少女の弱点
少女の槍が、風太に迫る。風太は槍を剣で防ぐのではなく、回避する。
(・・・まともにぶつかり合っても勝てない・・・なら、かわし続ける・・・!)
力比べでは勝てないと判断した風太は、回避に徹することを選択した。ソード・オブ・フィードによる身体能力強化だけでなく、風属性の強化魔法でスピードも上げて対応する。それにより、何とか風太は少女の攻撃を回避することができた。
「・・・。」
初撃を回避された少女だったが、それでも風太への攻撃をやめることはしない。連続で風太に突きを見舞う。風太はスレスレで攻撃を回避し続ける。だが、最大限に強化してこれである。このままでは、そう時間がかからないうちに、風太は槍に突き刺されてしまうだろう。風太一人の場合なら。
「おい、お嬢ちゃん!子供がそんな物騒なもん持っちゃ駄目だぜ!俺に渡しな!」
焔は、少女の攻撃に横槍を入れる。強化した筋力で槍を掴むと、そのまま奪い取ろうとする。だが、槍は少女の手にくっ付いているかのように動かない。
(・・・嘘だろ・・・!ビクともしねー!)
困惑する焔を尻目に、少女は槍を掴んだ焔を槍諸共持ち上げてしまう。
「【ウォーターバレット】!」
「!?」
そのまま焔を振り落とそうとした少女だが、その少女に高速で【ウォーターバレット】が迫る。
「!」
少女が【ウォーターバレット】に手を向けると、【ウォーターバレット】は少女にぶつかることなく、見えない何かによって弾かれてしまう。
「遅いよ!【ストーンバレット】!」
そこに、今度は【ストーンバレット】が少女に迫る。数は、先ほどの【ウォーターバレット】より多かった。
「・・・。」
少女はこれも、先ほどと同じように防ぐ。それを見た震は、笑みを浮かべる。
(・・・思った通りだ。なら、彼女は簡単に拘束できる。)
一方、少女の方は、焔と魔法に気を取られたことで、風太への警戒を完全に怠っていた。
「隙あり!」
「!」
風太は少女を羽交い絞めにする。不意を打たれた少女は、思わず槍を放してしまう。
「おっと!」
解放された焔は、槍を奪うと少女から距離を取る。
羽交い絞めにされた少女は、必死で抵抗するものの、抜け出すことができなかった。
(・・・?どうして?あんなに凄まじい力があったはずなのに・・・?)
あまりにアッサリと捕らえられたことに、風太は困惑する。
「!!!」
だが、少女は諦めていなかった。セイクに何か命じたのか、セイクが急に身体を激しく揺らし出す。
「!俺達を振り落とす気か!」
「エリアス!セイクを止めて!」
「ブレイ!」
ブレイとエリアスは、セイクの動きを止めようとする。だが、風太がセイクに気を取られている隙を付いて、少女は風太から逃れると、焔の許に行こうとする。
「!まずい!」
「させないよ!」
だが、少女に対する警戒を怠っていなかった震が、大き目の石を展開させて動きを妨害する。石は、別に少女を狙って攻撃はしてこない。ただ、浮いているだけである。だが、足止めには十分だった。少女は石の手前で足を止める。
「【ウォーターバインド】!」
少女が足を止めた隙を狙い、渚は水属性の拘束魔法で彼女の足を絡め捕る。少女は魔力を放出し、拘束を破る。
「大人しくしろ!」
「!!!」
その隙に、風太は再度、彼女を取り押さえる。やはり、少女の抵抗は大したことがなく、寧ろ力を入れすぎると痛がっているように見えた。
「・・・どうなっているんだ?あの時はアッサリと押し返されたのに・・・?それに、もっと速かった気がするぞ?」
「俺達二人が組めば何とかなるって言ったじゃねーか。」
(・・・いや・・・いくら何でもうまくいきすぎている・・・。何かの罠か?)
思いのほかうまくいったことに困惑する風太。当然、風太と共に戦っていた渚も、この結果に驚愕していた。
「・・・どういうこと?私達と戦っていた時は、あんなに強かったのに・・・?」
「予想通りの展開になったね。」
「予想通り?」
驚愕する渚とは対照的に、震はさも当然といった様子で言う。そんな震の言葉に、渚は怪訝な顔をする。
「青野渚。君も、彼女がアッサリ捕まったことが信じられないかい?」
「だって・・・私と風太とエリアス達があんなに苦労してもどうにもならなかったのに・・・どうして・・・?」
「簡単だよ。あの子は、魔力が多いけど、それだけなんだ。」
「?どういうこと?」
「あの子の魔力は確かに僕達を上回るけど、それ以外が僕達に遠く及ばないんだよ。」
「及ばない?」
「まず、身体能力。確かに、緑川風太の一万倍の魔力の身体強化は脅威だ。でも、それはあくまで契約の武器があればこそだ。なければあの子はただの非力な子供と変わらない。」
「・・・だから、武器をなくした途端、弱くなった・・・。」
「そう。次に戦い方。身体強化と魔力にものを言わせた完全にゴリ押しだ。そんな戦い方、強化が消えればおしまいさ。しかも、洗脳の影響か、戦闘経験がないのか、その両方が原因で状況判断がそこまでうまくない。僕達に気を取られて、風太への警戒を怠るんだから。」
「・・・。」
「最後に魔法。彼女は、大した魔法が使えないみたいだ。テイマー魔法は使えるみたいだけど、それ以外は全然のようだね。僕達の魔法も、防御魔法じゃなくて魔力を飛ばして防いでいたのがその証拠だよ。」
「え?でも・・・空を飛んで・・・?」
「あれは飛んでいたんじゃない。魔力で重力を相殺して浮いていただけだ。」
「そんなことできるの!?」
「モーゼから聞いたけど、理論上は可能らしい。緑川風太クラスの魔力が必要だろうだそうだけど。」
「・・・じゃあ、あの子は本当は強くなんてなかった・・・?」
「強化されたセイクと魔力量で誤認していただけだったんだよ。」
「・・・そうだったんだ。」
自分達が戦っていたのは、少女ではなく、その虚像であった。だが、震がいなければ、それに気付くことすらできなかった。渚は、そんな自分を少々恥ずかしく思うのだった。
『・・・。』
少女を取り押さえられたセイクは、少女を助けるため、風太達を振り落とそうと再度身体を激しく揺らそうとする。
『余所見してんじゃねーぞ!セイク!』
だが、そこにブレイがセイクに組み付き、動きを止めようとする。セイクはブレイを力尽くで振り払おうとする。
『風竜の微風!』
そんなセイクの身体に、フィードの風が直撃する。五大竜相手にダメージを与えられるような攻撃ではないが、セイクの気を逸らすには十分すぎた。セイクはフィードに気を取られ、ブレイへの警戒が疎かになる。
『セイク!』
そこにすかさず、エリアスが入り込んでブレイと共にセイクに組み付き、取り押さえる。
その隙を付き、フィードもセイクに纏わり付いて動きを止める。
『今だ!彼女を引き離すんだ!』
「・・・よし。」
「風太、どうやって引き離す気だ?」
「一番手っ取り早い方法を使う。」
「?」
「・・・行くぞ!」
なんと、風太は少女を捕まえたまま、セイクの背を飛び降りる。
「!?」
突然の風太の行動に、焔は止めることができなかった。
「な・・・何考えてんだ!お前!」
「風太!」
『いけません!』
焔は、落ちていく風太に怒りの声を上げる。渚も、思わず身を乗り出し、風太に手を伸ばそうとして、エリアスに窘められてしまう。
「ソウ!【絶対制御コード】をかけ続けろ!」
落ちていく風太は、ソウに【絶対制御コード】を使うよう言う。
「・・・【絶対制御コード】発動!」
ソウは、心配な気持ちを押し殺し、【絶対制御コード】を発動する。最初のうちは、すぐに打ち消されてしまうものの、少女が離れていく毎に、解除までの時間が伸びていき、ある距離まで離れると、ついに解除されず、セイクを完全に拘束することに成功する。
『ギャアアアアア!?』
「よし!成功だ!」
「・・・フィード!風太を!」
『・・・分かってる・・・!』
セイクが無力化されたのを確認したソウは、フィードに風太を助けに行くように言う。フィードは急いで風太の許へ向かう。
「ぐっ・・・!」
一方、少女を捕らえていた風太は、物凄いスピードで地上へと落下していた。風圧と低温が、風太の体力を削り取っていく。
「!!!」
だが、それは少女も同様である。いや、寧ろ、小さい彼女の方が、ダメージが大きかった。
(・・・身体が・・・でも・・・セイクに【絶対制御コード】が効くまで・・・待つんだ・・・!)
しばらくして、セイクの悲鳴のような咆哮が響き渡り、風太は作戦が成功したことを察する。
「・・・今・・・だ・・・!」
風太は、風魔法を使い、落下のスピードを落とす。このまま彼女諸共地上へ降りる算段である。
「・・・。」
少女の方は、幼い身体が災いしたのか、ぐったりとしていた。だが、風太は決して油断せず、彼女を放さなかった。
『風太!』
そこに、フィードが物凄いスピードで向かってきた。フィードを風太は背に乗せる。
『風太!まったく・・・無茶をして・・・。』
「・・・悪い。これ以外にいい方法が思い浮かばなかったんだ・・・。」
『・・・セイクの契約者は?』
「・・・気を失っている。」
『そう。・・・で、その子をどうする気だい?』
「・・・それは、地上に降りてから決めよう。」
『・・・分かった。』
風太を無事に回収したフィードは、地上へと降りていくのだった。
次回、謎の少女の正体が・・・!?
若干加筆しました。