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先発部隊の悲劇

 「・・・勇者様。魔王と精鋭部隊は、もうじきここにやってきます。」

 解放軍の兵士が、緊張した面持ちで渚に告げる。彼らにとって、直接魔王が出撃するということは、まさに死活問題だった。

 「・・・敵の数と戦力は?」

 「侵攻軍の司令官である魔王が一人、配下の魔将軍が五人、魔兵士が数千人ほどです。あと、使役している魔物も多数。それらを含めれば、およそ一万ほどかと。」

 「・・・意外と少ないんですね。」

 「え?少ないなんてとんでもない!魔兵士の強さは、最低でもFランクの魔物に匹敵します!それが数千なんて、事実上、数万の軍勢と同等です!」

 「ワルド大陸では、もっと大勢の魔兵士と魔将軍と戦ったから、それほど多いとは思えないですね。」

 「それは・・・今回来るのは、魔王直属の精鋭部隊だからです!侵攻軍自体の兵力は、使役している魔物を含めば数十万は下らないかと・・・!」

 「そうなんですね。」

 「・・・。」

 魔王の精鋭部隊に恐怖する兵士とは対照的に渚はそこまで危機感を覚えてはいなかった。既に、ワルド大陸で激戦を潜り抜けてきた彼女にとって、魔兵士が数千で来ると言われても脅威には思えなかった。

 「・・・あの、勇者様。本当に大丈夫なんですよね?勝てるんですよね?」

 「魔王が少しキツイと思いますけど、真白が来てくれるなら、大丈夫だと思います。」

 「・・・はあ。」

 渚の強さを知らない兵士は、渚の言葉に半信半疑であった。当然である。勇者と呼ばれていても、彼女はか弱そうな少女なのだから。

 『渚さん、お待たせしました。』

 その時、上空から真白の声が聞こえてきた。渚と兵士が声のした方を向くと、そこにはロボットゴーレムの姿があった。

 「・・・え?」

 ロボットゴーレムの存在を知らない渚は、その物体の存在に困惑する。あまりにこの場にそぐわないものだったのだから。それは、兵士も同様だった。いや、兵士の方がより困惑していた。

 『ソウさんの言う通り、ちゃんと間に合いましたね。』

 「・・・まさか、真白?真白なの?」

 『はい、白名真白です。』

 ロボットゴーレムは、渚の傍に着陸すると、ハッチを開け、真白がそこから顔を見せた。

 「渚さん、お待たせしました。」

 「・・・ありがとう、真白。・・・ところで、そのロボットみたいなものは・・・何?」

 渚は、自身の疑問を真白に言う。

 「ソウさんが作ってくれた、ロボットゴーレムです。私が戦えるように用意してくれていたんです。多少は私も手伝いましたが、大半はソウさんが作りました。」

 真白は、乗っているロボットゴーレムのことを説明する。それを聞いた渚は、納得しつつも困惑した表情を崩さなかった。

 「こんなファンタジーな世界でロボットなんて・・・。やっぱり、ソウって独特ね。」

 「ですね。でも、私は自分が戦える力が手に入ってよかったと思っています。・・・これがあれば、私も・・・。」

 「・・・。」

 真白は、どこか含みのある言い方をする。渚は、その意味を何となくだが理解していた。

 「勇者様!来ました!精鋭部隊の先行隊!数、およそ二千!」

 その時、先行していた兵士が、敵の襲来を告げにきた。

 「二千も!?」

 「え?たった二千?」

 二人の反応は、対照的だった。敵の数に怯える真白と、拍子抜けした様子の渚。これも、戦闘経験の差から出るものだった。

 「・・・あの、渚さん。二千がたったなんて・・・過小評価が過ぎませんか?」

 「私や風太は、最初の戦いは二千どころか一万以上の敵と戦わされたから。ランクは魔兵士より低かったけど。それより、用意して。戦いが始まれば、休む暇なんてないと思うから。」

 「・・・分かりました。」

 真白は、ロボットゴーレムのハッチを閉める。渚もエリアスを召喚し、背中に乗る。

 「まずは、魔兵士達を殲滅しないと。」

 『・・・渚さん。最初は私に任せてくれませんか?このロボットゴーレムの性能が、実戦でも問題ないか試したいんです。』

 「分かった。なら、私達は、一旦、観戦ね。」

 『渚がそう言うなら。ですが、彼女が危ないと感じたなら、介入します。』

 『それで構いません。・・・行きましょう。』

 エリアスとロボットゴーレムは、敵の許へと飛んでいくのだった。それを見ていた兵士達は、目の前の出来事が信じられないといった様子で見ていた。


 「もうすぐ、派遣した部隊と連絡が途絶えた場所に着く。警戒を怠るな。不審なものを見つければ、攻撃しても構わん。たとえそれが、部隊の生き残りであろうとも。」

 魔将軍は、魔兵士達に厳命する。精鋭部隊の先発を務める彼は、魔王から勇者が犯人である可能性があることを聞かされており、最大級の警戒をしていた。

 (・・・相手が勇者なら、この戦力でも危ういだろう。ならば、怪しいものは手当たり次第に潰すまで。仮に、誤って生存者を殺してしまったとしても、勇者を排除できるのなら安いものだ。)

 「・・・!将軍!あれを!」

 その時、魔兵士の一人が、上空を指差す。

 「!?あれは!?」

 指された方を見た魔将軍は、驚愕する、そこには、巨大な竜と、人型らしき物体が飛行していたのだ。

 「あれは、五大竜に違いない!すぐに撃ち落とせ!」

 「了解!」

 魔兵士達は、弓を構える。魔将軍も、確実に撃ち落とせるよう自身も魔法を展開しようとする。

 「・・・?何だ?」

 その時、上空から何かが彼ら目掛けて降りてきた。いや、落ちてきたと言う方が正しいかった。

 「!?全員、退避しろ!」

 魔将軍は、魔兵士達に退避を命じる。魔兵士達も、上空から何かが落ちてくることは分かり、急いで逃げ出す。そのまま、物体は地面に衝突する。凄まじい轟音と土煙が巻き起こり、魔将軍達は、周囲の状況が判断できなくなった。

 (くっ!これでは何が落ちてきたか分からん!だが、竜の方ではないことは確かだ。・・・あれは、一体何だ?)

 状況が判断できず、困惑する魔将軍、だが、更に彼を困惑されることが起こる。

 「ぐえ!?」

 彼の耳に、魔兵士のものと思える曇った声が聞こえてきた。それは、一人二人ではなく、どんどんと増えていく。

 「!?どうした!?何があった!?」

 魔将軍は、魔兵士達に確認を取ろうとするが、できなかった。土煙で視界は利かないため、魔兵士も仲間の身に何が起こっているのか分からなかったのだ。

 (まさか・・・敵襲か!?まさか、竜による攻撃ではなく、視界を封じて攻撃してくるとは・・・!)

 魔将軍は、これが敵の攻撃だと判断し、剣を構える。たとえ視界が利かなくとも、いつでも防御、反撃ができるように。

 すると、魔将軍の目の前に、巨大な何かの影が見えた。それを見た魔将軍は、その影に攻撃を仕掛ける。だが、魔将軍の剣は、目の前の敵を倒すことは叶わなかった。魔将軍の剣は、その何かに受け止められていたからだった。

 「!?」

 自身の攻撃が通じなかったことに、魔将軍は動揺する。それと同時に、魔将軍の身体に強い衝撃が走る。魔将軍は、何が起こったか分からないまま、意識を失うのだった。

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