たった四人の襲撃者
「・・・ここだな。」
ウッドに案内された場所に到着した風太達。そこには、百を超えるテントを木造の柵で囲んだ簡単な拠点があった。
「砦かと思えば、ただのキャンプ地じゃねーか。しかも、柵はそこまで高くねーし、周囲を警戒している魔兵士も少ねーな。ワルドとはえらい違いだ。」
「この大陸は、完全に占領されている。敵も、あくまでレジスタンスだけだ。そのレジスタンスの力も大したことがない。そうなると、厳重な砦を作らなくても、こんなキャンプ程度の拠点で十分ということなんだろうね。」
「でも、おかげで楽に潰せそうだ。渚、手筈通りに頼む。」
「分かった、まかせて、風太。」
殴り込みに行く気満々の風太達とは対照的に、ウッド達は止めた方がいいと考えていた。命の恩人をみすみす死なせるような真似はしたくはなかったのだ。
「・・・あの・・・やはり、やめた方が・・・。」
「そうだ。わしら腕利きの戦士でさえ、魔兵士は手こずる。あの時は何とかなったが、今回ばかりはやめるべきだ。どれだけの数がいるのか分からんのだ。」
「そうそう、あなた達未来有望な子供が、自分から死地に行くことはないと思うし・・・。」
「・・・行くぞ!渚!」
三人が止めるのも空しく、風太は攻撃開始を渚に指示する。
「【レインアロー】!」
渚の魔法が、敵の拠点に降り注ぐ。それだけで、外にいた魔兵士はどんどん倒されていき、テント内にいた敵も相当数が死亡した挙句、倒れてしまうテントもあった。
「て・・・敵襲だ!」
「どこからだ!?」
「数は何人だ!?」
突然の襲撃に、魔兵士達は慌てふためき、マトモに対応できていなかった。そして、そんな隙を見逃す風太達ではなかった。
「初めまして、そして死ね!」
木の陰から飛び出した風太は、一瞬で魔兵士に近付くと、一刀の下に切り捨てる。
「!?て・・・敵だ!ここにいたぞ!」
「風太だけじゃねーぜ!」
風太を見、敵の襲来を伝える魔兵士を、今度は焔が首を刎ねて黙らせる。
「!?二人!?敵は二人か!?」
「たった二人で我々の拠点を攻めにきたのか!?」
「解放軍め!ついに自棄を起こしたか!」
魔兵士達は、風太と焔を見、追い詰められたレジスタンスの無謀な特攻だと判断した。
「・・・風太。奴ら俺らが、レジスタンスの人間だと勘違いしてるぜ。」
「まあ、半分は当たってるけどな。今の俺達は、レジスタンスに協力しているから、レジスタンスの人間と言うのは間違っていない。」
「そうかもな。」
魔兵士達の様子に苦笑する二人。すると、四人の魔将軍が奥からやって来る。
「何を慌てている!?」
「この様は何だ!?たかが解放軍の雑魚にしてやられるとは!?」
「・・・魔将軍様・・・!」
魔将軍達の登場に、魔兵士達もようやく落ち着きを取り戻す。
「・・・お前達が、襲撃者だな。」
「ああ。まだ二人いるけどな。」
「二人?つまりたった四人で攻めてきたと言うのか?余程の自惚れ屋か、ただの馬鹿のようだな。四人で俺達の拠点に攻め込むとは。」
「侮らない方がいいと思うよ。この程度の拠点なら、僕達四人でもオーバーキルだよ。」
「私の魔法に対応できてなかったみたいだし、ここには私達より強い敵はいないでしょう?」
震と渚もヤミー軍の前に現れる。
「あの魔法はお前の仕業か、女!」
「馬鹿な奴だ!術士が前に出てくるなど!自ら勝機を捨てるようなもの!」
「全員で掛かれ!あの馬鹿共に思い知らせてやれ!」
魔将軍の命を受け、生き残った魔兵士達は一斉に風太達に襲い掛かる。
「・・・弱い敵とばかり戦っていたせいで、すっかり油断し切っているね。だから、こんな手に引っ掛かる。」
突然、魔兵士達は足を取られ、転倒してしまう。
「!?何だ!?」
「あ・・・足が・・・!?」
「!これは・・・!」
後ろにいた魔将軍達は、何が起きたか理解できた。なんと、魔兵士達の足に、土の塊のようなものが纏わり付いていたのだ。
「【サンドトラップ】。詠唱しなくても簡単に使える魔法だよ。効果範囲が狭いのが難点だけど、多数展開すれば問題ない。」
「こ・・・こいつ!」
「焔!魔兵士は任せた!俺は、魔将軍をやる!」
風太は倒れている魔兵士達を飛び越えると、魔将軍達に向かって行く。
「!我々を侮るか!」
魔将軍達は、剣を抜く。風太に一番近い魔将軍が、風太の頭を狙い、剣を振り下ろす。だが、剣は風太を捉えることはできず、呆気なくかわされると、逆に自分が頭から真っ二つに切り裂かれていた。
「!?何だと!?」
「こいつ!」
魔将軍の一人は、風太の思わぬ強さに驚愕し、距離を取って魔法で攻撃しようとする。
「【ロックランス】!」
【ロックランス】。土属性の魔法で、地面から岩の槍を出現させ、突き殺す魔法である。範囲は低いが、中級魔法で威力は抜群である。並の相手なら、この一撃で死ぬであろう。
「!いない!?」
しかし、魔将軍は愕然とする。串刺しになっているはずの風太がいないのだ。
「ど・・・どこだ!?」
「こっちだ!」
なんと、風太は【ロックランス】の遥か上にいたのだ。
「どうなっている!?どうやってこれほどの跳躍を!?」
「【トルネードランス】!」
動揺する魔将軍に、風太は【ロックランス】と同格の風属性魔法【トルネードランス】を発動する。強烈な風の槍が、風太の側の空間から放たれ、凄まじい速さで魔将軍に直撃する。魔力の制御に難があると言われ、下級魔法ばかり使っていた風太だが、今では中級魔法を問題なく使えるようになっていた。だが、下級魔法でさえ強力な風太が、中級魔法を使えばどうなるか。言うまでもなく、直撃した魔将軍は即死した。周囲に魔将軍だったものの肉片が飛び散る。
「!?何だ、この魔法の威力は!?これで中級魔法だと!?」
「あり得ない!俺達の鎧は、中級魔法にも耐えられる耐魔法コーティングが施されているんだぞ!なのに何故・・・!?」
「・・・あと二人!」
風太は残り二人の魔将軍に向かって行く。
「拠点への被害は考えるな!一気に上級魔法で殲滅する!」
「なら俺がやる!俺は火属性だ!相性は俺が有利だ!」
魔将軍の一人が、風太に向けて火魔法を発動する。それは、拠点すら灰にしてしまうほどの威力の魔法である。
「【ブレイジングノヴァ】!」
魔将軍の魔法が、一瞬にして周囲を焼き尽くす。拠点のテントが一瞬で炎上し、魔兵士達も巻き込まれ、次々と焼け死んでいく。
「!上級魔法を!?」
「魔将軍様!俺達を殺す気ですか!?」
「身動きの取れん者が何を言う!役立たずは死ね!」
魔兵士達の非難を一蹴すると、自分だけは魔法障壁を張って被害を防ぐ。周囲は完全に炎に包まれ、拠点は跡形もなく燃え尽きていく。
「・・・終わったな。【ブレイジングノヴァ】を解除しろ。」
「ああ。」
魔将軍は魔法を解除する。そこには灰しか残っていないはずだった。だが、目の前には、無傷の風太と仲間達の姿があった。
「!?何だと!?」
「どういうことだ!?上級魔法だぞ!しかも、貴様は風属性のはず!耐えられるはずが・・・!」
『火の魔物である私が、火で死ぬとでも?』
「!?」
風太達とは違う声に、魔将軍は声のした方を見る。すると、そこには風太の契約した魔物、フェニックスの姿があった。
「お前が魔法を使う瞬間、フェニックスを召喚した。俺に来る魔法は、全部フェニックスが吸い込んでくれたから、俺は無傷で済んだんだ。」
「・・・フェニックスだと・・・!?・・・!貴様!テイマーだったのか!」
「だが、それなら後ろの連中は何故生きている!?」
「こっちは青野渚の水の防御魔法で助かったんだよ。どうやら、君達の上級魔法より、彼女の防御魔法の方が強いみたいだね。」
「な・・・何だと!?」
「お前らのおかげで、魔兵士は片付いた。今度は俺らの番だぜ!」
焔は、ブレイカー・オブ・ブレイを手に、魔将軍二人に向かって行く。
「舐めるな!」
魔将軍の一人は、焔を迎撃すべく向かって行く。それを見た焔は、防御するでもなく、魔将軍に肉薄する。
「馬鹿め!」
魔将軍の剣が、焔の身体を捉え、切り付ける。だが、魔将軍の剣は、まるでガラスのコップが床に落ちたかのように呆気なく割れてしまう。
「・・・は?」
「筋力強化は攻撃力だけあげるわけじゃねー!こういう使い方もあんだよ!覚えとけ!」
そう言うと、焔は魔将軍の首を刎ねる。魔将軍の首は、驚愕の表情で宙を舞い、地面に落ちるのだった。
「!?」
「余所見をしている場合か!」
「な!」
同僚が呆気なく倒されたことで手が止まった最後の魔将軍に、風太は攻撃を仕掛ける。完全に無防備となった魔将軍に、風太を迎撃することなどできず、彼も呆気なく切り伏せられるのだった。
「・・・これは・・・!?」
ウッド達は、目の前の光景が信じられなかった。たった四人の少年少女によって、ヤミー軍の拠点の一つが、成す術なく崩壊したということを。
今まで、解放軍はヤミー軍に対して散発的なゲリラ活動を行ってはきたが、大して成果は上げられなかった。拠点の攻撃など、夢のまた夢である。だが、あの少年少女達は、それを苦も無くやってのけたのだ。経験豊富な自分達でさえできなかったというのに。
(・・・あり得ない・・・!私達は魔兵士でさえ手こずっていたというのに・・・!・・・本当に・・・彼らは・・・人間なのか・・・!?)
(・・・どうなっとる!?あの時の戦いぶりから、腕は立つことは分かってはいた・・・!だが、これは想像以上だ!魔将軍がまるで相手にならんとは・・・!)
(私達三人が組んでも・・・いいえ、解放軍が全員で挑んでも、彼らに勝てるかどうか・・・!)
そんな三人を尻目に、風太達は拠点を壊滅させ、戻ってくる。
「物資は手に入らなかったね。」
「くそ!あの馬鹿魔将軍!キャンプ諸共焼き払うなんてな!」
「ヤミー軍らしいと言えばらしいけどな。」
「・・・。」
戻ってきた風太達に、ウッドはどう声をかければいいか分からなかった。拠点攻撃前までは、腕は立つが所詮は子供と思っていただけに、この結末は予想外だったからだ。
「・・・あと、どれだけ拠点がありますか?」
「・・・え?」
「ここの物資は回収できなかったので、他にも拠点があるならそこも襲おうと思います。物資と安全を確保できれば、レジスタンスにとっても有利になるはずです。」
風太の提案にウッドは唖然としてしまう。あんな凄まじい戦いをしたにもかかわらず、まだ続けようと言うのだから。
「・・・あ!ああ!・・・この辺りとこの辺りにある!」
「意外と少ないな。」
「レジスタンスの戦力をさほど脅威に思っていないからだろうね。」
「でも、私達が暴れたこと、絶対に気付かれるよね?」
「なら増援が来る前に落としちまおうぜ。で、終わればさっさと逃げる。この手で行こうぜ。」
「・・・だが、あれだけの戦いをして、魔力は持つのか?少し休んだ方が・・・。」
「?いいえ、俺達はそこまで魔力は使っていません。」
「!?」
「正しく言うなら、僕達の魔力にはまだ余裕がある、だよ。消費魔力はこの世界の人間と変わらないんだから。」
「ああ、そうだったな。」
「・・・。」
あれだけの戦いをしたというのに、余力があるなどと言う風太達の言葉に、ウッドはもう、考えるのをやめることにした。自身の常識など、彼らの前には何の意味もないのだと、悟ったのだ。
「真白、ここは片付いたから来てくれ。次だ。」
『分かりました。』
風太に呼ばれたメタリアルは、彼らの近くに着陸し、ハッチを開くのだった。