけてきたというのか・・・。凄まじい執念だな・・・。』
「!風太!風太が戦おうとしている!行かないと!」
「駄目!」
『・・・愚か者め!』
突然、二人の身体に凄まじい圧力がかかる。二人は立つこともままならず、その場に倒れ伏してしまう。
「・・・何よ・・・これ・・・!?」
「・・・ヤミーよ・・・!・・・ヤミーが・・・自分の力をほんの少しだけ放出しているのよ・・・!」
「・・・これが・・・ほんの少し・・・!?」
想像以上のヤミーの力に、一瞬にして渚は戦意を喪失してしまう。これがほんの少しの力なら、本気を出せばどうなるか。想像難く、いや、想像すらできなかった。
『ふふふ、案ずるな。殺しはせん。己がいかに脆弱な存在であったかを呪いながら、裁きの日を迎えるがいい。』
すると、今までかかっていた圧力が急に消え、二人は解放された。
「・・・身体が動く・・・。」
「・・・ヤミーが消えたのよ・・・。だから、身体が動くの。・・・でも、この様子だと・・・。」
「・・・風太・・・負けたの?・・・風子ちゃん・・・助けられなかったの・・・?」
「あんなことをヤミーが言ってるんだもの。・・・当然よ。ヤミーが本気なら、私達どころか、この王都自体が消えてなくなってるわ。」
「・・・あ・・・ああ!私・・・怖くて!・・・風太助けに行かなかった・・・!自分だけ逃げて・・・!風太を見捨てて・・・!」
「落ち着いて!あなたは悪くないわ!あんなプレッシャーを受けて、気を保てる方が異常なのよ!あなたは悪くないわ!」
「風太が!風太が!風子ちゃんが!」
「大丈夫!緑川風太は生きているわ!・・・それに、緑川風子も助ける機会はあるわ!生きていれば、必ず!」
ミリィは必死に渚を落ち着かせようとするが、一向に落ち着かないため、拘束魔法で取り押さえることで、半ば無理矢理落ち着かせた。
その後、ミリィはモーゼからの連絡を受け、風太は無事ではあるが、精神的にダメージを負っているおそれがあり、しばらく離脱することを渚に話した。その際、彼女があったソウという人物が、実は凄いのだとも話していたのだが、渚の精神状態では、そこまで話が頭に入ってこなかった。
戦い自体は勝てた。だが、最大の目的である、風子の救出は叶わなかった。風太だけではない。渚にとっても今回の戦いは、敗北を通り越して完敗だったのだ。
「・・・私達の世界にいた時は、諦めさせるようなことしかしなかった!今度は、ヤミーが現れても、ちょっとの力で簡単に怖がって、風太を助けなかった!また私、風太を見捨てた!また何の役にも立たなかった!・・・これじゃあ私、来た意味が・・・!」
「渚、落ち着いて!爪がくい込んで、肩から血が出てる!」
「・・・ごめんなさい・・・。」
「・・・。」
予想以上に精神的ダメージを負っていた渚に、ミリィはかける言葉がなかった。ミリィにできることは、一刻も早い師と風太の帰還を祈るだけであった。




