四天王陥落
魔剣を手に、風太に切りかかるダイオス。風太はそれをかわすと、自身の剣ソード・オブ・フィードでダイオスを切り付ける。だが、ダイオスはそれを易々と弾き返す。風太は追撃するものの、どんなに攻撃しても、ダイオスは軽くいなした。風太の攻撃を凌いだダイオスは、再度攻撃を仕掛ける。風太はそれをかわすと、今度はカウンターを仕掛けるも、これもダイオスは止めてしまう。
「人間と魔族では、身体能力に大きな差がある!貴様が異世界人だとしても、それは変わらないはずだ!更に、私にはヤミー様から与えられた力と魔剣がある!直接対決なら私の勝ちは揺るがない!」
種族の差からくる優位性を主張し、今度はダイオスが風太に猛攻を仕掛ける。スピードこそ風太の方が上だったが、攻撃の重さは確実にダイオスが上であることが分かった。当たれば防御していたとしても、風太は押さえ込まれてしまうことが明白だった。それを避けるため、風太は、回避が精一杯で、攻撃に転じることができなくなった。
「・・・なるほど。お前の魔剣も身体強化付きか。おまけに、ヤミーの力で魔力も桁違いになっている。そうなれば、どれだけ強化されるか想像もできないな。」
「そうだ!貴様の魔力も多かろうが、私には及ぶまい!仮に私以上であったとしても、あれだけ魔力を使い続けていれば、私より枯渇が早いはずだ!」
「・・・確かにそうかもな。実を言うとな、結構ヤバいんだよな。今の俺の魔力。」
「!?」
風太は、自身の魔力が残り少ないと突然告げてきた。ダイオスは、その言葉の意味が理解できず、困惑する。
「このままやり合えば、お前が勝つかもな。」
(・・・こいつ、何を考えている!?また時間稼ぎか!?)
今までの風太のやり口から、また時間稼ぎを行って何かを企んでいるとダイオスは考えた。
(なら、さっさと倒してしまった方がいい!)
風太が何を考えていようと、速攻で倒してしまえばいいと考えたダイオスは、嵐の魔法を展開する。それを見た風太は、距離を取るも、ダイオスは気にしなかった。
「この魔法で、貴様を切り刻んでくれる!逃げても無駄だ!範囲を広げれば逃げようが・・・!」
「・・・お前、馬鹿だろう?」
「何!?」
その時、ダイオスは自身の身体の異常に気が付いた。身体が異常に熱を帯びているように感じたのだ。
「!これは・・・!」
「今までお前が問題なく動けていたのは、ゴールデンフェンリルのおかげだ。そいつが死んで、お前を守ってくれている冷却材がなくなった。そんな状態で、激しい戦闘なんてやったらどうなる?」
「!?」
「おまけに、そんなにデカい風なんて起こしたら、熱波が自分に余計にかかるぞ。いくら魔族の身体でも、魔王でも、そんな高熱に常時晒されていれば大丈夫なはずがないだろう?だいたい、お前、火に弱いだろ?」
「!?」
風太の指摘通り、ダイオスは身体が焼けるような感覚に襲われた。おまけに体感温度と体温も急上昇を始めていた。如何に頑丈と言われる魔族であっても、無視できないほどであった。
「貴様!最初からこれが狙いで私との直接対決に・・・!」
「ああ。こっちには、フロストスワンがいるからな。多少の無理はできる。」
「おのれ・・・!」
このままでは命が危ういと感じたダイオスは、魔法ではなく剣の一撃で勝負を決めるべく、魔法の展開を止めると魔剣に魔力を込め始める。
「なら、私の身体が動けなくなる前に、貴様を仕留めればいいだけだ!」
「いいぜ!受けて立ってやる!」
風太もそれに応えるかのように、ソード・オブ・フィードに魔力を込める。
「死ね!」
ダイオスは、魔力を込めた斬撃を飛ばす。それは、この部屋自体を全て切り伏せてしまうほどの大きさだった。
「これなら逃げられまい!」
「・・・逃げる必要はない。こんな攻撃をしてくれたことに感謝するぜ。」
「何?」
「そんなに範囲を広げたら、威力自体は減るぞ。・・・こんな風にな!」
風太は、斬撃を切り伏せる。斬撃は、易々と切り裂かれてしまった。
「おのれ!」
ダイオスは、再度斬撃を飛ばすが、風太はそれを切り払う。それを何回も続けていたその時、ダイオスは強烈な倦怠感を覚えた。
「!?な・・・何だ・・・これは・・・!?」
「・・・ようやく魔力が切れたな。うまく引っ掛かってくれて助かったぜ。」
「何だと!?」
これが、魔力切れの症状だということに、ダイオスは風太に指摘されて気付いた。だが、ダイオスは分からなかった。風太よりも魔力を消費していないはずの自分が、何故、風太より先に魔力切れを起こしたのか。
「・・・何故だ!?貴様の方が、魔力の大量に消費していたはず!・・なのに、何故、私の魔力が!?」
「何言ってるんだ?お前、フィードを捕まえるために魔力を結構使っていただろ。忘れたのか?」
「!」
風太に指摘され、ダイオスはフィードを封印するためにヤミーからのアイテムを使用したことを思い出した。発動に魔力を大量に使用するとダイオスは言ったが、実際は封印を維持するのにも魔力を使用するのだ。無論、ダイオスはそれを知っていて、だからこそ最初は魔物達に戦わせていたのだが、自分のコンプレックスを刺激されたことで冷静さを欠いていたダイオスは、それを完全に失念していたのだ。対する風太はそれを知らなかったため、ダイオスの魔力が切れてくれるかは賭けだったが。
「戦い方がお粗末になった、お前の負けだ!」
風太は、ダイオスに止めを刺すべく一気に迫る。
「!サラマンダーロード!勇者をやれ!」
追い詰められたダイオスは、サラマンダーロードに風太を攻撃させようとする。今まで自分の手で戦うよう言っていたにも関わらずである。それほどまでに、ダイオスは追い詰められていた。だが、そんなダイオスを風太は卑怯とは言わなかった。
「・・・やっぱりそうきたか。だが、もうお前は終わりだ。」
「!?」
風太が自身に攻撃できるほど近付いたその時、ダイオスはようやくおかしいと気付いた。サラマンダーロードが、一向に風太に攻撃をしていなかったのだ。
(ど・・・どうなっている!?何故!?)
ダイオスは、サラマンダーロードの方を向く。そして、驚愕した。サラマンダーロードとオリジンケルベロスが、三体の魔物に倒されていたことに。二体はブレイズレクスとブレイズレギナだったが、もう一体は、見たことのない魔物だった。否、何の魔物かは理解できた。
(あ・・・あいつは・・・まさか、フロストスワンか!?・・・あの姿は!?)
「・・・あいつを【進化】させるのに、残りの魔力をほとんど使ってしまったんだ。だから、俺は剣に魔力を込めて切ることくらいしかできなかった。お前が魔力を温存して戦っていたら、俺が負けていたんだ。・・・お前が冷静に戦っていたのなら、あの時の攻撃を範囲じゃなくて、威力に絞り、乱発なんてしなければ、そもそも、テイマーとしての心があれば、俺を余裕で倒せたのにな。」
次の瞬間、ダイオスは首を刎ねられていた。ダイオスは、何が起こったのか分からないといった表情のまま、宙に浮かんでいた。
ヤミーの力を得、魔王となり、四天王にまで上りつめたダイオス。だが、己の中の弱い心を克服することができなかった男の末路は、初歩的なことを忘れた末の敗死だった。