神をも超える邪竜
『我がどうした?』
ヤミーは、あの時と同様、人形のように無表情で、生気のない目で風太達を見ていた。いや、無表情ながらも、風太達を見下している傲慢さが滲み出ていた。
「・・・ヤミー・・・!」
宿敵の出現に、風太は息を呑む。
「・・・風子ちゃん・・・!」
「・・・あれが・・・緑川風子・・・。緑川風太の妹だね。なるほど、似ているね。」
「・・・間違いない・・・。風子ちゃんだ・・・。」
渚達も、風子の姿を認める。特に、面識のある震以外の二人は、長きに亘り会えなかった彼女の姿に複雑な表情を見せる。
「ヤミー!風子を返してもらうぞ!」
風太は、ソード・オブ・フィードを抜くと、ヤミーに向かっていく。
『・・・理解力のない男だ。』
ヤミーはそう言うと、最初に現れた時と同様に、黒いオーラを放つ。その瞬間、風太達の身体に強烈な圧力がかかり、這いつくばるような形になる。
「うお!?」
「こ・・・これは・・・!」
「・・・あの時と・・・同じ・・・!」
『言ったはずだ。お前達に我は倒せぬ。』
見下すように吐き捨てるヤミー。だが、次の瞬間、その表情が驚愕に変わる。なんと、風太はその圧力に耐え、立ち上がったのだ。
『・・・何だと・・・!?』
「・・・いつまでも・・・調子に乗るなよ、ヤミー・・・!」
『・・・貴様・・・よもや耐えるとは・・・!』
「風子の身体を返せ!」
必死に立ち上がった風太は、ヤミーに飛び掛かる。だが、ヤミーに触れようとした風太の手は、ヤミーの身体を突き抜けてしまう。
「!?」
驚いた風太。そのままヤミーにぶつかりそうになるが、風太の身体は、ヤミーを突き抜けてしまう。
『突き抜けた!?どうして!?』
『・・・驚いたぞ。まさか、我が圧に耐えるとはな・・・。』
ヤミーは、風太が自身のプレッシャーをはね返したことに驚愕するも、自身に攻撃が効かないことで、すぐに冷静さを取り戻すと、拘束されているセイクを見る。
『・・・だが、今はお前達と遊んでいる暇はない。セイクは返してもらうぞ。』
ヤミーはセイクを拘束しているソウ達の許に向かおうとする。
「させるか!」
それを止めようと、風太は尚もヤミーに突っ込むもが、風太の身体は突き抜けるだけで、ヤミーを止めることができない。
「くそ!フィード!」
『風よ!捕らえろ!』
フィードは、ヤミーの周囲に風を展開し、動きを封じようとする。だが、ヤミーは何事もないように移動を続ける。
『・・・まさか・・・あれは幻影!?』
「嘘だろ!確かにこっちに攻撃していたんだぞ!」
『僕も分からない・・・。でも、僕の風でも捕らえられないなんて、それしか考えられない!』
「・・・くそ!」
風太とフィードが手をこまねいている間に、ヤミーはセイクを拘束するソウ達の許にやって来てしまう。
『!ヤミー!』
『久しいな。エリアス。それに、ブレイもか。てっきり、縄張りで惰眠を貪っているとばかり思っていたぞ。』
『てめぇ・・・!』
「ヤミー!風子ちゃんの身体をすぐに解放するんだ!それは、その子の身体だ!」
『この身体には、利用価値がたくさんあるのだ。解放などできんな。』
『そんな子供の身体を奪いやがって・・・!俺が追い出してやる!』
ブレイはヤミーに掴みかかろうとするも、ブレイの爪は空しく空を切る。
「ブレイ!あれは幻影だ!攻撃は効かない!」
『くそ!』
『お前達の相手をしている暇はない。退け。』
ヤミーは、風太達に放った時とは比べ物にならないほどの膨大な黒いオーラを放つ。二体の竜とソウは、何の抵抗もできずに吹き飛ばされてしまう。ソウが離れたことで、セイクは【絶対制御コード】から解放される。
『きゃあ!?』
『うお!?』
「こ・・・これが・・・ヤミー!?信じられない・・・!まるで、別の存在だ!」
『・・・帰るぞ、セイク。』
ヤミーは、【絶対制御コード】から解放されたセイクを黒いオーラで包む。オーラが消えたと同時に、セイクは姿を消していた。
『セイクが消えた!?』
『我が転移させたのだ。』
「・・・あり得ない・・・幻影から一方的に攻撃できて、転移魔法までかけられるなんて・・・!こんなの、全盛期の僕でもないとできないことだ・・・!」
『てめぇ・・・いつの間にそんな芸当できるようになった!?』
『我は、お前達を超えたのだ。今の我は、神にも等しい・・・いや、それ以上の存在となったのだ!・・・さて・・・。』
ヤミーは、今度は風太達の側に倒れている少女に目をやる。
『帰るぞ。お前には、まだ役目がある。』
そう言って、少女に向けて黒いオーラを放つ。
「させるか!」
風太は、自身の風魔法でオーラを迎撃する。
「うおおおおおお!」
『・・・貴様・・・これほどの力を持つとはな・・・!・・・だが・・・!』
「・・・!」
突然、風太の魔法が消え、風太はその場に倒れ込んでしまう。
『風太!』
「・・・身体・・・が・・・!」
風太はそのまま、気を失ってしまう。
『しまった・・・魔力切れ・・・!』
『貴様の魔力など、我には遠く及ばん。さらばだ、哀れな兄よ。』
そのままヤミーは、少女をオーラで包み込んで転移させると、姿を消してしまう。残されたのは、三体の竜と、それにしがみ付くソウ、気絶した風太、地面に這いつくばる渚達だけだった。
「・・・た!・・・風太!しっかりして!」
「・・・ああ・・渚・・・。」
「!風太!よかった・・・!」
目を覚ました風太の視界に、心配そうな顔をする渚が入る。風太が目を覚ましたことで、渚は泣きそうな顔をして抱き付く。
「・・・!ヤミーは!?」
「・・・逃がした。・・・いや、ソウが言うには、あれは幻影だから、最初からここにはいなかったらしいぜ。」
「・・・あの子は・・・?」
「・・・セイク共々、連れて行かれちまった・・・!」
「・・・くそ!」
風太は悔しさのあまり、地面を叩く。渚も焔も、全く何もできなかったことに、黙り込んでしまう。
「・・・でも・・・今回は耐えることができた。・・・確実に俺は、強くなっていることが分かったんだ。・・・今度こそ・・・!」
「風太・・・。」
風太が諦めていないことに、渚は安堵する。焔もそれを見て、表情が明るくなる。
一方、震の方は、力なく座り込んでいるソウと話をしていた。
「・・・じゃあ、ヤミーはあんな力、使えなかったってことだね。」
「・・・まあね。・・・もっとも、ヤミーが暴れていた時期の関しては、僕も知らないからね。・・・その時はどうだったかは知らないよ・・・。」
「・・・なるほど。で、君達の意見も聞きたいんだけど、いいかな?」
震は、ブレイ達三体の竜にも、ヤミーについて尋ねる。
『ヤミーがあんな芸当できたってか?いや、あんなの、あの時の戦いで使ってなかったぜ。』
『ですが、使えなかったと断言することはできません。あの時は、純粋に力のぶつかり合いだけだったので。』
『ひょっとしたら、使えたかもしれないけど、使わなかっただけという可能性も否定できない。・・・事実は闇の中だよ。』
「・・・ありがとう。参考になったよ。」
(・・・やっぱり、ヤミーの異常な強さには、ソウや五大竜も知らない何かがあるな。・・・これは、ヤミーを倒せばいいなんて、単純な事件じゃなさそうだ。・・・面白くなりそうだね。)
震は、自身の感じていた疑問に確信を抱き、同時に、これから起こるであろう戦いや出来事に興味を持つのだった。
第3章終了になります。
次回からは、新大陸へ向かいます。