非道なテイマー四天王ダイオス
「・・・あれが、ダイオス・・・!」
『想像していたより来るのが早い。いったい、どうやって・・・?』
あまりに早いダイオスの到着に、風太とフィードは困惑する。震の想定では、ダイオスが来るのは王の間を全て抜けてからのはずだと言っていたからだった。
「・・・この暑さは堪らんな。【サモン・フェンリル】。」
すると、ダイオスは魔物を召喚する。その魔物は、銀の毛並みの巨大な狼の魔物だった。
「!奴もテイマーか!」
『・・・なるほど。ヤミーからもらったアイテムだけじゃなくて、魔物の力を借りて速く移動できたわけか。しかも、フェンリルか。氷属性のAランクの魔物だよ。そんな魔物を召喚するなんて、かなり腕のいいテイマーのはずだよ。』
「・・・厄介なことになったな。」
ダイオスもテイマーであることに、風太は焦っていた。
四天王は、魔王の中で最上級の強さを誇るという。以前戦った魔王は、相性が有利でガルーダの存在もあり、そこまで苦戦はしなかった。だが、今、風太の手元に強い魔物はあまりいない上に、相性も有利ではない。おまけに強さも上となれば、マトモに戦っても勝てるかどうかは分からない。それが、更に強力な魔物を戦力として使役できるとなれば、勝算は更に低下するだろう。
(・・・最悪、フィードで一気に勝負を決めるしかない。俺の魔力を全部フィードにやれば、奴が嵐属性でも倒せるはず・・・。)
「・・・ほう。まさか、もう勇者がここにいたとは。・・・想定外だった。」
一方、ダイオスの方も、風太とフィードを見、警戒した表情を見せる。外で、ブレイの強さを体感しているが故の警戒である。
「・・・それはこっちのセリフだ。よくここまで来られたな。道中罠だらけだっただろう?」
「あれか。あんなもの、時間稼ぎにもならん。私には、幾らでも手駒がいる。」
そう言うと、ダイオスは大量のサモンカードを見せる。それは、数十枚以上はあるように見えた。
「・・・そんなにたくさんの魔物がいるのか。なら、ここまで来るのも魔物に乗ってか。」
「無論だ。もっとも、途中で何匹も力尽きたがな。」
「力尽きた?・・・おい。その魔物はどうしたんだ?」
「捨て置いたに決まっているだろう。あんなもの、替えは幾らでもいるからな。」
「!」
ダイオスの非情な発言に、風太は怒りを覚えた。テイマーは、魔物と力を合わせて戦うものだと信じる風太にとって、魔物を使い捨てにするダイオスの所業は、許し難いものだった。
「・・・お前、自分が選んだ魔物だろ!なのに、そんな言い方・・・!」
「言ったはずだ。替わりはいくらでもいると。すべては、ヤミー様の目的を果たすためだ。奴らも本望だろう。」
「・・・フィード。こいつとは分かり合えそうにないな。」
『だね。ヤミーの手下であることもそうだけど、魔物をそんな風に扱うテイマーを許してはおけないね。』
「なら、一気に倒す!フィード!」
「そうはさせん!」
ダイオスは、懐から何かを取り出す。それは、黒い縄のようなものだった。
「暗黒封印縄!」
ダイオスは黒い縄をフィードに投げると、縄はまるで生き物のようにフィードに向かっていく。
『!?何だ、これは!?』
縄は、フィードに纏わり付くと、そのままフィードを縛り上げてしまう。
『!?』
「フィード!?」
『な・・・何・・・これ・・・!?・・・力が・・・抜ける・・・!』
縄に縛り上げられたフィードは、凄まじい倦怠感を覚え、倒れ込んでしまう。抵抗しようと試みるも、まるで力がなくなってしまったかのように出なくなっていて、逃れられなかった。
「・・・お前!フィードに何をした!?」
「あれは、ヤミー様から授かったアイテムだ。五大竜の力を封じるとっておきだ。」
「・・・なるほど。セイクを捕まえられたのもこいつのせいか!」
「少し違う。これは、契約している五大竜にも有効なものだ。未契約のものとは別物だ。これの方が更に強力だ。・・・だが、発動には私の魔力を大量に消費するため、濫用できないのが難点だ。地上で使わなくて正解だった。」
「・・・マジかよ・・・!」
五大竜に対抗できる方法を持ってはいると思っていた風太だったが、実際にこの目で見るまで内心では信じていなかった。だが、こうして目の前でそれを見てしまった以上、信じざるを得なかった。
「風竜がいなければ、満足に戦うこともできまい。」
「・・・どうかな・・・!」
その時、溶岩の中から突然、鳥型の魔物が現れる。それは、フェニックスだった。
「!」
「フェニックス!やれ!」
『火の鳥の息吹!』
フェニックスのブレスが、ダイオスに向かって放たれる。ダイオスは、ブレスを寸でのところでかわす。
「・・・任意召喚か・・・!まさか、私でも使えない召喚をして不意を突くとは・・・!」
「フェニックス!奴を近付かせるな!そのまま攻撃だ!」
『了解した!』
フェニックスは、更に追撃でブレスを吐く。ダイオスはブレスをかわすべく、後退していく。
「・・・ブレイズレギナ。ここは、一旦協力して戦おう。こいつをランドの所に行かせるわけにはいかない。」
『当然です。主に仇なす者は、ここで灰にします!』
ブレイズレギナは、風太の提案を受け入れると、自身もダイオスにブレス攻撃を仕掛ける。
「さすがに女王相手は分が悪いな・・・。【サモン・ゴールデンフェンリル】!」
すると、ダイオスは魔物を召喚する。召喚された魔物は、フェンリルに似ていたが、大きさは二回りほど大きく、体毛も銀色ではなく、金色だった。
『あ・・・あれは・・・フェンリル種の王!王も使役できるのか!』
「ゴールデンフェンリル!凍らせろ!」
ゴールデンフェンリルが吠えると、周囲が一瞬にして凍り付いていく。あれだけ熱そうな溶岩も例外ではない。まるで、最初から極寒の地であったかのように変貌していた。そして、ブレイズレギナのブレスを受け止めると、徐々に押し返し出していた。
「まずい!相性が!」
『主!主の風で火力を・・・!』
「よし!ブレイズレギナ!援護するぞ!」
風太は、風の魔法でブレイズレギナのブレスの火力を上げる。ゴールデンフェンリルの冷気の咆哮が、徐々に押され出していく。
「面倒なことを!」
『俺を無視すんな!』
ゴールデンフェンリルが押され出されること苛立つダイオス。そこに、エンシェントベヒモスが不意打ちを仕掛ける。
「・・・邪魔だぞ!雑魚が!」
しかし、ダイオスは一瞥することもなく、風でエンシェントベヒモスを吹き飛ばす。エンシェントベヒモスは、呆気なく吹き飛ばされ、岩盤でできた壁にめり込まされてしまう。
『ぐはっ!?』
『主!あのベヒモスが!』
「助けに行く余裕はない!それに、あれくらいで死ぬ魔物じゃない!」
『そうです。あれは、放置しても構いません。それよりも、魔王の排除を!』
「簡単にやられると思うな!私には、まだ魔物がいる!【サモン・フレスベルグ】!【サモン・オリジンケルベロス】!」
ダイオスは、また新しい魔物を二体召喚する。一体は、黒い体色の大きな鳥で、禍々しいオーラを漂わせていた。もう一体は、巨大な犬のような魔物だが、大量の頭部を持ち、不気味さや嫌悪感を醸し出していた。
「何だあれは!?鳥の方は、なんとなく分かる。闇属性の鳥系の魔物のフレスベルグ。Aランクの魔物のはずだ。でも、あの頭の多い犬は何だ!?」
『・・・ケルベロスの最上位種オリジンケルベロス。私と同格の魔物です。通常、ケルベロスは三つの頭部を持ちますが、奴は五十の頭部を持ちます。そして、その全てを潰さぬ限り、死ぬことはないとされます。』
「・・・敵は、Sランクの魔物をまだ持っていたのか。勘弁してくれよ!」
「フレスベルグ!勇者の動きを止めろ!」
ダイオスは、フレスベルグを風太に向かわせる。
「ケルベロスを使わないなんて、俺を舐め過ぎだろ!」
「これを見てもそう言えるか?」
すると、フレスベルグの翼から、何か透明なものが出てきた。それは、頭蓋骨のようなもので、何十という数が現れた。
「!これは・・・!?」
「フレスベルグは、死霊系の魔物を取り込んで使役することができる。ランクはB以下だが、お前の足止めには十分だ!」
「まずい!」
死霊系の魔物は、実体を持たないため、魔法で戦う必要がある。一応、ソード・オブ・フィードなら切れなくもないが、そこまで近付かれるのはあまりよいことではない。風太は、ブレイズレギナへの援護をやめ、死霊達を攻撃せざるを得なかった。だが、そんなことを許すほどダイオスは甘くはなかった。
「行け!オリジンケルベロス!勇者を噛み砕け!」
ダイオスは、フレスベルグと死霊達に風太を足止めさせている間に、オリジンケルベロスで攻撃させようとする。
「くそ!厄介だな!」
風太は、この状況をどうやって乗り切るか、必死に考えるのだった。