助けてと言えた少年
・・・目の前に誰かいる。・・・風子!風子じゃないか!よかった、見つけた!
「風子、こんな所にいたんだな。お兄ちゃん、心配したんだぞ。」
「・・・。」
「?・・・風子?」
様子がおかしい。いつもなら、『お兄ちゃ~ん』って飛び込んでくるのに・・・。
「・・・どうしたんだよ、風子?」
「・・・嘘吐き。」
「・・・え?」
・・・風子?・・・何で・・・?・・・何でそんな・・・人形みたいな顔してるんだ・・・?
「・・・お兄ちゃんの嘘吐き。風子が悪い人達に攫われたのに、助けに来てくれなかったくせに・・・。」
「!?」
・・・そ・・・それは・・・!
「助けに来てくれるって言ってたのに・・・嘘吐き。嘘吐き嘘吐き嘘吐き・・・。」
「!?風子!?」
「嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐キ嘘ツキウソツキウソツキウソツキ。」
・・・何だ?・・・風子から別の声が聞こえる・・・。・・・それに、・・・風子の身体から・・・何か出てくる!?・・・あれは・・・ドラゴン!?・・・なんて・・・禍々しいんだ・・・!
『お前には何もできん。ただただ自分が無力であることを呪うがいい。』
ドラゴンの口から・・・何か・・・!
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「はあ!はあ!はあ!」
・・・夢か?・・・いや、夢じゃないみたいだ。・・・だって・・・この空間、夢で見た場所と同じ・・・。
「・・・嘘吐き。」
「!」
ふ・・・風子・・・!・・・いつの間に・・・!?
「助けに来てくれるって言ってたのに・・・嘘吐き。嘘吐き嘘吐き嘘吐き・・・。」
や・・・やめてくれ・・・・!
「嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐キ嘘ツキウソツキウソツキウソツキ。」
ま・・・まただ・・・!またあのドラゴンが・・・!
『お前には何もできん。ただただ自分が無力であることを呪うがいい。』
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
・・・何回目だ・・・?・・・これで何回目の悪夢だろう・・・?・・・もう、数える気も失せた・・・。・・・そういえば、誰かが言っていたような気がする。ギブアップすれば助かるって。
・・・それだけは駄目だ。それを言ってしまえば、本当に風子が遠くへ行ってしまうような気がする・・・。
「・・・お兄ちゃんの嘘吐き。風子が悪い人達に攫われたのに、助けに来てくれなかったくせに・・・。」
・・・人形のようになった風子が、また俺を罵る。・・・でも、風子の言うとおりだ。助けるどころか、見つけることさえできない。
「助けに来てくれるって言ってたのに・・・嘘吐き。嘘吐き嘘吐き嘘吐き・・・。」
・・・どうすればいいんだよ。・・・俺だって頑張ったんだ。・・・でも、何の希望を見出せない。
「嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐キ嘘ツキウソツキウソツキウソツキ。」
・・・だれか・・・助けてくれ・・・!
(俺は、どんなに相手が強くても、間違ってることは間違ってるって言える人間になりたい。)
!これは・・・誰の言葉だった・・・?
・・・あの時、一瞬思い浮かんだ言葉。・・・誰の言葉だっただろう?
(いいな~・・・俺も妹が欲しいな・・・。)
・・・気楽なこと言ってたな。お兄ちゃんは大変なんだぞ・・・。
(いいじゃねーか。減るもんじゃなし。)
・・・減るんだよ。おやつは食べたら減るじゃないか。
(ダチはな、心が通じて初めてダチなんだって、親父が言ってたんだ。)
・・・ダチか。・・・そんな人間・・・俺にはいなかった・・・。
(おう、間違いなく焔だぜ。お前の親友だ。)
!
気が付くと、俺はまたあの空間にいた。でも、今は前に何もいない。さっきまで何度もいた風子のような何かがいなかった。
「・・・焔。どうして・・・俺のことを・・・。」
(俺だって、死ぬのは怖え。でもよ、俺は、ダチが苦しめられてるのを黙って見ていることの方が我慢できねーんだ。そっちの方が、俺は嫌だ。そして、そのダチの妹がどんな辛い目に遭ってるか想像するだけで、はらわたが煮えくり返る気分なんだ。それに、そんな連中が野放しになってるってことが、俺には許せねー!)
「・・・そうだ。焔はそんな奴だった。・・・俺なんかのために・・・。」
あいつはまったく変わってない。昔の馬鹿正直で、友達想いの男のままだ。震は、馬鹿馬鹿言ってたけど、本当にそうだ。気持ちのいい馬鹿だ。
「・・・あいつは自分の信じた道を真っ直ぐ進んでる・・・なのに俺は・・・。」
俺は、あいつみたいになりたかった・・・。自分の思い描く道を真っ直ぐ歩くあいつみたいに。・・・でも、俺はなれなかった。風子のヒーローになれなかった。風子を見つけないといけない。そんな風に思えば思うほど、周りの人間が邪魔をしてきた。俺が何を聞いても話してもくれないし、風子が死んだなんて言ってくるし。・・・俺の家族もそうだった。風子を見つけようとして、でも誰も協力してくれなくって・・・近所とトラブって・・・毎日喧嘩が絶えなくなったな・・・。
「気付いたら、俺はヒーローどころか、厄介者扱いされていた。渚の家族が助けてくれなかったら、どうなっていたか・・・。でも、渚だって俺の邪魔をして・・・。」
(・・・泣かないで。風子ちゃんいつでも帰ってきていいように、風太は笑顔でいないと。)
「・・・邪魔を・・・。」
(風太、家に居づらかったら、ウチに来ていいから。)
「・・・。」
(もう・・・だから言ったのに・・・。身体を壊して駄目になったら、風子ちゃんが帰ってきた時悲しむじゃない。)
・・・違う。渚は邪魔なんてしていない。俺を気遣ってくれてたんだ。俺が倒れて病気にでもなったら、風子が悲しむって・・・。俺を助けようとしてくれていたんだ・・・!
「・・・俺は、ヒーローになれなかったんじゃない。自分からヒーローになれないようにしてたんだ・・・。」
不安だったんだ。風子がいなくなるなんて、考えたこともなかった。だから、焦った。焦って周りが見えなくなった。それで、周りの人間に悪い感情を与えてしまう。でも、それに気付かないで周りが悪いみたいに思ってた。本当は、助けてくれようとしていたのに。
「・・・そうか。だから、母さんも父さんも今では立ち直ったように見えたんだ。本当は、立ち直っていないのかもしれない。でも、焦って周りの人間に迫ったり押し付けたりすることがなくなったから・・・。でも、俺はそれを、風子を見捨てたとばかり・・・。」
結局、なりたい自分を否定していたのは、俺自身だったんだ。風子がいなくなったことによる負のスパイラルに勝手に陥って、周りの人間を勝手に悪者にして、悲劇のお兄ちゃんを演じていただけだったんだ・・・。本当なら、俺を助けようとしてくれた人間だっていたはずなのに・・・。自分から手を払いのけていたんだ。周りの人間が冷たいだとか言って、自分から遠ざけていたんだ・・・。
「・・・あいつに会わなきゃ、気付けなかったな・・・。」
「・・・そうだよ。確かに、悪意のある人間もいただろうけど、君を助けようと思っていた人間の方が、圧倒的に多かったんだよ。」
「!」
突然、声が聞こえた。風子の声じゃない。あの化け物の声でもない。声のした方を振り向くと、そこには一人の少年がいた。
「!?誰だお前!?どうしてここに・・・!?」
「・・・この精神世界に連れてこさせたのは僕だからね。入れて当然だよ。」
「・・・どういうことだ?」
「一時的に君の記憶を消したんだよ。驚かせてごめんね。」
「・・・。」
・・・こいつ、何者だ?記憶を消した?・・・分からない。分からないけど、こいつの言葉、何か安心できる。初めて会うはずなのに、信じられる不思議な感じがする。
「でも、ちゃんと君は、支えてくれる人間がいてくれることに気付けた。君の周りにいるのは、決して悪意ある者じゃない。君を大切に思ってくれる人達だよ。そして、その人間に助けてほしいと言えるようになった。もう大丈夫。これからもっと辛いことがあったとしても、君は歩いていけるよ。」
「・・・。」
「さあ、君の記憶を元に戻そう。そして、目を覚めせば君は、前に進めるようになってるよ。」
・・・何を言ってるのか分からないけど・・・俺は大丈夫のようだ。・・・でも・・・。
「・・・どうして俺に、こうまでしてくれるんだ?お前は・・・いったい・・・?」
「・・・。」
少年は、微笑んだまま何も言わなかった。その瞬間、俺は凄まじい光に包まれていく。・・・ああ・・・何だか温かいな・・・。