龍との対話
「まず君は、何者なんだい?地球上の生物とは思えないんだけど?」
『僕は、アナザーワールドから来た五大竜の一体だよ。』
「アナザーワールド・・・ということは、異世界の生き物ってことかい?」
『そうだよ。名前は言えないけどね。でも、あの世界では、神様のように崇められているよ。本当の神様は、創造神だけなんだけどね。』
「創造神なんているのか。で、どうしてここにいるんだい?」
『言っただろ?緑川風太を試すためだよ。そのために、彼に頼まれたんだ。彼が試練を乗り越えたら、契約してやってくれって。・・・僕は、契約するのは好きじゃないんだけど、彼の頼みは断れないよ。』
「どうして緑川風太を試す必要があるんだい?彼と君に接点らしいものが見えないけど・・・。君と彼に、面識はあるのかい?」
『ないよ。彼に聞くまで知らなかったから。』
(この龍自身は知らない?なら、どうして彼を試すよう頼んだ人間は言ったんだ?・・・龍が言っていた記憶を垂れ流したという話・・・。まさか・・・。)
「・・・ひょっとして、緑川風太は、一度アナザーワールドに来ているんじゃないのかい?そこで、彼は君に頼んだ人間と接触した。違うかい?」
『・・・。』
何も言わない龍。だが、震はそれを肯定と捉える。
「まあいいよ。言えないなら。じゃあ、次だけど、契約ってなんだい?」
『僕の世界では、魔物と契約することで、自由に使役できる魔法があるんだよ。起源は僕達、五大竜との契約を基に作られた魔法なんだけどね。』
「魔法なんてあるのか・・・。まあ、こんなファンタジーな生き物がいるなら、あっても不思議じゃないか。それにしても、契約したら使役される・・・なるほど。それは確かに嫌だね。ロクでもない人間と契約すれば、ブラック企業さながらの扱いをされて、使い潰されるだろうからね。」
『・・・ブラックきぎょうっていうのは分からないけど、まあ、使い潰されるのは嫌だね。そもそも、僕は自由に空を飛んでいるのが好きなんだ。誰かに使役されるなんて、まっぴらなんだ。』
「・・・そんな君が、契約するよう求められるなんて・・・。頼んだ彼とは、創造神のことかな?」
『・・・。』
「・・・それも言えないか。まあいいや。で、また次の質問だけど、アナザーワールドって、どんな世界だい?」
『君達に似た人間以外に、いろんな種族が暮らす世界さ。僕以外にも、たくさん魔物が棲んでいるよ。とても楽しい世界なんだ。・・・でも、今は・・・。』
「今は?・・・ということは、今は平和じゃないわけか。となると、この誘拐事件は、君達の世界の戦争が原因と考えていいのかな?」
『・・・。』
「・・・それで、いろんな種族がいると言ってたけど、それってエルフとか、ドワーフとかかい?」
『詳しいね、君!他にもいっぱいいるけど、もしかして、君の世界にも・・・?』
「・・・残念だけど、この世界には人間しかいない。エルフとかドワーフは、空想の存在なんだよ。僕らの世界では。」
『・・・空想。僕達の世界じゃ、当たり前の存在なんだけど・・・。やっぱり、世界によって違うんだね。』
「文明レベルは?どれだけ科学が発達しているんだい?」
『科学?何それ?魔法のこと?』
「魔法とは違う・・・いや、この世界の魔法みたいなものだね。呪文は必要ないし、魔力も使わないけど。」
『へー・・・どんなものなんだろう。見てみたいな~。』
龍は、どこかワクワクした様子でいる。顔はおっかないが、どこか子供っぽい雰囲気だと、震は思った。
「・・・とりあえずはこのくらいかな。・・・で、ここからは個人的な質問なんだけど、いいかな?」
『何だい?』
「・・・魔法って、どんなものがあるんだい?」
「この野郎!よくもやりやがったなー!」
数分後、ようやく焔は戻ってきた。よほど遠くへ飛ばされて、必死に走ってきたのか、息を切らせていた。
「はあ!はあ!はあ!・・・くそ!とんでもなく遠くへ飛ばしやがって・・・!」
「・・・遅かったね。まあ、おかげで彼から色々聞き出せたよ。」
「お前・・・ダチをダシにしていいと思っているのか!?」
「ただの自爆じゃないか。ダシになったのは、結果論だよ。」
震は、焔には興味なさげな様子で一瞥すると、龍に向き直る。
「ありがとう。とても興味深いね、君の世界は。是非とも彼が目覚めたら、連れて行ってほしい。」
『いいよ。君みたいな好奇心の強そうな人間は大歓迎だよ。』
「・・・何だよ。随分と仲良くなってるじゃねーか。」
仲良く話している震に対し、焔は複雑そうな顔をする。
「・・・そうだ。君にも言っておくことがある。まず、緑川風太だけど、どうやら彼は、この龍の住む世界、アナザーワールドに行ったことがあるみたいなんだ。」
「!本当か!?」
「龍は何も言わないけど、話し方からみて、間違いなさそうだ。・・・確か、彼は自分がどうしてここまで来たか覚えていないって言ってたんだよね?」
「・・・ああ。俺は、風子ちゃんの法事が嫌で家出したと思ってたんだがよ・・・。」
「きっと、その日にアナザーワールドに行ったみたいなんだ。・・・そして、何らかの理由で記憶を消されて、僕達の町に戻された。」
「・・・でも、どうやってその世界に行ったんだよ?」
「それは分からないよ。・・・ひょっとしたら、彼の妹を攫った連中と接触したのかもね。」
「!風子ちゃんを攫った連中と接触!?どういうことだよ!?」
「これは、僕の推測だけどね。おそらく、緑川風子を攫ったのは、アナザーワールドにいる存在だ。どうやら、アナザーワールドは、今戦争中らしい。そのため、何らかの目的のため、彼女のような子供を集めていた。何のためかは分からないよ。でも、緑川風太は五年かけて、そいつらと接触して、アナザーワールドに行く手段を得て、助けに行こうとした。」
「!じゃあ・・・風子ちゃんは今・・・!」
「アナザーワールドにいるのかも。あくまで推測だけどね。でも、その推理通りなら、警察がどんなに捜しても見つからないわけだよ。まさか、犯人が別の世界の存在だなんて、誰も考えないよ。外国の人身売買組織と考えるのが普通だよ。」
「・・・。」
普通なら、ただの妄想だと一蹴するような推理。だが、目の前にこんな理解できない生き物が現れて、風太もよくわからない状態になってしまっている光景を見れば、焔も震の推理を信じざる得なかった。
「・・・でも、何で記憶が消されてたんだ?」
「彼の妹を攫った犯人の一味が消したと考えるのが妥当だね。・・・それとも、この龍本人か、龍を創造した神様本人かもね。」
「神様なんているのかよ?・・・でも、そんな奴がいるような世界なら、別の世界から風子ちゃんを攫いにくることも、風太の記憶を簡単に消すこともできるかもな。」
「まあ、すべては緑川風太が試練を乗り越えれば判明することだ。」
「!そうだ!風太だ!風太は大丈夫なのか!?」
『大丈夫だった言ってるじゃないか。まあ、駄目なら彼は、二度と妹を捜そうだなんて思わなくなるけどね。』
「・・・どういうことだよそれ・・・?」
「・・・なるほど。彼はきっと、妹を攫った犯人と接触したんだ。・・・でも、その時相当辛い目に遭ったんだ。きっと、心が折れるような目に・・・。」
「・・・まさか・・・風子ちゃんが殺されたんじゃ・・・!?」
「それはないと思うよ。それならこの龍が試練を課すはずがない。たぶん、まだ生きているよ。・・・たぶんね。」
「・・・おい、風太。しっかりしろ!風子ちゃんを助けるんだろ!一人で倒れてるんじゃねー!」
焔は、風太に呼びかける。風太は、まったく目を覚ます様子はなく、意識を失ったままだった。