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緑川風太対魔将軍ヴァサーゴ

 モーゼとアロンが戦っている頃、風太とヴァサーゴは切り合っていた。強化された身体能力を利用して剣を振る風太、鍛え上げた技術と長きに亘る経験から剣を振るヴァサーゴ、二人の剣は、何度もぶつかり合い、火花が散る。風太の剣は、凄まじいスピードとパワーだが、ヴァサーゴはそれをことごとく弾いたりいなしたりして、届かせない。一方のヴァサーゴの剣は、的確に風太の急所や死角を捉え、そこを狙ってくるが、風太は強化された身のこなしと反応速度でそれを回避する。

 (力押しでどうこうなる相手じゃない・・・!俺の攻撃を的確にさばいてる!)

 (際どい所を狙ってはいるが、うまくかわしている。想像以上に身体能力が強化されているな・・・!)

 風太は、魔力と身体能力に勝るも、技術が未熟で決定打にならず、ヴァサーゴは、経験や技術に勝るも、身体能力が劣るために風太を仕留められないという、膠着した戦いとなっていた。

 (・・・なら・・・魔法で・・・!)

 「【ブレイジングスロワー】!」

 「!」

 風太が魔法で攻撃しようと思った矢先、ヴァサーゴが先に魔法を発動した。広範囲を焼き払う火炎放射が、風太に向けて放たれる。風太は攻撃しようとしていた魔法を自身の下に飛ばし、ハイジャンプしてかわす。

 「・・・火属性の上級魔法か・・・厄介だな。」

 風太は、属性について学んだことを思い出していた。

 属性には、相性と呼ばれるものがあり、相性が悪いと、威力が激減したり、通常受ける以上のダメージを負ってしまうのだという。火は風に強く、水に弱い。水は火に強く、土に弱い。土は水に強く、風に弱い。風は土に強く、火に弱い。基本的な属性の相性はこれである。なお、光と闇は、互いに有利であり、弱点でもある属性である。つまり、風使いの風太と、火使いであるヴァサーゴは、属性的にヴァサーゴが有利なのだ。

 だが、この属性間の有利不利は、仲間と共に戦う時に意外な使い方ができたりもする。例えば、風魔法を使って火魔法の火力を上げるといったように、弱点であることをあえて利用した使い方もできる。先のガルーダとフレアバードを利用した作戦は、この相性を利用した火力強化の殲滅戦法だったのだ。だが、今度はその戦法を逆に利用されてしまう恐れがある状況だった。

 (・・・まずいな・・・俺の属性的に、魔法で押し切るのは無理だ!下手をしたら、敵の火力を上げてしまう!・・・どうする・・・?)

 「【ブレイジングスロワー】!」

 ヴァサーゴは尚も、火魔法で風太を攻撃する。風太は近付くことができず、攻めあぐねていた。一方、ヴァサーゴは、自身の属性が有利であることを利用し、かわされても、風太が逃げられないように周囲に火を付けて囲みを作るようにしていく。徐々に、風太は炎の囲みに追い込まれていく。

 「どうした?このままでは焼け死ぬか、剣で死ぬかの二つに一つだぞ?」

 「くっ!」

 追い詰められる風太。ヴァサーゴは、勝利を確信していた。

 (だが、念を入れておくか。)

 「【バーニングウェポン】!」

 ヴァサーゴは、自身の剣に魔法をかける。彼の剣の刀身が、炎に包まれる。

 「マジかよ・・・そんな魔法もあるのかよ!」

 「これでは回避もままなるまい!」

 ヴァサーゴは勝負を決めるべく、風太に向かっていく。

 「これで終わりだ!死ね!」

 「戻れ!フレアバード!」

 その時、風太はフレアバードをサモンカードに戻す。風太の手に、フレアバードのサモンカードが握られる。

 「【サモン・フレアバード】!」

 そして風太は、再度フレアバードを召喚する。

 「そんな低ランクの魔物に何ができる!」

 ヴァサーゴはフレアバードを剣で切り付ける。普通なら、フレアバードなど簡単に切り裂くことができるヴァサーゴの魔剣だが、何故かフレアバードを切ることはできなかった。

 「!?馬鹿な!?何故こんな低級モンスターを切れん!?」

 「・・・やっぱり、属性を付与する魔法をかけたら、その属性の攻撃になるのか。」

 「!」

 フレアバードは、火山で生まれる。その身体は、触れたものを焼き尽くす灼熱の炎そのもの。つまり、火属性でダメージを負うことがないのだ。

 そして、フレアバードには、もう一つの能力がある。

 「炎を吸収して吐き出せ!」

 『了解した。』

 フレアバードは周囲の炎を吸い込んでいく。一気に周りの炎がフレアバードに吸収されて消えていく。

 『吸炎の息吹アブソーブブレス!』

 フレアバードは、吸い込んだ炎をヴァサーゴに吐き出す。ヴァサーゴは咄嗟に魔法障壁で防御し、直撃を防ぐ。

 フレアバードが吸い込んだ炎を全て吐き出し終えたと同時に、風太はフレアバードをカードに戻す。攻撃が止み、ヴァサーゴは障壁を解除する。

 「・・・とんでもないことを考える・・・!」

 「フレアバードは、通常はEランク、中くらいの魔物だ。でも、周囲に炎があれば、高ランクの魔物にも一矢報いるくらいできる特殊能力を持つ。契約しておいてよかったぜ。」

 「おのれ・・・!まだ勝負は・・・うう!?」

 その時、ヴァサーゴが体勢を崩した。

 (な・・・何だこれは・・・!?・・・何が起きた・・・?)

 「!今だ!」

 風太はその隙を見逃さず、風魔法を推進力にしてヴァサーゴに迫る。

 「ちぃ!」

 ヴァサーゴは魔法障壁を展開し、剣に魔力を込めて防ごうとする。だが、その瞬間、凄まじい頭痛と吐き気、倦怠感に襲われた。

 「うぐ!?」

 魔法障壁は展開せず、魔力の充填もできなかった。ようやくヴァサーゴは、自分の身に何が起こったのか理解した。

 (・・・魔力・・・切れ・・・だと・・・!?)

 それを理解した時には、ヴァサーゴの身体は、頭部から股にかけて両断されていた。


 「・・・ふう。危なかったぜ。敵が魔力切れ起こさなければ、勝てたかどうか・・・。」

 体内の魔力が枯渇すれば、それにより体調が崩れる。これを魔力切れと呼び、魔法を学び始めの魔法使いはよくなるのだという。未熟故に、自身の魔力の限界が分からずに魔法を使いまくり、知らず知らずのうちに魔力が尽きてしまうのだ。

 皮肉にも、魔人となって膨大な魔力を手に入れてしまったがために、ヴァサーゴは魔力切れなど今まで起こすことがなかった。枯渇どころか、半分も消耗する前に敵を倒してしまっていたからだ。その結果、今回のような常時魔剣に魔力を充填して攻撃力を維持する、上級魔法の連発、高出力の付与魔法、高硬度の魔法障壁の展開といった大量に魔力を消耗してしまう戦いを平気で行ってしまったのだ。もし、人間なら、こんな無茶苦茶な戦いはしなかっただろう。行うにしても、自身の魔力を考えてやっただろうが、ヴァサーゴは、有り余る魔力を勢いに任せて使いまくり、魔力が切れてしまったのだ。そして、魔力切れを起こした際も、魔力切れとは無縁だったため、気付かなかったのだ。もし、彼が人間だったのなら、このような結果にはならなかったであろう。彼は、魔人になる前は、経験豊富な優れた魔法戦士であったからだ。体力や魔力のペース配分をきっちり考えて戦うことができる人間だった。そうなれば、風太の方が負けていただろう。所詮、風太は魔剣の力と魔力だけで戦っていたのだから。だが、人間を捨てたがために、強大な力に溺れて無意識のうちに慢心し、魔法使いなら常識の魔力枯渇を失念してしまったのが、彼の敗因となったのだ。

 「あとは、魔物の知識が少なかったのも助かった。フレアバードの特殊能力を知らなかったんだからな。・・・もっとも、こいつは結構レアな魔物だってガルーダは言ってたな。」

 『我が契約者よ、どうやら片付いたようだな。』

 『ガルーダ、そっちはどうなった?』

 『魔物共は全滅よ。所詮は地の這うもの共。我の敵ではない。』

 『そうか、よかった。』

 『・・・それにしても、お前はまだ余裕がありそうだな。あれだけの戦いをしておきながら、まだ動けるとは。』

 『そうでもない。結構ギリギリだった。とりあえず、ありがとな。戻れ、ガルーダ。』

 風太はガルーダをカードに戻す。

 「・・・あ、あいつの剣。」

 風太は何気なく、ヴァサーゴの使っていた剣を手に取る。

 (・・・いい剣だな。でも、ブラフマーに比べれば、色々劣る感じがするな。それであれだけ戦えてたんだから、本当にヤバい奴だったんだな。本当に運がよかった。)

 「これで仕舞いだ!アロン!」

 モーゼとアロンの戦いも、あと一歩でモーゼが勝つところだった。

 「・・・本当に何とかなったな。・・・!」

 その時、凄まじい殺気を風太は感じ取った。素人の自分でも明らかに敵意を向けられていると分かるほどの凄まじさである。

 「!まずい!ここから離れないと・・・!」

 風太は身体強化と風魔法を併用し、今までいた場所を離れる。すると、風太が今までいた場所に、凄まじい闇のエネルギーが降り注ぐ。

 「くっ!風魔法全開!」

 風太は、とにかくこの場から離れようと風魔法を放ち続ける。そして、ようやく振り切ることに成功する。

 「はあ!はあ!はあ!・・・何なんだ・・・これは・・・!?」

 風太は、今まで自分がいた所が、巨大なクレーターと化していたのを見、愕然とした。もし、直撃していたとしたら、自分は死んでいた。今までの安堵感が、一気に恐怖に変わった。

 「・・・マジかよ・・・こんなの撃てる奴がいるのかよ・・・!魔将軍や魔王なんて子供騙しじゃないか・・・!」

 『引け、アロン。』

 突然、周囲に何者かの声が響き渡る。その声は、不気味な男の声と、可愛らしい女の子の声が重なっているように聞こえた。だが、風太には、この声は聞き覚えがあった。

 「・・・この声・・・まさか・・・!」

 風太は声のした遥か頭上を見る。そこにいた存在に、風太は愕然とする。

 「・・・風・・・子・・・?」

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