二面作戦
「大変です!」
風太達が食料庫で騒動を起こしているのと同時刻、エルフの男性が王達のいる間に慌てて入ってきた。
「どうしたのです?」
「や・・・ヤミー軍に動きがありました!総大将である魔王が直々に精鋭部隊を率いて出撃しました!」
「魔王が精鋭部隊と!?」
「・・・勇者が来たことを知り、全力でこちらを潰しにきたか。」
「これは由々しき事態です。すぐに対応を・・・。」
「緊急!緊急!」
すると、さらに獣人の女性が王の間に入ってきた。彼女も先ほどのエルフの男性と同様に、表情に焦りが見えた。
「何事ですか!?」
「ゆ・・・ユニバス方面より、ヤミー軍の援軍が到着しました!」
「ユニバスから!?」
敵本拠地からの援軍との報告に、王達に先ほどの報告以上の緊張が走る。現在戦っているグロバー侵攻軍でさえ手一杯だというのに、ここでさらに敵に援軍が送られてくる。絶望という言葉以外出てこない状況である。
「ユニバスということは・・・まさか、四天王を直接送り込んできたのか!?」
「はい!四天王の一人、ダイオスです!」
「四天王・・・。我々が勇者と合流したことを知って、直接我々を叩きに来たのか?」
「・・・いえ、ダイオス率いる援軍は、魔王と合流しないようです。全く別の方向に向かっています。」
「何?」
なら、何をしに来たのか。王達は最初は分からなかったが、伝令の次の報告で理由を知る。
「・・・ダイオスは・・・聖域に向かっています!」
「聖域だと!?・・・!まさか、奴らは土の竜を!?」
「魔王が直々に向かうと思ってはいたが、まさか、四天王が直接・・・!」
「・・・グロバーの命運も尽きたか・・・。」
王達に諦めの空気が漂う。
「・・・至急、勇者様にここに来るよう伝えなさい。」
「・・・はっ。」
女王の命を受け、エルフの男性が風太達を呼びに行くのだった。
「残念ながら、一刻の猶予もなくなりました。あなた方には、至急ヤミー軍と戦ってもらいます。」
再び王の間に呼ばれた風太達に、女王は悲痛な面持ちでヤミー軍との戦いを要請する。
「敵は、我らの拠点捜索と同時に、聖域の土の竜を狙う作戦に出た。この危機を打開するためには、こちらも同時進行で戦わねばならん。だが、我々にそんな余裕はない。その上、敵は精鋭中の精鋭を引き連れている。量も質も我々とは比較にならん。」
「そこで、お主達の力を借りたい。魔王の迎撃と土の竜の防衛、この両方をだ。」
「同時進行ですか?どちらか一方を片付けてからでは駄目なんですか?」
「距離が離れすぎています。ですから、同時進行で行わなければなりません。」
「・・・フィードやメタリアルがいれば、解決しそうだと思うけどな。」
「だよな。俺達には、五大竜がいるんだ。それくらいの距離、あっという間・・・。」
「・・・いや、女王達の言うことは正しい。」
高速で移動できる手段を持っている風太は、それで片方ずつ片付けていけばいいと考え、焔もそれに同意する。だが、震はそれを女王達の案を押す。
「忘れたかい?敵も五大竜セイクを手に入れている。現状、魔王しか来ていないようだけど、僕達が片方にだけかまけていれば・・・。」
「あ!私達のいない所にセイクが来るから?」
「その通り。五大竜三体がかりでも危ない相手だ。それなしなら、どうなるか言うまでもないよ。」
「じゃあ、同時進行しか手はねーわけか。」
「そうなるね。・・・敵の魔王の属性は?」
「侵攻軍の魔王の属性は風、ダイオスは上位属性の嵐です。」
「嵐・・・風の上位属性か。なら、ランドの所に行くのは俺と焔になるか。」
「妥当だな。ランドのダンジョンは土属性の魔物がいるだろうし、ダイオスって奴と戦うなら、火属性の俺とブレイがいた方がいいだろうしな。」
「じゃあ、私と震が侵攻軍と戦うの?」
「いや、ランドの所には震も行ってくれないか。」
「え?」
ソウの提案に、風太達は凍り付く。
「おい!渚一人に侵攻軍と戦わせるのかよ!」
「そうだぜ。そもそもランドのいる場所は、土属性の魔物の巣窟じゃねーか。震を連れて行く必要ねーじゃねーか。」
渚一人に負担を強いるソウの提案に、風太は大いに反対し、焔も疑問を呈する。
「・・・なるほど。契約できる可能性があるのが、僕だからだね。」
「!」
それに対して、震はこの提案の真の意図を理解する。既に、四人の内三人は、五大竜と契約している。同属性の竜と。そうなれば、残りは土属性であり、まだ契約していない震が適任であるとソウは考えたのだ。
「その通り。だから、ランドの所に行くのに震を加える。それに、何も渚一人に戦わせるつもりはないよ。」
「?それってどういう・・・?」
『風太さん、真白です。』
その時、【通話の腕輪】から真白が話に入ってきた。
「・・・勇者様、今の声の主は?」
「俺達の仲間です。心配いりません。」
「真白。どうしたんだ?メタリアルに何かあったのか?」
『いいえ、メタリアルに問題はありません。』
「じゃあ、どうしたんだ?」
『ソウさんの言っていたことです。私が渚さんと一緒に戦います。』
「?でも、真白は戦えないんじゃ・・・?」
「大丈夫。ちゃんと手は打ってあるから。」
「・・・。」
(手を打つ?メタリアルでも使うのか?・・・まあ、俺達の知らない間にあんな凄いものを作っていた真白がそこまで言うなら大丈夫だろう。)
「・・・分かった。渚のこと、頼んだぞ。」
ソウの打った手が何か分からない風太だったが、真白を信じて渚を任せることにした。
『分かりました。任せてください。』
「それじゃあ皆、その方向でいこう。」
「・・・風太と別れるのは、少し不満だけど・・・分かった。」
「安心しろって。絶対ランドを手に入れて帰ってくるぜ。」
「契約するのは僕なんだけどな・・・。」
「・・・あの・・・私達解放軍もいるのですが・・・。」
女王は、勝手に話を進めている風太達に自分達の存在を伝える。
「あ・・・すみません。」
「いいえ。・・・とはいえ、私達にできることは、そこまでないでしょう。」
「だが、何もかもお主達に任せるのは本意ではない。わしらにも手伝わせてはくれんか?」
「勇者には劣るが、解放軍の兵士達も精強だ。何か役に立つはず。」
「・・・いえ、俺達に任せてください。」
「しかし・・・。」
「それがいい。僕達が戦うなら、周囲に味方がいない方がいい。他の人間がいたら、かえって巻き込む危険がある。」
「・・・そう・・・ですか・・・。」
「・・・。」
「・・・残念だ。」
暗に戦力外通告されるものの、王達はそれ以上何かを言うことはなかった。自分達が足手まといであることを痛感しているからである。
「!で・・・ですが、後方支援はお願いします。俺達も補給なしで戦うことはできません。」
「・・・分かった。わしらは裏方に徹するとしよう。」
「・・・若いお前達に全てを押し付けているようで心苦しいが・・・そうしよう。」
王達の落胆ぶりに、風太は後方支援を頼むことで、顔を立てようとする。ドワーフ王と獣王は、了承してくれたものの、やはりいい顔をしなかった。だが、その顔は、面子を潰されたことではなく、異世界から来た無関係の子供に世界の命運を託さなければならない悔しさだったが。
「さあ、こうしている間にも敵は動いている。僕達も動こう。」
「だな。では、俺達は行きます。」
「・・・待ってください。私にはせめて、土の竜の神殿への案内はさせてください。」
女王は、唯一のできることである神殿へ案内することくらいはさせてほしいと頼んだ。
「・・・敵の強さや出方が分からない以上、女王陛下を守り切れる自信はありません。それでもいいですか?」
「構いません。覚悟の上です。」
「・・・分かりました。お願いします。」
風太は、女王の願いを了承するのだった。
真白の手とは何か?それはこうご期待です。




