二人の好きなこと
渚の口調を変更します。
モーゼからこの世界の言語を習うこととなった二人は、とても熱心に言語を学んだ。
風太は、自分の世界では英語が苦手で、真面目に授業を受けず、テスト前に渚に教えてもらっていたが、この世界の言語に関しては、渚も驚くほど熱心に学んでいた。この世界のことを知らなければ、何もできないことを理解しているからだった。
渚は、元々勉強が得意だったこともあるが、こちらも積極的に学んだ。文字が読めなければ、大好きな本を読みたくても読めないから、当然と言えば当然であるが。
文字を覚えたことで、ある程度書物も読めるようになった二人は、ミリィの勧めで、この世界の神話、歴史、地理、文化といった本を読むことにした。
「・・・【創世神話】・・・?」
「この世界の成り立ちが書かれた本よ。これを読めば、アナザーワールドがどうやってできたか分かるわ。」
「・・・神話ってのは、伝説だろ?事実のはずが・・・。」
「それは、あなたの世界の常識よ。この世界に、あなたの世界の常識は通じないわ。」
「・・・まあ、魔物やら魔法がある世界だからな。・・・ええと・・・。『この世界は、かつては創造神と呼ばれる神だけが存在する、何もない世界だった。創造神は、孤独であることを寂しく思い、友を作ろうと考えた。そのために世界を創り、住む者達と魔物を生みだして世界に住まわせた。だが、創造された世界は不安定で、天変地異が度々起こり、住む者達は困った。そこで、創造神は、世界を維持するために、竜を生みだした。【火竜ブレイ】、【水竜エリアス】、【風竜フィード】、【土竜ランド】、【光竜セイク】、【闇竜ヤミー】。この六体の竜の力により、世界には六つの属性と呼ばれる力が満ち、安定化した。こうして、住む者達は繁栄を謳歌した。だが、ある日突然、創造神がこの世界から消えた。世界は暗黒に包まれ、秩序は失われ、凶暴化した魔物が住む者達を襲った。しかし、残された竜達が立ち上がり、住む者達を守った。以来、竜達は住む者達の神として、世界を見守っているのである。』・・・創造神が創った・・・。これがゲームだったら、OPのデモ映像になりそうだな。」
「?おーぷ?」
「何でもない。・・・でも、モーゼに言った通り、竜王のことは全然書かれてないな。書かれてるのは、ヤミーとかエリアスとか、他の竜だけだ。」
「ええ。だから、竜王なんて存在、私も知らなかったわ。・・・そんな存在がいたなら・・・。」
「・・・大昔にヤミーを倒しているって言いたいんだろ?」
「・・・賢者様を疑うつもりはないけど・・・そんな凄い竜がいたなんて、信じられないっていうか・・・。」
「・・・まあ、確かに、そんな凄いのがいれば、ヤミーをとっとと倒してくれればいいのにな。・・・ええと・・・それからは・・・。」
風太はそのまま、本を読み進めた。その後も神話の本や、歴史書を次々に読んでいく。元々歴史が得意で、ゲームも好きだったこともあり、その類の本を重点的に読むことにしたのだ。
ヤミーの反乱から制圧、魔物との対立と共存、古代王国の建国から崩壊等々、まるでゲームの世界のワンシーンの様な出来事に、風太は心躍らせていた。風子がいなくなってからは、そういったものに興味を示さなくなっていた風太だったが、徐々に昔の様な好奇心や冒険心を取り戻しつつあった。
一方、渚の方は、【子供でも分かる地理 三大陸の特徴】というタイトルの本を手に取り、読んでいた。
「・・・この大陸は、他の大陸に比べて、過ごしやすいって書いてあるね。」
「ええ。ワルド大陸は、三大陸で最も人口が多い大陸よ。気候も安定しているから、農業も盛んで、他の大陸に輸出しているのよ。」
「・・・東のグロバー大陸は、極寒の大陸で、鉱石の産出が主な産業。南のユニバス大陸は、魔力の濃い大気に包まれているため、人間はほとんど住んでいない。・・・大気に魔力?」
「この世界は、空気中にも魔力が含まれているのよ。ワルド大陸は、そこまで魔力は含まれていないから、大した影響はないけど、魔力の濃い場所は、気象や動植物に影響を与えるわ。」
「影響って、どんな?」
「魔力が濃いせいで、脆弱な動物は負荷で死んでしまうの。だから、魔力の濃い場所では、強い動植物が繁殖するの。気象も、かなり過酷なものになるわ。昼は灼熱地獄、夜は極寒地獄、みたいな感じで。」
「だから、人はほとんど住めないのね。なるほど・・・。」
渚は、興味深そうに、本をどんどん読み進めていく。そうして渚は、アナザーワールドは、地球と同様に球体の世界であること。大陸には、人間以外にも亜人や獣人、魔族といった種族が存在し、ワルド大陸は、人間が、グロバーは亜人や獣人、ユニバスには魔族が多く住んでいること。人というのは、単に人間だけを指すのではなく、亜人や獣人、魔族といった種族を纏めた総称であり、住む者達と呼ばれていること。等々、この世界の簡単な地理と民族構成などを知った。
その本を読み終えてから、渚は、地理や文化のことが書かれている類の本を主に読むようになった。風太が、趣味と興味を優先して勉強するのに対し、渚は実用を優先して勉強をすることにしたのだ。
無論、二人共、興味のあまりない分野を蔑ろにしていたわけではなく、その分野の本も、ちゃんと読んではいたが。
普通なら、数年はかかるであろう量だったが、二人は僅か数カ月でそれをものにした。
これには、モーゼもミリィも驚愕していた。
「・・・この短期間で、これほどの量を吸収するとは。」
「私でも、同じだけ学ぶには、もっとかかります。・・・天才・・・と言うべきでしょうか?」
「・・・いや、彼の者達には、何としてもやり遂げなばならんことがあるからだ。・・・己の大切な者を救うことを・・・。」
「・・・。」
「・・・言葉と最低限の知識は与えた。そろそろ、彼の者達に魔法を教えようと思う。」
「賛成です。そもそも、本来の目的は、二人を戦えるようにすることですから。」
「では、明日から魔法の修行を行う。そう伝えておいてくれ。」
「はい。」