テイマー魔法の起源と歴史
テイマー魔法―一般的には契約魔法と呼ばれている―とは、魔物と契約し、自由に使役するための魔法である。大昔、ヤミーがアナザーワールドを支配しようと暴れた際、他の竜達が住む者達に協力した際結んだ契約が、その起源とされている。その際に呼ばれていた契約者の呼称がテイマーであり、それがテイマー魔法使いの呼称として定着したとされている。
ある時、魔物の力を利用しようと考えた一派が、竜達との契約を他の魔物に転用しようと独自に研究し、生みだした特殊な魔法。それが、テイマー魔法の元祖と呼ばれている。
この魔法によって契約した魔物は、契約者の命令に逆らうことはできず、絶対服従である。だが、契約できる魔物は、基本的に術者より弱い魔物に限られる。つまり、強い魔物を使役するには、術者自身が強くなければならなかった。
だが、それを差し引いても、魔物を使役できるというメリットは大きく、各国は優秀なテイマーの育成や囲い込みに力を注いだ。同時に、テイマー魔法の研究も進み、更に容易に使えるように改良が施された。現在も使われているテイマー魔法の理論は、この時代に作られたとされている。
魔物の力は多分野に亘って使われたが、当時、主に利用されたのは、軍事力としてである。強力な魔物を使役できるテイマー一人がいれば、兵士千人相当の戦力に匹敵するとさえ言われたからだ。そのため、当時の戦争は、人対人ではなく、魔物対魔物のいう有様で、戦争になるたびに周囲に甚大な被害を及ぼした。そして、激化した戦争によって、多くの国が直接的に滅んだり、土地が使用不能となって衰退し、最終的に滅亡するという悲惨な結果を招いた。
開発当時は、魔物を利用するための手段であったテイマー魔法だが、先の忌まわしき歴史と、魔物とある程度共存や住み分けができている現在は、昔ほど魔物を道具や兵器として扱うことはなくなり、対等なパートナーを得る手段として使われている。もっとも、それでも未だによからぬ理由で魔物を使役するテイマーがおり、それが問題視されてもいる。
「魔物との契約は、魔物を力尽くで屈服させるか、魔物自身が望んで契約を結ぶ、この二つが主な方法だ。」
「つまり、魔物に自分の方が強いと分からせるか、魔物の方が契約してくれるかのどっちかってことか。」
「そうだ。弱い魔物なら、ある程度強い術者が契約を望めば、契約時に条件を提示することはあっても、拒むことはない。だが、強い魔物となると、そうもいかん。自分をねじ伏せてみせろなどと言ってくる場合が多い。」
「だから、まずは強くなる方を優先したわけか。」
「そうだ。そなたの力なら、おおよそBランク以下なら簡単に契約できるだろう。」
「ランク?」
「魔物のおおよその強さをランク付けしたものだ。Bランクとは、単独で都市を壊滅させられる強さを持つ魔物だ。」
魔物のランクとは、まだ多くの魔物と住む者達が対立関係にあった時に作られたものである。当時は、単純な大きさだけで決められていたが、後に魔物のもたらす被害規模や魔力、純然たる強さでランクが決められるようになった。
現在、確認されているランクは、EX、S、A、B、C、D、E、F、G、Hの十段階で、討伐やテイマーの契約できる魔物の目安となっている。
「エリアス達六属性の竜は、EX。神話に出てくる想像を絶する存在だ。これらが暴れれば、最悪、世界が滅ぶ。・・・今、ヤミーが暴れているこの状況がいい例だ。」
「・・・?待ってくれ。そんな隔絶した存在が、よくミリィや渚と契約したな。普通なら、あり得ないんじゃないか?」
「魔物が望んで契約を結ぶ場合には、例外がある。竜のような他の魔物と隔絶した強さを持つ魔物は、力に差があっても、魔物が望めば契約自体はできる。だが、力をどれだけ引き出せるかは、テイマー魔法の例に漏れず、術者自身の力に依存する。ミリィと渚では、エリアスの力に差が出たのは、そういう事情があるからだ。」
「なるほど。そんな抜け道があるのか。」
「抜け道と言うが、この手段が取れるのは、最低でもAランク以上だ。Bランク以下の魔物では、こんなことは不可能だ。それに、仮に契約を結べたとしても、力のない者では、何もできない。最悪、呼び出しただけで、魔力を使い果たしてしまうだろう。」
「・・・じゃあ、ミリィは結構凄い奴だったんだな。」
「・・・さて、話はこれくらいにして、そろそろ実践といくとしよう。」
そう言って、モーゼは空を見上げる。
空には、鳥の大群が所狭しと飛び回っていた。現在、二人はモーゼの領域を離れ、ワルド大陸の辺境の山に来ていた。
「あの上空にいるのは、鳥型の魔物、群れる鳥だ。ランクはH。初心者でも簡単に契約することができる。あれで感覚を掴むといい。」
「・・・よし。」
風太は、決意の籠る視線で上空を飛ぶヘッドバードの群を見上げるのだった。
ランクの修正を行いました。具体的には、最下位のランクをHにしました。