王都防衛作戦
「・・・俺達が・・・ですか?」
国王の言葉に、風太は困惑する。
「そうだ。・・・残念ながら、現在王都を守る騎士団は、五千にも満たない。だが敵は、数の上でも質の上でも強大だ。総大将に魔王の一人がいる上に、魔将軍が三人もいる。魔将軍はランクで言うならA相応、魔王に至っては、S相当だ。・・・とても太刀打ちできない。」
「・・・ま・・・待ってください!俺の今の力じゃ、Bランクまでしか通用しません!それに、魔法はともかく、接近戦はまだそこまでできていません!渚だって、まだ・・・!」
「案ずるな。手は打ってある。賢者殿、勇者殿に説明を。」
国王の言葉に、モーゼが詳しい作戦を語る。
今の風太達では、軍勢はともかく、魔将軍や魔王と戦うには荷が重すぎる。そこで、モーゼが考えた作戦は、自身の超級魔法で一気に殲滅することだった。だが、超級魔法は威力は絶大だが、発動までに時間を要する。その発動までの間、風太達には敵を抑えておいてほしいのだとモーゼは言う。
「じゃあ、魔王や魔将軍を倒せって訳じゃないんだ・・・ですね?」
場所が場所なので、風太はモーゼに対しても丁寧な口調で会話する。
「うむ。そなたと青野渚には、騎士団と共に敵を抑えてくれればいい。だが、先に来るのは雑兵のみの先発隊。魔王達はいない。つまり・・・。」
「最低でも先発隊は倒さなければ駄目ってことですか。」
「その通りだ。だが、先発隊だからといって、油断はできん。兵力は、最低でも五千。我々とほぼ同数の兵力だ。ランクは、大半がHかG相当だが、Fも多数いるようだ。」
モーゼの隣にいる団長が、先発隊の戦力を説明する。
(Fランク・・・確か、兵士が大勢で戦わないといけないほどの強さだったな。そんなのが混ざっているのか。・・・厄介だな。)
一般人でも準備次第で対処できるH、武装した兵士がいれば倒せるGとは違い、Fは最低でも十人以上の完全武装兵士で戦わなければいけない危険な魔物である。単体なら、適正な人数を組んで挑めばいいが、大軍、しかも乱戦となれば、他のランクの魔物に混じってしまい、気付かず戦って返り討ちに遭ったり、他の魔物に気を取られている最中に襲われたりしてしまうおそれがある。自分はともかく、他の騎士達では、確かに危険だと風太は思う。
「では、俺と渚がFランクの魔物を優先的に潰していって、他の魔物は騎士団の方が対処する・・・ということですか?」
「そうだ。低ランクの魔物なら、騎士団で対処可能だ。それ以外の魔物を、勇者殿達にお願いしたい。もちろん、余裕があれば、低ランクの魔物の対処もお願いしたい。いくら弱くても、何千もの相手は、やはり厳しいのだ。」
「そして、先発隊を片付ければ、魔王自ら攻めてこざるを得ない。そこで、私が魔法を発動するまでの間、耐えてほしいのだ。」
「つまり、先発隊を温存した状態でさっさと片付けて、魔王達の攻撃に耐えろという作戦ですね。・・・無茶苦茶だ。」
「だが、現状これ以上の作戦はない。・・・最悪、エリアスを召喚して殲滅することも考えたが、青野渚の今の力では、エリアスを長時間戦わせることはできまい。」
「そうなのか、渚?」
「召喚してただ空を飛ぶとかなら、問題ないけど・・・戦闘は無理なのよ。今の私じゃ、エリアスが戦えるほどの力を与えていられるのは、十分が限界よ。」
渚は、非常に悔しそうに言う。
「十分か。確かに、不安だな。・・・!そうだ、渚。敵の本隊が来るまで、渚は待機してくれないか?」
「え?どうして?」
「十分は、エリアスは戦えるんだろう?なら、魔王と魔将軍が来た時に召喚して、一気に倒すんだ。もちろん、モーゼ・・・様の詠唱は続けてもらう。これなら・・・。」
「良い意見だが、それは無理だ。」
エリアスは、ランクでいうなら最上位のEX。魔王はその下のS。普通に考えれば、楽勝なのではないかと風太は考えていた。だが、モーゼはその意見を却下した。
「何故・・・です?」
「そなたなら、ブレス一発分は、EXランクの強さを出せるかもしれん。・・・だが、青野渚では、エリアスの力は引き出せてAランク相当だ。・・・魔将軍を単独で倒すことはできても、三人同時にかかられれば勝てぬ。ましてや、魔王には勝てん。そうなれば、間違いなくエリアスは死ぬ。五大竜は、この世界の最後の希望なのだ。失うわけにはいかん。」
「・・・なら、せめて俺の魔物だけでも・・・!ガルーダはBランクだけど、俺と組めば、Aランクくらいならなんとか・・・!」
「ならん。そなたの魔力が膨大なのは分かっているが、召喚して無駄な魔力を使うより、魔法で攻撃した方が無駄がない。ガルーダは確かに強力な魔物だが、先発隊はともかく、本隊と戦うのは荷が重すぎる。死なねば、カード化して回復を待つこともできようが・・・魔王の攻撃を受ければ、確実に死ぬ。」
「・・・。」
「故に、この度の戦いは、そなた達と騎士団のみで戦ってもらうほかない。・・・分かってほしい。」
「・・・。」
モーゼにそう言われたものの、風太はまだ何かいい方法があるはずだと、懸命に思考を働かせていた。だが、結局何も思い浮かばず、この作戦に従わざるを得なかった。
「・・・勇者殿達は、もう行ったか?」
風太と渚が退室した後、残った国王は、同じく残ったモーゼと団長に声をかける。
「・・・大丈夫です。念のため、防音魔法をかけてありますので、聞こえることはないかと。」
「うむ。・・・では、例の作戦を進めてほしい。抜かりはないな?」
「はい。既に、ミリィが大規模転移魔法の準備に取り掛かっています。本隊到着前には、発動が可能かと。」
「そうか。それなら安心だ。念のため、余も陣頭指揮を執ろう。騎士達の士気向上にもなるだろうし、敵の注意を惹き付けることもできよう。」
「ご自身が囮に?ですが・・・。」
「・・・賢者殿。余は、平凡なだけの王であった。それが、ようやく王としての使命をまっとうできるのだ。寧ろ、喜ばしいことだ。」
「・・・陛下・・・やはり、陛下も・・・!」
団長が必死な様子で何かを言おうとするが、国王はそれを制する。
「団長。言ったはずだ。余の望みは、民の安寧のみ。それを果たせるのが勇者殿だけならば、その勇者殿を守るために、この命を使おうぞ。・・・それに、もう王家は終わりだ。既に王子も姫も死に、王妃にも先立たれた。生い先短い余のみが生き残ったところで、何の意味もない。・・・せめて、余を最後の王として死なせてくれ。」
「・・・陛下・・・。」
団長は、無念と言わんばかりの様子で、涙を流す。
「・・・賢者殿。勇者殿と民を頼む。」
「・・・はい。」
モーゼは、深々と頭を下げる。王は、先ほどまでの穏やかな表情から一転、厳しい表情に変わると、椅子から立ち、団長に命じる。
「団長、余の鎧を用意せよ!ラグン国王の最後の戦だ!」
「・・・御意!」
展開を若干修正します。王様、覚悟を決めます。