鋼竜飛翔
「・・・。」
王都上空にて、風太はフィードの上で瞑想を行っていた。風太は、フィードの張る結界を少し弱め、ある程度風が当たるようにしていた。
「・・・なるほど。風の魔法使いは、こうやって風を感じることで修行するわけだね。」
『・・・震。わざわざ風太の修行に付き合わなくてもいいと思うんだけど・・・。』
「そうはいかないよ。これ以上、彼に勝手に動かれたら困るからね。白名真白の件は、たまたま運がよかっただけだよ。」
真白が来て以降、震は風太がおかしなことをこれ以上しないよう、監視するようになっていた。風太の方は、別に気にしていない様子であったが。
『緑川風太よ、聞こえるか。』
「!モーゼ。・・・ああ、聞こえる。」
風太の腕に付けた【通話の腕輪】から、モーゼの声が聞こえてくる。
『ソウ様から、鋼竜が完成したとの報があった。』
「!本当か!」
『うむ。一度、地上に戻って欲しい。』
「分かった。・・・震、鋼竜の調整が終わったらしい。」
「そうか。なら、修行もここまでだね。」
「・・・ああ。フィード、地上に戻してくれ。」
『分かった。』
フィードは、高度を下げ、風太達を地上に戻すのだった。
「ソウ、鋼竜が完成したらしいな。」
地上に戻った風太達は、地下に集合する。その風太達を、ソウが上機嫌で迎える。隣には、真白もいた。
「うん、予想よりずっと早くね。彼女、呑み込みが早くて大助かりだよ。」
「そんな・・・ソウさんの教え方がうまかったからです。私なんて・・・。」
真白は、照れた様子で答える。
「さあ、満を持して登場だよ!これが、僕と彼女の合作、鋼竜だよ!」
ソウは、鋼竜を風太達に紹介するように見せる。そこには、あの時と何も変わらない鋼竜の姿があった。
「・・・変わんねーぞ。どこが違うんだよ?」
「見た目はね。でも、今度はちゃんと飛べるようになってるから、大丈夫だよ。」
「・・・本当に大丈夫?あの時・・・。」
「あの時のことは、忘れて!・・・さあ、早速試運転と行こうか!ハッチオープン!」
ソウの言葉で、後ろのハッチが開く。
「さあさあ、乗って乗って!」
ソウに促され、風太達は鋼竜の中に入っていく。そして風太達が入り終えると、ハッチは再び閉まる。
「・・・機内は、前と変わらないな。」
「関係ない所は、一切弄ってないからね。さあ、コックピットに行こう。」
風太達は、コックピット部分に着く。そこも、見た目は前と変わらない様子だった。操縦桿の魔石の側に、操縦席が付いたこと以外は。
「・・・操縦席ができたのか。」
「うん、彼女の手製だよ。」
「・・・それじゃあ、早速結果を見せてもらおうか。動かしてみて。」
「いいよ。真白、頼むよ。」
「分かりました。」
真白は、操縦席に座ると、魔石に手を乗せる。すると、魔石が虹色の光を放ち出す。そして、鋼竜が少し動く。
「おお!」
「成功だね。じゃあ、早速外に出て動かしてみよう。転移させるよ。」
ソウは、鋼竜を王都の外に転移させる。鋼竜は、瞬時に外に移動する。
「・・・ふう。やっぱり質量が多いと疲れるな・・・。」
転移で消耗したソウは、座席に座り込む。
「・・・じゃあ、真白。飛ばせてみて。まずは、上空に浮上させて、それから周囲を軽く飛行するんだ。」
「分かりました。・・・鋼竜、浮上。」
真白は、魔石に浮上と念じる。すると、鋼竜は、徐々に上昇を始める。
「おお!浮いてるぞ!すげー!」
「いい感じだな。」
「うわ~・・・!」
「本当に不思議だな・・・。」
上昇する鋼竜に、風太達は様々な反応をする。そうしているうちに、鋼竜は、王都より遥か上空に到達した。
「・・・もうこんなに高く。」
「いい感じだね。」
「・・・ここから周囲を飛んでみます。」
真白は、魔石に周囲を飛ぶよう念じる。すると、鋼竜は、周囲を旋回する。
「徐々にスピードを上げて。」
「はい。」
真白は、鋼竜のスピードを上げる。鋼竜は、徐々に速度を上げ、旋回する。
「順調だね。じゃあ最後は大陸の果てまで飛んでみて。風太達が制圧した、ヤミー軍の侵攻拠点跡地がいいね。」
「分かりました。」
真白は、鋼竜を操縦し、大陸の果てまで飛ぶ。一時間も経たないうちに、鋼竜は、ヤミー軍の拠点跡地まで到着した。
「成功だ!鋼竜の完成だ!」
ソウは、試運転の結果に満足したのか、大いに喜ぶ。
「・・・不思議だね。かなりスピードが出ているはずなのに、機内はそんなに感じない。」
「当たり前だよ。そうなるように、調整したんだから。」
「お前じゃなくて、真白のおかげだろうが。」
自分の手柄のように喜ぶソウに、焔はツッコむ。
「これで、拠点ができたな。グロバー大陸に行ける。」
「だね。準備期間は終わりだ。物資を積んだら、グロバーに行こう。」
「・・・ねえ、この鋼竜、名前はないの?」
「名前?そのまま鋼竜でいいんじゃ・・・?」
「でも、五大竜にちゃんと名前があるなら、これにも名前があった方がいいんじゃない?」
「・・・確かに、そうかもな。」
「じゃあ、メタルにしよう。」
「「「「却下。」」」」
ソウの付けた名前を、風太達は即却下する。
「何で!?」
「安直だろ。もっといい名前にしろ。」
「でも・・・。」
「・・・あの・・・なら、鋼鉄と物質で、メタリアルはどうでしょうか?」
「・・・メタリアルか。・・・いいかもしれない。」
「おう。ソウのよりいいと思うぜ。」
「響きがいいね。メタリアル。」
「私もいいと思う。」
「じゃあ、こいつの名前は、今日からメタリアルだ!」
真白の案に、風太達は賛成する。かくして、鋼竜の名は、メタリアルとなったのだった。
「・・・僕、 ネーミングセンスも弱体化したのかな?」
名前を採用されなかったソウは、一人、いじけていたが。
別に、ソウのネーミングセンスは弱体化していません。