第一の賭け
『スチュパリデス!聞こえるか!』
風太は、ブレイズレギナに声をかける前に、【遠隔疎通】でスチュパリデスに連絡を取っていた。突然の風太からの連絡に、スチュパリデスは困惑する。
『?お前か。どうした?』
『魔王が最後の間にいる!今、戦闘中だ!』
『!何だと!?早すぎるだろ!』
風太から、魔王が最後の間にいることを聞いたスチュパリデスは、予想外の事態に面食らった。彼も、魔王が来るのはもう少し時間がかかると聞いていたからだった。
『敵は、腕の立つテイマーだ!AランクどころかSランクの魔物を使役している!それで想定より早く着いてしまったみたいだ!』
『テイマーだと!?下手な戦士や魔法使いより厄介だぞ!』
『ああ。おまけに、フィードの力を封じるアイテムも持っていた。おかげでフィードは動けない。』
『何だと!?そんな奴に勝てるのか!?』
『・・・分からない。相手は上位属性で、相性は悪い。おまけに俺は、強い魔物は地上に置いてきている。直接的にもテイマー的にも俺が不利だ。・・・でも、勝つ手段はなくはない。・・・可能性はかなり低いけどな。』
『・・・そんな相手に出くわせば、俺ではひとたまりもないぞ。一旦、待機すればいいか?』
『・・・お前、今どこにいる?』
『・・・もうすぐ、最後の間に着く頃だ。』
『なら、俺が合図するまで最後の間の入り口で待機だ。合図をしたら、全速力で最後の間を抜けろ。俺の魔力をやってスピードを上げてやるから。』
『!正気か!?俺に死ねと言ってるようなものだぞ!』
『大丈夫だ!俺の指示通りにやれば抜けられる!』
『・・・分かった。だが、万が一捕まっても、俺を責めるなよ。あと、乗せている人間の保障はできかねるぞ。』
『ああ。責めるなら、俺を責めてくれ。』
(・・・震をランドの許に送る作戦、成功だな。あいつが俺にしか注意を向けていなかったことが功を奏したな。・・・女王の姿が見えなかったけど、置いていったんだな。多分、震がそうさせたんだな。いい判断だ。・・・こいつを倒したら、迎えに行かないとな・・・!)
風太は、自分の作戦が成功したことに安堵する。だが、すぐに気持ちを切り替える。この程度でダイオスが倒せるわけがないことは分かっていた。
すると、案の定、ダイオスは立ち上がる。その表情には、怒りが見られた。
「貴様!最初から別の人間を土竜の所に行かせるのが目的だったのか!」
「今更気付いたか?俺ばかり警戒して、震への警戒を怠ったお前の負けだ。」
「・・・いや、まだだ!貴様を殺して風竜だけでも捕らえればいい!」
「ランドはどうするんだ?ヤミーからは、ランドを捕まえるよう言われているんじゃないのか?」
「風竜を洗脳し、それを使役して捕えればいい!光竜のようにな!その方が確実だ!」
ダイオスは、目的をランドの確保から風太を殺してフィードを奪うことに変更すると、魔物を召喚し出す。
「貴様させ死ねば、私の勝ちだ!魔物は腐るほどいる!王もいる!今の貴様には万に一つの勝ち目もない!さあ!出てこい!」
瞬く間に、百を超える魔物がブレイズレギナの間を埋め尽くす。
「・・・おいおい。見たところ地上の魔物ばかりじゃないか。もし、今凍っている溶岩が元に戻ったら、火属性の魔物以外死ぬぞ?」
「戻るわけがないだろう!私の許には、ゴールデンフェンリルがいるのだ!」
「・・・お前さ、一族の落ちこぼれだって言ってたな?本当にその通りだな。お前の戦い方、テイマーとしてなってないぞ。」
「ほざけ!勝てばそれでいいのだ!行け!魔物達!奴を殺せ!」
ダイオスは、魔物達を一斉に嗾ける。魔物達は、風太に殺到しようとする。だが、風太は落ち着いていた。
「・・・悪いな。今回も俺の勝ちだ。」
「何!?」
「フェニックス!」
「!何だと!?」
その時になって、ダイオスはようやく気が付いた。ブレイズレギナはいるものの、風太の魔物のフェニックスが見当たらないことに。
(奴は、フェニックスを持っていた!だが、どこにいる!?)
すると、凍り付いていた溶岩が徐々に解け始めた。それは、魔物達の足元にまで及び、あっという間に魔物達は溶岩に呑まれてしまう。
「!?これは・・・!?」
「・・・成功だ・・・!・・・うまくいくかは賭けだったけどな・・・!」
困惑するダイオスを尻目に、溶岩から一体の魔物が出現した。それは、ブレイズレギナに似ていた。
「!これは・・・!?」
「・・・【進化】したフェニックスだ!いや、もうフェニックスじゃないか。」
「!?【進化】だと!?まさか、【進化】したというのか!?どうやって!?」
テイマーであるダイオスも、【進化】自体は知っていた。何らかの要因で、魔物が強化される現象。だが、実際に見たことはなかった。その稀な現象が、目の前で起こったことが、ダイオスは信じられなかった。しかも、それを風太が自分が起こしたかのような言いぶりに、ダイオスは更に困惑する。
「自分で考えたらどうだ?優秀なテイマーなんだろう?」
「おのれ・・・!」
「・・・なあ、フェニックス。【進化】して別の魔物になったお前を何て呼べばいい?」
『・・・私は、フェニックス・ブレイズレクス。ブレイズレギナと対を成す、不死鳥の王だ。呼び方は、主の好きに呼べばいい。』
「なるほど。なら、お前は今日からブレイズレクスだ。頼りにしているぜ。」
『うむ。』
【進化】を遂げたフェニックス改め、フェニックス・ブレイズレクスに、風太は改めて協力を頼み、ブレイズレクスもそれに応じるのだった。