天才ハッカー
「来たか、震。」
玄関まで迎えに来た焔は、玄関に立つ少年に親しげに声をかける。少年は、黄色い髪で焔と同じ制服を着、眼鏡をかけていた。だが、その表情は、どこか機嫌が悪そうだった。
「・・・授業サボらせてまで、僕に何の用?」
震と呼ばれた少年は、不機嫌そうな様子で焔を睨んでいた。
「お前のハッカ飴としての能力を借りたいんだよ。」
「・・・ハッカーだよ。お菓子じゃない。」
焔の言葉に、震はさらに不機嫌な顔になる。
「・・・焔。こいつは?」
「こいつは黄沢震。俺のダチだ。」
「・・・勝手にダチ呼ばわりしないでくれるかな?僕は、単なる同級生だよ。」
友達と言う焔の言葉を否定し、震は、風太の方を見る。
「・・・君が、緑川風太だね。まあ、僕のことは、気安く震でいいよ。」
「・・・分かった、震。」
「・・・で、何をハッキングすればいいんだい?」
「・・・警察のデータベースね・・・。」
震は、自分のノートパソコン―奇妙な装置と接続していた―を気怠そうにタイピングしながら、ターゲットの確認をする。
「ああ。大規模な子供の失踪か誘拐事件の捜査情報が欲しい。だいたい、五年前くらいの奴だ。」
「事件の種類に年数も指定するかい?・・・そうなると、結構絞り込めそうだ。案外楽にいくかも。」
「・・・本当に・・・できるのか?・・・警察のデータベースなんて・・・セキュリティが厳重そうじゃないか?無理なんじゃ・・・?」
「失礼だね。僕が本気を出せば、下手な国の国家機密くらい余裕で盗めるよ。」
風太の不安に対し、震は当然のように言い放つ。
「じゃあ、五分ほど時間をもらうよ。君達は、静かに待っていてくれ。ハッキングは、繊細だからね。」
震はそう言うと、先ほどまでの気怠そうな表情から一転、真剣な表情で、パソコンを操作し出す。
「・・・すごい速さだ・・・。」
「だろ?こいつは天才ハッカ飴なんだよ。」
「ハッカ飴?・・・ハッカーか。って、ハッカーってデータとか盗む犯罪者のことじゃ・・・?」
「それは、クラッカーだ。全然別物だ。飴とクッキーのように違うぜ。こいつは、犯罪者じゃねーよ。そもそも、そんな奴を俺がダチにすると思うか?」
「・・・五年間騙されてたお前が言っても説得力に欠けるな・・・。」
「・・・ま、まあ!こいつは悪人じゃねーから安心しろ!それに、欲しい情報をすぐ手に入れてくれるはずだ。」
「・・・本当か・・・?」
「・・・ねえ。」
不意に、震がこちらを向く。
「何だ?何か問題か?」
「もう見つけたよ。お目当てのデータ。」
「マジか!?まだ三分もかかってないぞ?」
「この程度のセキュリティじゃ、僕に盗ませてくださいと言ってるようなものだよ。さあ、早く見て。時間はあまりないから。」
震に急かされ、焔と風太はデータを見る。
『五月三日 ○○町にて失踪事件が発生。失踪者は、佐藤花子ちゃん、当時十歳。』
「・・・違う。これじゃない。」
「何、別の事件の情報見せてんだよ!」
「・・・五年前と子供の失踪・誘拐事件で絞ったんだ。あとは、君達で確認してくれ。・・・ああ、後五分もしたら、逆探知に引っ掛かるから、その前に強制切断するよ。」
「!それを早く言え!」
慌てて二人は、事件データを確認する。そして、ようやく風子の情報を見つけた。
『十月二十日 四元町にて失踪事件が発生。失踪者は、緑川風子ちゃん、当時八歳。』
「これだ!間違いない!風子がいなくなったのも、この日だ!」
「・・・続きがあるな。読んでみようぜ。」
『失踪の際、不審なフード姿の男が確認されていることから、彼女の失踪も、同一犯による犯行である可能性が高い。』
「・・・?フードの男?・・・失踪も?・・・同一犯?・・・どういう・・・?」
「鈍いね。君の妹以外に攫われた子がいたってことだろう?しかも、同一犯に。」
「・・・時間ギリギリまで、他の事件のデータも見てみようぜ。」
こうして焔達は、切断ギリギリまで、データベースの情報を閲覧した。そして、風子と風子と同時期に行方不明になった子供達の中に、共通点がある子供が何人かいることが分かった。
一つ、行方不明になった時期は、全員十月。
一つ、行方不明になった子供の性別は、全員女性。
一つ、行方不明になった子供の年齢は、皆八歳ということ。
一つ、行方不明になった子供の家族構成は、必ず上の兄弟、姉妹が一人いること。なお、兄弟との年齢差は、最大三歳差。
一つ、行方不明になる前後、フードを被った男が目撃されていること。
一つ、どの事件も未解決だということ。
「未解決事件なんて珍しいことじゃねーのは分かってる。特に、行方不明なんて、見つからねーことが多いんだと。・・・でも、この時期に集中してるってのは、何か異常だ。しかも、同じ格好の不審者が目撃されてるってのも、変だ。」
「・・・こうなると、組織的な犯行なのは間違いないね。国際的な犯罪集団かな?」
「な~に、相手が何であれ、俺達がぶっ潰しちまえばいいんだよ。」
「・・・君は馬鹿かい?五年経っても解決していないってことは、警察も下手に手が出せない組織ってことだよ?腕力馬鹿の君に何ができるんだい?」
「んだと!?」
楽天的な焔に対し、震は呆れて苦言を呈する。
だが、もう一方の風太の方は、何故か、震えていた。
(・・・風子を攫った連中が・・・国際犯罪組織?・・・駄目だ・・・勝てるわけない・・・!風子を・・・取り戻せるわけない・・・!)