グロバー大陸の王達
アジトに無事入ることができた風太達は、内部の様子を見る。アジトは何の変哲もない洞窟で、壁には小さなランプが等間隔で設置されていたが、光は弱く、薄暗く感じた。そんな風太達を尻目にエルフ、ドワーフ、獣人達が引っ切り無しに横切っていく。洞窟の広さは、擦れ違う分には問題なかったものの、逆にそれで光が届かず、余計に薄暗さを感じることとなった。
「・・・思ったより人の通りが激しいな。」
「いつもこんな感じなんですか?」
「いいえ、こんなことは非常事態が起きた時くらいです。」
「非常事態?」
「おそらく、お主達が拠点を潰したことでその対応に追われているのだろう。」
「対応?何でヤミー軍の拠点を潰したことでレジスタンスが対応してんだよ?」
「拠点を壊滅なんて、今までできたことがないのよ。だから、どうして壊滅したのか調べる必要があるのよ。」
「なるほど。その壊滅させた存在が敵なら、ヤミー軍以上の脅威になる可能性がある。だから、慎重に調べる必要がある。そういうことだね。」
「それなら、俺達がやったって言っちまえばいいんじゃねーか?」
「微妙だね。門番のように、妄言を吐いていると思われるのが関の山だよ。」
「・・・ところで、俺達をどこに連れて行くんです?」
「女王陛下のいらっしゃる場所です。皆さんは、ラグン国王の国書を持っていますから、まず真っ先に我らの女王にお会いすべきかと思います。」
「じゃあ、このままエルフの女王の所に?」
「エルフだけではない。わしらドワーフの王もいれば、獣人の王もいるぞ。」
「三種族の王が一緒の部屋使ってるのかよ?」
「あの時も言ったけど、私達解放軍は、色々足りていないの。物資だけでなく、部屋もね。王族や貴族も不自由しているのよ。」
(・・・なるほど。こんな洞窟で隠れて暮らさないといけないならそうなるか。)
風太は、行きかうレジスタンスと利用している洞窟の様子から、レジスタンスの現状を改めて知るのだった。
しばらくして、風太達はひと際広い場所に通される。そこは、学校の体育館ほどの広さで、奥には玉座が三つ置かれ、三人の身なりのいい人物が座っていた。真ん中の玉座に座っているのは金髪のエルフの女性、左の玉座に座っているのは燃えるような赤い髭を蓄えたドワーフの男性、右の玉座に座っているのはライオンの鬣を生やした獣人の男性である。
(・・・エルフの女王、ドワーフの王、獣人の王だな。彼らが、この国の王か。)
「女王陛下、ドワーフ王陛下、獣王陛下。ウッド、ストン、キャト三名、帰還しました。」
「ご苦労です。・・・そちらの方々は、どなたですか?」
「彼らは、ワルド大陸から参った使者の方々です。」
「ワルドから?ヤミー軍の包囲網を突破してきたと言うのか?」
ドワーフの王が、信じられないといった様子で言う。
「真です。その証拠に、彼らはヤミー軍の拠点を壊滅させました。わしら三人が証人です。」
「・・・ふむ。ヤミー軍の拠点が謎の襲撃を受け、壊滅した報は受けている。まさか、それをやったのがそこにいる人間達だと?とてもそうは見えぬが・・・。」
獣王も同様に、不信な面持ちで風太達を見る。
「獣王陛下のお考えはもっともです。ですが、本当のことです!・・・それを説明できないのが・・・悔しいです・・・。」
「・・・それで、そこの使者の方々は、この地に何故来たのです?」
女王は、このままでは埒が明かないと感じ、風太達が何で来たのか尋ねる。
「ラグン王国国王より、書状を持ってきました。」
「書状を?ラグン王国は無事なのですか?」
「はい。それで、自分達は国王の命を受けて書状を届けに来ました。」
風太は、ラグン国王の書状を取り出す。
「・・・ウッド。書状を私の許に。」
「はっ。・・・風太殿、書状を私に。」
「どうぞ。」
ウッドは、風太から書状を受け取ると、女王の許に向かい、それを手渡す。受け取った女王は、書状を読み始める。すると、突然女王の表情が驚愕に変わる。
「?どうしたのだ?」
「・・・これを・・・!」
女王は隣のドワーフ王に書状を手渡す。ドワーフ王はそれを読むと、女王同様、驚愕の表情を浮かべる。
「・・・まさか・・・お主達は・・・勇者なのか!?」
「!?」
ドワーフ王の言葉に、獣王とウッド達はギョッとした様子で風太達を見る。
「・・・はい。そうです。」
「・・・こんな子供が勇者?・・・信じられん。」
獣王は、あまりに若い風太達が勇者であると信じられず、疑わしい目で見る。
「・・・確かに。如何に付き合いの長いラグン国王の話でも、にわかには・・・。」
「・・・。」
部屋に不穏な空気が漂う。王達は書状のことを信じてはおらず、寧ろ不信感を募らせていた。
「・・・いくら何でも失礼だな。」
「まあ、信じられねーのもしょうがねーけどな。」
「なら、証拠を見せればいい。緑川風太、フィードを出すんだ。」
「そっか。五大竜を見せたら信じてくれるかも。」
「分かった。【サモン・フィード】!」
風太は自分達が勇者であることを証明するため、フィードを召喚する。召喚されたフィードは、部屋を埋め尽くしてしまう。
「!?」
「これは・・・風の竜!?」
「まさか・・・本当に勇者・・・!?」
目の前にフィードが現れたことで、王達は混乱する。この世界に竜の姿をしている魔物は五大竜とヤミーだけ。その竜を召喚することができるのも勇者だけ。つまり、今前にいる子供は、紛れもなく勇者なのである。だが、彼らのイメージしていた勇者のイメージと全く異なる風太を中々勇者とは思えなかった。
『・・・風太。この部屋狭すぎるよ。召喚するならもっと広い場所にしてほしいな。』
「悪い。こうでもしないと信じてくれそうにないから。」
『やれやれ。そもそも、僕は風属性なんだから、こんな土だらけの場所は好きじゃないんだけどな。』
「悪かったって。今度は外で出すから。」
「・・・。」
フィードと普通に会話する風太を見て、王達は言葉を失っていた。頭では否定したくても、目の前の現状が、風太が勇者であることを示しているのだから。
「まだ信用できないなら、ブレイもエリアスも出しましょうか?」
そんな王達に畳みかけるように、震は残りの二体を召喚するかと尋ねる。
「!やめてください!そんなことをすれば、この部屋が崩れます!」
「わ・・・分かった!信じる!お主達は本物だ!」
「分かったから、早く召喚を解除してくれ!このままでは潰れる・・・!」
「・・・フィード、戻れ。」
風太はフィードを戻す。部屋は元の広い空間に戻るのだった。