風太の秘密
「・・・竜王?賢者様、何ですか、竜王とは?」
聞きなれない単語に、ミリィは思わず師に聞き返す。
「名前の通り、全ての竜の頂点に立つ存在だ。」
「そんな竜がいたなんて、私は知りません。エリアスも教えてはくれませんでした。」
「知らんで当然だ。竜王は、その強大過ぎる力故、利用されることを防ぐために存在すら秘匿されたのだ。話さんで当然だ。今では、知る者は私をおいて他にはいまい。」
「・・・その竜はどこにいる!?どこに行けば会える!?」
風太は、モーゼに詰め寄ろうとするが、モーゼはそれを制する。
「焦るなと言ったはずだ。そのためには、そなたの持つ力を自在に引き出せるようにせねばならん。」
「・・・引き出す?」
「・・・ミリィ、そなた、緑川風太の魔力を見たな。・・・どうであった?」
「・・・確かに、緑川風子の兄だけあって、凄まじいものを感じました。・・・でも、少し妙な感じが・・・。」
「妙な感じとは?」
「・・・魔力が安定していないんです。最低でも、渚の倍はありましたが・・・最大値がおかしいんです。十倍になったと思えば、五倍や百倍になったり、いきなり最低値まで落ちたとおもえば、次は、私の計れる限界を超えたりと・・・。」
「・・・だから、あの時言えないって言ったのか。」
「ええ。こんなこと、初めてだったから、説明ができなかったのよ。確かに、魔力を消費すれば、魔力が弱くなることはあるけど・・・あなたは別に、魔法なんて使っていないから、減るなんてあり得ない。それに、最大値も波があるなんて、これもあり得ないわ。最大値は、鍛えないかぎり、一定なんだから。」
「・・・。」
自分がそんな特異なものだったことに、風太は困惑した。自分は、ただの高校生だというのに、異質な存在だと言われ、焦っていた表情から一転、不安のようなものが見え隠れする表情に変わっていた。
「聞いただろう。今のそなたは、内在する力は強大だが、とても不安定だ。それをどうにかできぬかぎり、竜との契約は叶わぬ。いや、今のままでは、この世界で生きていくことさえ叶わんだろう。」
「・・・どうすればいい?」
「そのための修行を、そなた達に付けようと思っている。」
「!修行すれば、何とかなるのか!?」
「無論だ。・・・だが、決して楽ではないぞ。それを覚悟の上で受けるか?」
モーゼは確認するように尋ねるが、風太の考えは決まっていた。
「当り前だ!すぐに修行を付けてくれ!」
力強く、風太は答える。その表情には、一片の曇りもなかった。
「聞くまでもなかったか。・・・そなたはどうする?無理にとは言わんが・・・。」
モーゼは、今度は渚に尋ねる。だが、渚の方も、モーゼの方を向くと、力強く答える。
「・・・私も修行を受けます。風太一人に背負わせることなんてしません。それに、風子ちゃんが受けている苦しみを考えれば、修行の辛さなんて、大したことじゃないです。・・・お願いします。」
渚は、深々と頭を下げる。それを見たモーゼは、満足した様子で微笑む。
「・・・いいだろう。そなた達にこの世界で生きていくための方法と力、知識を授けよう。」
「ありがとうございます。」
「・・・ありがとう。」
「では、まずは私の部屋で、この世界の地理、歴史、文化などを教えよう。ある意味、魔法よりも重要なことだ。」
「・・・待ってくれ。・・・ずいぶん前から気になっていたが・・・俺達、どうして意思疎通ができるんだ?異世界の人間なのに・・・?」
「それは、翻訳魔法のおかげだ。私もミリィも、翻訳魔法を使用している。だから、私達は会話ができる。」
「・・・じゃあ、俺達が真っ先に覚えないといけないのは、世界のことより、翻訳魔法になるんじゃないか?」
「・・・。」
風太からの疑問に、モーゼは沈黙する。そこまで考えていなかったようである。
「・・・確かに・・・そうだな。・・・だが、この魔法では、言葉は話せても、文字までは分からぬし・・・。」
「モーゼさん、・・・いえ、モーゼ様。」
「構わんよ、モーゼさんでも。」
「じゃあ・・・モーゼさん、それなら真っ先に、文字と言葉を教えてください。いざという時、魔法が使えなくなっても、読み書きと会話ができればやっていけると思います。」
渚からの提案に、モーゼはハッとした―しかし、同時に気付かなかったことが恥ずかしそう―様子で、渚に向き直る。
「・・・そうだな。では、先に文字と言葉を教えることとする。よいな?」
「はい!」
「・・・確かに、そっちの方が色々できそうだ。俺もそれで構わない。」
二人は、モーゼの意外な面を見、内心クスリと笑った。
「決まりだな。では、私の部屋へ行くとしよう。青野渚、エリアスを一旦、カード化したまえ。」
「え?カード化?」
「・・・そうだった。テイマーの基本など、そなたは知らぬな。・・・とりあえず、エリアスに『カードになれ』、と命じるといい。」
「・・・エリアス、カードになって。」
『分かりました。しばし、私はカードに潜みましょう。』
そう言い残すと、エリアスの姿が光に包まれる。そして、光が消えると、その後には、エリアスの描かれたカードが落ちていた。
「・・・本当にカードになっちゃった・・・。」
渚は、カード化したエリアスをマジマジと見つめた。
「では、行くとしよう。」
モーゼは、三人を伴い、城へ入って行くのだった。