第二の賭け
『フェニックス!一旦、溶岩の中に隠れてろ!』
スチュパリデスと【遠隔疎通】をした風太は、今度はフェニックスに【遠隔疎通】を行う。
『?隠れる?・・・だが、そうなれば主が・・・!』
『俺は大丈夫だ!身体強化を使えば逃げられる!でも、今のお前にフェンリルは危険だ!安全な溶岩の中に隠れるんだ!そこでお前に魔力を送って【進化】させる!そうすれば、フェンリルにだって対抗できるはずだ!』
『!【進化】!?主よ!本気なのか!?』
風太の提案に、フェニックスは驚愕する。ガルーダの【進化】を見ていたフェニックスだが、それを人為的に起こせるなど考えてもいなかった。だから、風太のやろうとしていることが可能とは思えなかったのだ。
『本気だ。・・・でも、できるかは分からない。できなければ、それまでだ。』
『・・・そんな不確かな手段、賛同しかねる!主が死ねば、全て終わる!』
『そうだな。・・・でも、ガルーダが【進化】した時、ソウが言ってたんだ。『長い時間、君の強力な魔力を受け続けていた。』って。つまり、俺が意図的に大量に魔力を送れば・・・。』
『根拠のない推測だ!そもそも、魔力なら今まで私達は頻繁に送られている!うまくいくとは・・・!』
『だから、本当に大量に送る。今までの比じゃないくらいだ。それに、お前にとって一番力を蓄えられる場所に潜ませる。そうすれば・・・。』
『・・・しかし・・・!』
風太の作戦に乗り気がしないフェニックス。だが、風太の意志は変わらなかった。
『・・・確かに、この賭けに失敗すればおしまいだ。俺は殺されてしまうだろう。でも、現状、これ以外に選択肢はない。なら、その選択肢に全力を尽くす。・・・俺が、風子を助けるためにこの世界に来たように。』
『・・・分かった。主の力を信じるとしよう。』
そう言うと、フェニックスは、凍り付き始めている溶岩の中に入る。フェニックスが入ったと同時に、溶岩はゴールデンフェンリルとフェンリル達の冷気により凍り付いてしまうのだった。
「さあ、ここから反撃開始だな!」
風太は、ブレイズレクスに乗ると、ダイオスに向かっていく。
「調子に乗るな!私には、まだ王とフレスベルグが残っている!戦力は私の方が上だ!」
先ほどの召喚で、手持ちの魔物を召喚し切り、失ってしまったダイオスだったが、Sランクの魔物であるゴールデンフェンリル、オリジンケルベロス、サラマンダーロードとAランクの魔物であるフレスベルグが残っていたため、自分の有利は変わっていないと思っていた。
「そうかな?ならやってみろよ?」
「いいだろう!ゴールデンフェンリル!奴を撃ち落とせ!」
ダイオスは、ブレイズレクスを撃ち落とさせようとする。ゴールデンフェンリルの咆哮が、ブレイズレクスに放たれる。
「フロストスワン!フェンリルの攻撃を受け止めろ!」
『分かった!』
なんと、風太はフロストスワンにゴールデンフェンリルの攻撃を受け止めさせた。フロストスワンは吹き飛ばされるものの、思ったほどダメージを受けてはいなかった。
「氷属性の魔物を盾にして防いだか!だが、所詮はBランク!Sランクの攻撃にいつまでも耐えられるものか!続けろ!」
ダイオスは、ゴールデンフェンリルに攻撃を続行させる。フロストスワンは、その攻撃を受け続ける。
「ははは!まるで防戦一方ではないか!何をして・・・!」
「・・・あの時のように、他の魔物も使って攻撃させないのか?」
「何?」
風太の言うことを、ダイオスは一瞬理解できなかった。だが、すぐにその言葉の意味を理解する。
「!しまった!オリジンケルベロス!サラマンダーロード!勇者を・・・!」
「もう、遅い!契約完了だ!」
ダイオスの目の前に、風太と契約して彼の魔力を供給されて力を増したブレイズレギナが現れた。
「!貴様!ゴールデンフェンリルから身を守るためではなく、ブレイズレギナと契約する時間稼ぎが目的か!」
「予想以上にうまくかかってくれてよかったぜ!相当頭に血が上っていたんだな。」
「おのれ!忌々しい奴だ!だが!数ではまだ私の方が・・・!」
「・・・なあ、いいことを教えてやろうか?魔物を【進化】させる方法だ。聞きたいだろう?」
「!?まだ時間稼ぎか!その手にはもう乗らん!全員でかかれ!」
ダイオスは、サラマンダーロードを盾にして、オリジンケルベロスに向かわせる。ブレイズレクスとブレイズレギナの攻撃をサラマンダーロードで受け止め、オリジンケルベロスに攻撃させる算段である。
「ははは!死ね!」
「・・・フレスベルグ!死霊攻撃だ!」
「何!?」
突然、風太はフレスベルグに攻撃を命じる。
「馬鹿なことを!フレスベルグは私の・・・!」
風太の命令を笑い飛ばすダイオスだったが、次の瞬間、ダイオスとその魔物達にフレスベルグが死霊を飛ばす。Sランクの魔物にとって、それ自体は大したことのないものだったが、突然の妨害に、ダイオスの魔物達は動きが止まってしまう。ダイオスも困惑し、風太達から注意が逸れてしまう。
「今だ!ブレイズレギナ!」
魔物達の動きが止まり、ダイオスの注意が逸れた隙を見逃さなかった風太は、ブレイズレギナにゴールデンフェンリルを攻撃させる。ブレイズレギナの嘴が、ゴールデンフェンリルの目を貫く。不意を突かれたゴールデンフェンリルは、痛みで倒れてしまう。
「そこだ!」
風太は、ブレイズレクスから飛び降りると、ゴールデンフェンリルの首を切り落とし、止めを刺した。
「!?」
「ブレイズレクス!」
『火の鳥の息吹!』
ブレイズレクスは、残りの二体にブレスを放つ。サラマンダーロードが盾となっているため、オリジンケルベロスはダメージを免れたが、二体は動くことができなくなっていた。
「・・・どうなっている!?何故、フレスベルグが私達を攻撃する!?」
一瞬にして形勢が風太達に傾き始めたことに、ダイオスは困惑する。そんなダイオスにフレスベルグは冷酷に告げる。
『・・・ダイオス。お前との契約は破棄された。もう、お前の命に従うことはない。』
「!?破棄だと!?馬鹿な!?」
いきなりの契約破棄宣言に、ダイオスは驚愕する。テイマー契約の破棄は、基本的にできないことである。テイマーが死亡しない限りは。
「どういうことだ・・・!?契約が破棄されるなど・・・!?」
「・・・お前は見限られたんだよ。見れば分かるだろう?こんな雑な扱い方をされていれば当然だ。」
風太は、ダイオスを嘲るように言い放つ。ダイオスは、怒りを覚えるより、何が起こったのか理解できず、ただただ狼狽えるだけだった。