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少女の正体

 「・・・ふう。」

 気を失った少女を地面に横たえた風太は、少女を見つめる。

 (・・・こうやって見ていると、風子と同い年くらいの子供にしか見えないな。)

 連れ攫われた風子のことを思い、風太の表情から緊張が解れる。それを見たフィードは、風太を窘める。

 『・・・風太。気を失っているとはいえ、油断しちゃ駄目だよ。』

 「・・・分かってる。」

 「風太~!」

 「!」

 渚の声が聞こえ、風太は声のした方を向く。なんと、風太の許に、渚達が大きな水泡に包まれた状態で下りてきたのだ。三人を包んだ水泡は、地上に着くと弾け、それと同時に渚は風太に駆け寄り、抱き付く。

 「風太の馬鹿!心配したんだから!」

 「・・・ごめん。」

 「・・・大丈夫そうだな。全く、心配したぜ。」

 「悪い。あんな方法しか離れる方法が考え付かなかったんだ。」

 「でも、うまくいってよかったよ。」

 「・・・セイクは?」

 「ソウが拘束している。他の二体も一緒にね。ああ、僕達は、エリアスの力で下ろしてもらったんだよ。水の力も便利だね。」

 「・・・こんなことができるなんて知らなかった。」

 「・・・さて。」

 震は、横たわる少女を見る。少女は、完全に気を失っており、ピクリとも動かなかった。だが、呼吸はしているようで、命に別状はなさそうだった。

 「・・・こんな子供がね。未だに信じられないよ。」

 「・・・俺もだ。こんな大人しそうな寝顔を見ればな。」

 「で、どうするよ?さすがに縛り上げる・・・ってのは気が引けるしな。」

 「でも、目を覚ましたら、また暴れ出すんじゃ・・・?」

 「じゃあ、洗脳を解いてしまえばいいんじゃないか?」

 「でも、私達、洗脳を解く方法知らないよ?」

 『・・・彼ならいい方法を知ってるかもだけど、今はセイクを抑えておくので精一杯だしね。』

 「う~ん・・・。」

 風太達は、少女をどうするかで考え込む。このまま放置することはできないが、こんな幼い少女を無理矢理押さえ付けてしまうというのも気が引けた。

 「・・・ん?」

 「どうした、震?」

 「・・・この子・・・どこかで見た気がするな。」

 「え?」

 震の言葉に、風太達は驚く。

 「見たって・・・お前の知り合いか?」

 「いや・・・知り合いじゃない。こんな子は知らない。・・・でも、見たような気がするんだ・・・。」

 「意味分かんねーぞ。」

 (・・・あれ?)

 困惑する焔を余所に、風太もこの少女をどこかで見ていたように思えた。

 「・・・震。・・・俺もこの子を見たような気がする・・・。」

 「おいおい・・・お前もかよ?」

 「どこで見たの?」

 「・・・それが思い出せないんだ。でも、意外と最近の気がするんだ。」

 「最近って・・・こんな凄い子いたら、私でも気付くと思うけど?」

 「・・・。」

 「・・・!思い出した!青野渚が知らなくて当然だ!」

 「え?」

 「おい、どういうことだよ?」

 「この子を見たのは、緑川風太が、一度僕達の世界に戻った時だ!」

 「戻った時?」

 「僕達は、君の妹が行方不明になった事件を探るために、調べただろう。その時に、この子を見た気がする。」

 「見た気って・・・。・・・!そうか!行方不明者の!」

 「!あの中にいたってのか?」

 「何?どういうこと?」

 その場にいなかった渚は、勝手に納得する風太達に、何事かと説明を求める。風太は、自分が一時的に戻った際に、焔達と風子が攫われた事件について調べたことを話す。

 「・・・それで、行方不明者の中にその子がいたかもしれない・・・ってこと?」

 「ああ。・・・確か名前は・・・白名光しろなひかり・・・。」

 「・・・それが・・・この子の名前・・・?」

 「俺と震の記憶が正しければな。」

 『・・・きっと、君達の考えは正しいと思うよ。これほどの魔力を持っている人間、この世界にはいないからね。』

 「・・・風子と同じ・・・ヤミーの被害者だったのか・・・。」

 目の前の少女-白名光-の正体を知った風太の脳裏に、風子がいなくなってからの自身と家族のことが過る。突然、大切な家族が消え、必死に探しても見つからず、悲しみに暮れた。その悲しみと、風子が見つからない苛立ちが自身と家族を変えていった。ことあるごとに両親は喧嘩するようになり、精神を病んでしまった。近所ともトラブルが絶えなくなり、クラスメイトも自分を避けるようになり、側にいてくれたのは、渚とその家族だけになってしまった。そして、一年も経たないうちに、両親は離婚。父親は遠くへ行ってしまい、今まで一度も帰ってくることはおろか、連絡すら寄越すことはなかった。

 残された風太は、精神を病んだ母親と二人で暮らすことになったが、ほとんど家には居付かず、遅くまで風子を探す毎日だった。警察に補導されたことも珍しくなかった。そんな地獄とも言えるような日々を、風太は思い出していた。

 (・・・この子の家族も・・・俺の家族みたいに・・・!?)

 もしかしたら、この子の家族もそうなっているのではないか。風太はそう思ってしまったのだ。そう思えば、風太はジッとなどしていられなかった。

 「・・・皆。この子を家族の許に帰そう。」

 「・・・うん。それがいいと思う。きっと、家族の人も心配してると思うから。」

 「だな。とりあえず、洗脳解いたらブレイにでも頼んで・・・。」

 「いや、今はまずい。」

 彼女を帰そうという風太の提案を、震は拒否する。

 「何で?」

 「家族になんて言って説明する気だい?『異世界の怪物に攫われた。』なんて言って信じてもらえると思うかい?逆に僕達が犯人だと疑われるのがオチだよ。最悪、警察に捕まるかもしれない。」

 「・・・でも・・・!」

 「最後まで聞くんだ。今はまだ・・・・だ。僕達だけで行っても事態を悪化させる。なら、状況を理解してくれる人間を味方に付けて、その人を介して送り届けよう。」

 「・・・そんな人間いるかな?」

 「焔。君の父親は、警察官だったね。父親に協力してもらうのはどうかな?」

 「何!?あいつにか!?」

 震の提案に焔は露骨に嫌そうな顔をする。

 「やっぱり、警察関係者の言葉が一番信用できるはずだ。君の父親に話して・・・。」

 「あんな奴に頭下げろってのか!?冗談じゃねー!」

 焔は、震の提案に語気を強めて即座に拒否する。

 「俺に嘘吹き込んでやがったんだ!そんな奴に何で頭を下げなきゃいけねーんだ!」

 「・・・焔。」

 「・・・はい!この話はこの子の洗脳を解いてから考えよう。風太もそれでいい?」

 ギスギスした話の流れを一旦断つため、渚は少女の洗脳を解くことを提案する。男子組も、色々思うところはあったが、洗脳を解かなければ何も始まらないことは分かっていたので、無言でそれに同意する。

 『じゃあ、セイクをどこか落ち着ける所に・・・。・・・!』

 「・・・!」

 その時、風太達は凄まじいプレッシャーを感じた。

 「・・・何だ・・・この感覚は・・・!?」

 「・・・こいつは・・・ヤベーぞ・・・!」

 「・・・風太!この感覚は・・・!」

 「・・・まさか・・・!」

 風太の渚は、このプレッシャーの正体に気付いていた。自分が最も探している存在にして、倒さねばならない憎き存在。そう、このプレッシャーは、ヤミーのものだった。

 「・・・皆!気を付けろ!ヤミーが・・・!」

 『我がどうした?』

 「!」

 聞き覚えのある声が聞こえ、風太は声の下上空を見る。そこには、妹の身体を奪い、悪事を働く邪神、ヤミーの姿があった。

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