妹が消えた訳
「暗黒竜?ヤミー?邪神?スライムでも驚いたけど、ますますRPGみたいだな。」
「あーるぴー?・・・よく分からないけど、私達の世界には、属性を司る竜達が、神として世界を管理維持しているの。ヤミーも元々は、そのうちの一体だったの。・・・でも、欲深い性格で、自分だけが神として君臨しようという危険な考えを持っていたの。」
(おいおい・・・完全にゲームのラスボスじゃないか。)
ラスボスのテンプレのようなヤミーの設定に、風太は心の中でツッコミを入れた。
「そして大昔、ヤミーは世界を支配するため、配下の魔物達を率いて他の竜達に戦いを仕掛けたの。」
「たった一人でか?無謀過ぎだろ?」
「ヤミーはそれだけ強かったのよ。だからこそ、自分だけが唯一の神になろうなんて傲慢な考えに至ったのよ。・・・でも、さすがに他の竜達全員には敵わなかった。ヤミーは倒されたわ。」
「負けたのかよ。馬鹿だな、そいつ。・・・?待ってくれ。そいつは倒されたんだろ?どうしてそいつが、風子を?」
「確かに、肉体は倒されたわ。・・・けれど、魂までは滅ばず、竜達は封印するしかなかった。・・・でも、ヤミーを崇拝する邪教団も滅んではいなかったの。十年位前かしら。奴らによって、封印されていたヤミーの魂が持ち出されてしまったの。魂だけでも相当な力を持っていたけど、やはり、肉体がないと完全な力を発揮できない。・・・だから、ヤミーは自分の力を万全に使えるための身体を求めていたの。」
「・・・まさか・・・風子を攫ったのは・・・!」
「ええ、ヤミーが自身の身体にするためよ。今、あなたの妹は、意識を奪われ、身体はヤミーのアナザーワールド征服に利用されているわ。もう、アナザーワールドの九割が、ヤミーの手に落ちたわ。」
ミリィの話に、風太は絶句した。
しばし、沈黙が周囲を支配する。そんな二人に風が吹き付ける。
「・・・何で・・・何で風子が!?風子は子供だぞ!それに、いなくなった時は、まだ小学生・・・!」
ようやく、風太は口を開いた。その言葉には、怒りが滲み出ていた。
「その子が、強い魔力の持ち主だったからよ。・・・私達の世界の人間とは比較にならないほどの、ね。」
「何だ、魔力って?」
「・・・この世界じゃ、持っていても意味がないものでしょうね。魔力とは、どんな生命体も持っている力のこと。これを利用して、世界の事象に影響を与える技を、私達は魔法と呼んでいるわ。」
(魔物だけじゃなく、魔法まであるのか。本当にゲームみたいな世界だな。)
「魔力が強ければ強いほど、強力でたくさんの魔法が使える。私達の世界では、魔法が使えるのが当たり前だから、そんな人間は、高い地位に就いたり、頼りにされたりするわ。・・・当然、ヤミーが器として狙うのは、そんな強い魔力の持ち主。でも、私達の世界に、ヤミーの器に相応しい人間はいなかったの。だから、ヤミーはこの世界に部下を送り込んで、自分の器になり得る人間を探させた。・・・そして、あなたの妹を攫わせたのよ。」
「その意味が分からない!自分の世界の人間が使えないからこの世界に来たのは分かった!でも、どうして風子が選ばれたんだ!ただの子供の風子が!」
「・・・私もこの世界に来た当時は疑問だったわ。どうして、あんな子供が選ばれたのか。・・・でも、この世界を調べて分かった。この世界の人間は、何故か私達の世界の人間より強い魔力を持っているんだけど、特に強い魔力を持っているのは、子供なの。しかも、幼い子供の方が強いのよ。・・・たぶん、奴らが見つけた人間の中で、一番強い魔力を持っていたのが、偶然、あなたの妹だったのよ。」
「・・・たまたまだったって言うのか・・・?・・・たまたま、一番強い魔力を持っていたから・・・?・・・たまたまそれが・・・俺の妹だった・・・?・・・そんな理由で・・・!?そんな理由で風子が!?」
ミリィの話を聞いた風太は、身体を震わせていた。言い様のない怒りが込み上げてきていた。たまたま邪神の求めていた力を持っていたため、風子は無理矢理別の世界に連れ去られた挙句、身体を邪神に奪われ、その身体を好き放題使われている。それは、何の罪もない幼い妹にとって、あまりにも理不尽なことであった。
「・・・どうすれば、風子を助けられる?」
「私と一緒に、アナザーワールドに来て。そして、他の竜達の協力を得るの。」