謎の龍現る
「・・・この町が、その事件が起こった町か・・・。」
電車に乗り、風太達は隣町の犯行現場と思われる場所に来ていた。そこは、何もない空き地だった。
「元は公園だったらしいけど、あの事件が起きて以降、遊具が撤去されて、空き地になったそうだよ。」
震は、電車内でタブレットを使って情報収集した結果を二人に告げる。
「何もねーんじゃ、調べようがねーぞ・・・。」
「行方不明の子供の家族に会う・・・のは駄目だね。変な目で見られて、警察に通報されるだろうし・・・。」
「・・・?なあ、空き地の中心に、何か見えないか?」
風太は、空き地の中心に、何か渦のようなものが見え、それを二人に言う。
「?何だよ?何もねーぞ?」
「そうだね。特に、変わったものは見えないよ?」
二人は、何もないと言う。二人には、渦など見えず、ただの空き地にしか見えていなかった。
「そんな馬鹿な!だって・・・!」
風太は、空き地に入り、渦の前に行く。
「ほら、ここに・・・。・・・!?」
その時、風太の身体は渦に徐々に吸い込まれていく。
「!?何だ!?」
「!?風太!?」
「どうしたんだ、突然!?」
二人には、風太が突然、見えない何かに引っ張られているようにしか見えなかったが、それでも異常事態であることは理解できた。二人は、風太を助けるべき、風太の腕を掴む。
「おい!大丈夫か!?」
「!馬鹿!手を離せ!吸い込まれるぞ!」
「くそ!どうなってんだ!?何か、凄い力に引っ張られてんぞ!」
(・・・これは、何かある・・・!僕と焔には見えない・・・何かが・・・!)
風太の制止を聞かず、二人は手を離さない。そのまま三人は、渦の中に吸い込まれ、空き地から姿を消した。
「・・・ここは・・・どこだ・・・?」
風太達は、奇妙な空間に立っていた。そこは、空も地面もない、ただただ何もない空間だった。
「・・・真っ白だ。・・・何もない。・・・俺達は、確か空き地に・・・。」
「・・・どうなってるんだ、この空間は?バーチャル空間?・・・いや、ひょっとしたら、異次元?」
三者三様の意見を口にしていた彼らの前に、突如として強い風が吹く。
「!?何だ・・・!」
すると、目の前に巨大な生物が現れた。それは、緑色の体色で、外見は東洋の龍の姿をした、とても巨大な生物だった。
「・・・ドラゴン・・・!?」
「・・・正確には龍だよ。竜とは全くの別物だよ。」
「・・・いやに冷静だな・・・。」
『やあ、こんにちは。この世界の人間達。』
目の前の龍は、突然人間の言葉を発して、会話してきた。
「!?しゃべった!?」
「そんな馬鹿な!声帯器官がある生き物には・・・!・・・まさか、特撮か!?誰かが入ってしゃべっているんじゃ・・・?」
『・・・中の人なんていないよ。僕は、れっきとした生き物だよ。ただし、この世界の生き物とは違うけど。』
龍は、どこか困惑した様子を見せながら、自分がこの世界とは違う世界の存在であると説明する。
「・・・別の世界?つまり、次元を越えてきたというのかい?」
『君は、なかなか呑み込みが早くて助かるよ。そう僕は、ある人物に頼まれて、ここにいるんだよ。』
震の的を射た説明に、龍は満足げに言う。
「ある人物?」
『その人物から頼まれたんだ。今から、そこにいる緑川風太を僕が試すように言われてね。』
「?俺?」
「?風太を?」
いきなり目の前の龍が風太の名前を言い、風太と焔はギョッとする。何故この龍は、自分の名前を知っているのか。
「・・・まさか・・・風子を攫った犯人は・・・この龍なのか・・・!?」
『ああ、それは僕じゃない。ただ、犯人は知ってるよ。教えてほしい?』
「知ってるなら話ははえー。早く教えろよ。」
『それは駄目だよ。緑川風太が、僕の眼鏡に適わないと教えてあげられないね。』
「こいつ・・・!」
「・・・それで・・・どうやれば妹のことを教えてくれるんだ?」
『ふふふ。君の本気度を試すんだよ。本気で妹を助けたいと思えば、楽なものだよ。』
龍は、どこか含みのある物言いをする。
「おう、風太受けてやれ。このドラゴンに、お前の本気を見せてやれ!」
「・・・あ・・・ああ・・・。」
風太は龍の目の前に行く。目の前にすると、龍はさらに大きく感じた。
『じゃあ行くよ。無理ならギブアップって言えば大丈夫だよ。』
「・・・分かった。・・・やってくれ。」
『じゃあ・・・えい。』
「!!!」
その瞬間、風太の脳内に凄まじい速度で映像が流れ込んでくる。その映像は、消されていた風太の記憶なのだが、今の風太には知る由もなかった。そして、その映像は、ヤミーに身体を奪われた風子に、圧倒的な力で押し潰された光景だった。
「があああああ!?」
風太はそのまま倒れ込んでしまう。
「!風太!おい!風太!?」
焔は必死に呼びかけるが、風太は目を覚まさない。
「・・・おい!てめぇ!風太に何しやがった!」
『彼が消した記憶を垂れ流しにしただけだよ。』
「・・・『彼』・・・だとぉ・・・!?それに、記憶を消した!?」
「・・・焔、この龍はただの怪物じゃなさそうだ。かなり高等な知性を持っている。下手をすれば、僕たちより・・・。下手に刺激するのは・・・。」
震は、二人と龍のやり取りを観察し、龍を冷静に判断していた。だが、幼馴染をどうにかされた焔にはそんなことできるわけがなかった。
「おい!お前の後ろに誰かいるんだ!答えろ!」
『・・・少し静かにしてくれないかな?』
龍はそう言うと、軽く息を吐く。しかし軽く吐いただけにも関わらず、焔は遥か遠くまで吹き飛ばされてしまう。
「うおお!?何じゃこりゃあああ!?」
「・・・脳筋。」
分かってはいたが、あまりに予想通りの展開に、震は呆れていた。
「・・・まあ、馬鹿がいなくなってようやく君と話せるね。・・・いくつか聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
『話していい範囲内ならね。全部話すには、この緑川風太が試練を乗り越えないと駄目だよ。』
「分かった。話せる範囲でいいよ。」
震は、龍との対話を開始するのだった。