表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/161

勇者の戦い

渚の口調を変更します。

 風太は、風魔法を推進力にして、敵の大軍に突っ込むと、最初の魔物を剣で切り付ける。凄まじいスピードの突進と斬撃は、易々と魔物の身体を切り裂き、絶命させた。

 (・・・こいつは・・・たしか、ゴブリンだったな。ランクは・・・この強さならHかGだな。)

 そのまま風太は、周囲にいるゴブリン達を次々に切り倒していく。ゴブリン達は、手に武器は持っていたが、粗末な棍棒や錆びた短剣では、風太の使う剣には敵わず、武器諸共切られていく。

 (・・・武器を使った訓練は、それほどやっていなかったが、ゴブリンくらいなら武器の性能でごり押しできるな。)

 そのうち、ゴブリン以外の魔物も風太を襲うようになった。まず現れたのは、大型の狼の魔物、ハイウルフである。群れを成して家畜や人間を襲うこともある凶暴な魔物で、単体でもゴブリンより危険な魔物である。さすがに狼だけあり、ゴブリンとは比較にならないほどの速さで動き回るため、風太は剣での攻撃を諦めると、魔力を手に込める。

 「【エアバレット】!」

 風太の手から、圧縮された空気弾が放たれ、ハイウルフの身体に巨大な風穴を開ける。いや、身体を粉々に吹き飛ばし、頭部と足の先端、尻尾だけにしてしまったのだ。

 (・・・意外とグロいことになったな。でも、今の俺じゃあごり押しできるのはゴブリンが限界みたいだ。ここからは、魔法で戦った方が確実だし安全だ。)

 次に襲ってきたのは、人間の子供並みの大きさの鶏、デビルコッコである。通常、鶏はあまり飛ぶことはないが、このデビルコッコは上空から風太に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 「・・・鶏のくせに空飛ぶのかよ。」

 風太は呆れながらも、魔法を発動する。

 「【ウィンドカッター】!」

 デビルコッコは抵抗する間もなく、風の刃に切り裂かれ、血と肉片と夥しい羽根を散らしていた。

 (・・・さっきのウルフも鶏も、Fじゃないな。よくてGが妥当か?)

 それからも、一つ目の蝙蝠、牙の生えた兎、毒々しい色をした大きなカエル、大人並みの大きさのカマキリと、多種多様な魔物が風太を襲うが、風太は近付かれる前に、魔法で的確に仕留めていく。仕留められた魔物は皆、原形を留めていなかった。

 (中々見つからないな、強そうな魔物。・・・お。)

 風太が気が付くと、先ほどまで戦っていた魔物達が、もの凄い数で、自分の周囲を取り囲んでいた。魔物達の目には、風太に対する敵意と怒りが見て取れた。

 (仲間を殺されたことに対する怒りか。ま、近付いてくれてこっちとしてはありがたいが。)

 魔物達は、一斉に風太に殺到する。風太は焦らず、冷静に魔法を発動する。

 「【ウィンドハザード】!」

 風太の周囲に、猛烈な風が起こり、魔物達を上空高く吹き飛ばし、切り刻んでいく。周囲にいた魔物達は、残らず細切れの肉片と化していた。

 「・・・自分で使っておいてなんだが・・・下級魔法の威力じゃないな、これ。これで中級使えば、どうなるんだろうな・・・。」

 気を取り直して風太は、次の敵に目標を定めようとして、ふと気付く。

 「・・・無理して接近する必要もないか。」

 風太は、敵の大軍に向けて、魔法を放つ。

 「【エアロバースト】!」

 風太から放たれた突風が、敵の大軍を一気に吹き飛ばしていく。風太はそれを繰り返していくことで、敵の数をどんどん減らしていくのだった。

 ちなみに、風太が吹き飛ばした魔物の中には、Fランクの魔物が多数いたのだが、規格外の【エアロバースト】をくらい、自分の身に何が起こったか理解できないまま絶命していった。

 それから随分時間が経ち、ようやく歩兵部隊が到着した。風太によって、Fランクの敵がほとんど倒され、生き残った魔物達も風太の強さにすっかり戦意を喪失して浮足立っており、歩兵部隊はさして苦戦することも無く、魔物達を掃討していった。


 「・・・風太ったら・・・もうあんな所に・・・!」

 一方、渚は風太からかなり離れた場所にいた。風太のように、風魔法を使えない彼女は、短時間で敵の前線に行くことができないので、地道に走って向かっていた。まだ、敵との距離は相当あり、このままでは、接敵する前に体力が尽きてしまうだろう。

 「勇者殿!自分の馬に乗ってください!これなら走るよりずっと早く着きます!」

 そこに、馬に乗る部隊長と思われる兵士がやって来て、渚に乗るよう促す。

 「・・・いいえ、大丈夫です。・・・身体は届かなくても、魔法なら・・・!」

 渚は、こちらから接敵することを諦め、魔法による遠距離攻撃を開始する。

 (・・・水魔法は、水全般を扱えるってミリィは言ってた。雨も水・・・!)

 「【レインアロー】!」

 渚が放出した魔力が、敵の大軍の上空に雨雲を生み出す。そして、その雨雲から、矢の形をした雨が無数に降り注いだ。上空からの無数の矢をかわすことなどできず、雲の下にいた敵は、あっという間に全滅した。

 「・・・よし、このまま雨雲の範囲を広げてやっつけてやるんだから・・・!」

 渚はさらに、魔力を雲に込める。雲はどんどん大きく広がっていき、矢の雨が降る範囲も同様に広がっていく。それがさらに、敵を屍に変えていく。

 「・・・すごい・・・!ここまで強力な中級魔法は見たことがない・・・!よし、今だ!一気に敵を押し返すぞ!」

 渚の魔法に感銘を受けた部隊長は、兵士達に突撃を指示し、自身も槍を手に突っ込んでいく。ただ、彼は勘違いをしていた。渚の使った魔法は、中級魔法なのではなく、下級魔法なのだから。

 (・・・一応、ミリィから中級魔法も教えてもらったけど・・・本命が残っているんだから、ここは温存いないとね。でもよかった。敵が思ってたより弱くて。)

 渚は一緒くたにしていたが、【レインアロー】で仕留めた魔物の中には、Fランクの魔物がいたのだが、風太ほどではないにしろ、規格外な力を持つ渚の魔法の前では、G、Hとさほど変わらず、無残に死んでいくのだった。

 最終的に、ここも風太の戦っていた場所と同じ様に、王国軍は圧倒的な攻勢で魔物達を殲滅していくのだった。こうして、戦闘開始から一時間も経たないうちに、敵の先発隊は壊滅的な打撃を受け、生き残った魔物も散り散りになってしまうのだった。

 

 「・・・陛下、優勢です。勇者殿の活躍により、魔物達は壊滅的な被害を被りました。おかげで我が軍は、負傷者が十数人ほど出た程度です。」

 後方で戦況を見守っていた団長は、国王に戦況を伝える。後方でも二人の活躍により、敵の大軍が壊滅していく様が見て取れた。

 「・・・さすがは勇者殿。未だ修行中の身でこれほどとは・・・。修行を終えていればと思うと、無念でならん・・・。」

 「陛下、ご悲観なされなくとも、このままいけば、或は・・・!」

 「・・・。」

 二人の活躍に、微かな希望を持つ団長だったが、国王の表情は暗かった。

 (・・・残念だが、今の勇者殿達では、魔将軍は倒せよう。・・・だが、魔王には勝てぬ。・・・この軍を統べる魔王は、ヤミーを復活させたあの男なのだから・・・。)

 国王は、背後の王都の方を向く。

 (・・・賢者殿・・・後のことは・・・。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ