迫る魔の軍団
「?何だ?今日は騒がしいな・・・。」
王都に戻った風太は、城内の慌ただしさに困惑していた。いつもは兵士やメイド数人程度としか擦れ違わないのに、今日は、兵士もメイドも大勢、廊下を忙しなく移動していたのだ。
何か嫌な予感がした風太は、兵士の一人に声をかける。
「・・・すみません、何かあったんですか?」
「!おお、異世界から来た勇者様!一大事です!ヤミーの軍勢が、防衛線を突破したのです!」
「!ヤミーの軍!?」
モーゼから聞いていたが、ヤミーは自身に従う魔物や人々を組織化しており、際立って強いものに【魔王】の地位を、それに次ぐものに【魔将軍】の地位を与え、世界を侵略しているのだという。何故、自分が直接侵略をしないのか。それは、未だにヤミーが完全に回復し切っていないからだとモーゼは推測していた。今のヤミーは、風子の身体を手に入れたが、魂が身体に馴染んでいないため、大昔の様に力を使うことはできないのではないかとモーゼは言った。だから、自身に従う者達を使い、侵略しているのだとモーゼは風太と渚に語った。
このモーゼの推測には、エリアスも賛成していた。ヤミーは自分の力に絶対の自信を持ち、大昔の戦いも最前線で戦っていたのだという。それが、今は配下に任せているということは、まだ完全ではないことの証明だとエリアスも言っていた。
だが、いかにヤミーがいなくとも、世界の大半を手中に収めてきた連中である。それが、今まさに王都に迫ろうとしているのだ。危機感を覚えて当然である。
「敵の将には、魔王の一人が総大将を務め、魔将軍が三人、配下の魔物は、一万を超えるとのことです。」
「わざわざ最高幹部が出張るのかよ・・・ヤバいな・・・。」
「賢者様は、現在、軍務室にて陛下と騎士団長様と今後について話しておられます。勇者様にも、是非、出席してもらいたいと。」
「・・・渚はもう行ってるのか?」
「はい。既に、女勇者様は出席されています。」
「・・・分かった。俺も出る。案内してくれ。」
「はい!こちらになります!」
(・・・勇者様・・・か。)
この世界に来てから、風太と渚は、城の人間や城下町の人々から、勇者と呼ばれていた。それだけこの世界の人々は、ヤミーの侵略に怯え、二人に対して大きな期待を抱いているということの表れであった。
風太は、どこかくすぐったさを感じつつも、兵士に案内され、王のいる軍務室へと向かうのだった。
「陛下、賢者様、勇者様が、お戻りになられました。」
「うむ、入れ。」
「・・・どうぞ、勇者様。」
兵士に促され、風太は軍務室に入った。そこには、王冠を被り、立派な服を着た白いひげを蓄えた男性とモーゼ、渚に金色の鎧を着た中年の男性がいた。王冠を被った男性は、このラグン王国の国王、そして、金色の鎧を着た男性は、ラグン王国騎士団団長である。
「・・・失礼します。」
風太は、彼らに深々と頭を下げる。
「勇者殿、修行中でありながら、急に呼び立てて申し訳ない。・・・まずいことになった。」
国王は、申し訳なさそうな様子で風太に声をかける。
「・・・ヤミーの軍勢が、迫ってきているのですね?」
「そうだ。・・・このままでは、三時間も経たぬうちに、先遣隊が王都に攻め込んでくるだろう。」
「三時間!?」
想像以上に事態は深刻であった。三時間で敵が来るとなれば、とても非戦闘員を避難させることなどできない。しかも、それは敵の本隊ではなく先発隊。主力と戦う前に、消耗を強いられてしまうのだ。戦略的にも不利である。
「・・・それで、方針は?」
「・・・城下の民は、城地下の避難場所に避難させ、宮廷魔術師を総動員して王都全域に結界を展開する。」
(それしかないな。・・・でも、それだけじゃ敵を追い払うことなんてできない。そこは、どうする気だ?)
風太がそう考えていると、国王はしばらく沈黙していたが、意を決して口を開く。
「・・・勇者殿。騎士団と協力して、ヤミーの軍勢を迎え撃ってはくれないだろうか?」
「!?」