光竜の契約者
目の前に現れた少女に、風太は困惑する。
少女は、年齢はヤミーに取り憑かれた風子と同い年くらいに見え、腰まで届くほどの白い長髪の可愛らしい容姿をしているが、あの時の風子同様、人形のように無表情で、生気のない目をしていた。服装は、彼女の髪の色同様に真っ白なワンピースを着ていたが、その服の上から鎖を巻いていたのだ。見た目にも、少女の身体には重そうで痛々しそうに見えるものだった。
その上、彼女はワンピースと身体に巻いた鎖以外に何も身に着けていなかった。靴さえ履いておらず、素足のままでその場に立っていた。
「・・・どうして・・・こんな所に女の子が・・・!?」
明らかに場違いで異様な姿の少女に、風太は混乱する。どうしてこんな所に子供がいるのか。何故こんな異様な恰好をしているのか。
「!風太!彼女は契約者だ!」
「!」
ソウの言葉を聞き、我に返った風太は、再度少女をよく見る。少女の右腕には、風太と同様の銀色のガントレットが装着され、手には少女よりも丈の長い槍が握られていた。その槍は、柄の部分が白い竜を模した形状で、口を開いた所に白い宝玉と穂先が付いていた。
「・・・それ・・・五大竜の契約者の装備・・・!まさか君は・・・セイクの・・・!?」
「・・・。」
すると、少女は有無を言わさず風太に襲い掛かる。
「!」
風太はソード・オブ・フィードで少女の一撃を防ぐ。凄まじい衝撃が、風太の身体に走る。あまりの衝撃に、風太の手は痺れて、剣を落としかけてしまう。
(・・・何だこれ!?これが子供の出せる力か!?俺より強い・・・!?)
契約者の装備には、持ち主を強化する力があることは知っているが、目の前の、しかも、妹と同い年くらいの少女が、自分よりも強い力を見せたことに、風太は戸惑いを隠せない。
「風太!油断したら駄目だ!彼女からヤミーの力を感じる!セイクと同じだ!」
「!?」
「たぶん、資質のある人間を洗脳して利用しているんだ!見た目通りの強さじゃない!」
「・・・ヤミー・・・!あの野郎ふざけたことを・・・!」
妹を攫い、身体を乗っ取って好き放題悪事を働くヤミーの所業に元々怒りを覚えていた風太だが、自身の兄弟ばかりか、こんな少女までも洗脳して利用するヤミーに、さらに憤りを覚える。
「風太!彼女をもう少し抑えてくれ!もう一度【絶対制御コード】を使う!」
「分かった!」
ソウに頼まれ、風太はそのまま少女と鍔迫り合いを続ける。体格差を利用し、何とか少女の力を抑え込む。
「今だ!」
「【絶対制御コード】発動!」
その隙にソウは、再度セイクに【絶対制御コード】を使用する。再びセイクの周囲に魔法陣が展開されるが、またしても砕け散ってしまう。
「駄目だ!【絶対制御コード】が効かない・・・!」
「どうして効かないんだ!五大竜になら効くんじゃなかったのか!?」
「・・・【絶対制御コード】・・・対象は自動的に私に・・・。・・・だから効かない・・・。」
少女は、無機質な感じで風太達に【絶対制御コード】が効かない理由を述べる。それを聞いたソウの表情が凍り付く。
「・・・あり得ない・・・対象を指定しているのに切り替えられるなんて・・・!」
「お前がそれだけ弱くなってるってことじゃないのか!?」
「・・・いや・・・いくらなんでもそんなはずは・・・!」
風太の苦言を否定するソウ。だが、風太はそれ以上、ソウに気をやっている暇はなかった。なんと、体格差で抑え込んでいたはずの少女が、自身を押し始めたのだ。
「!?嘘だろ・・・!まだ強くなるのか・・・!?」
「・・・。」
そのまま少女は、風太を押し返すと、再度突き掛かる。風太はそれも防ぐが、先ほどよりも威力が上がっているように感じた。
「く!冗談じゃないぞ!さっきのでさえキツかったっていうのに・・・!」
「・・・セイク。」
少女がセイクに命じると、セイクは纏わり付くフィードを引き剥がそうとする。
『!まずい・・・!』
『フィード!』
そこに、セイクが動きを止めたことで近付けるようになったエリアスが駆け付けて、セイクを取り押さえる。セイクが取り押さえられたため、フィードは再度、セイクに纏わり付く。
『・・・ありがとう、エリアス。』
『フィード!どうしてセイクは大人しくならないのですか!?』
『・・・僕も分からない!彼の使う【絶対制御コード】が何故か効かないんだ・・・!』
『・・・そんな・・・!』
「・・・!女の子!?何でここに女の子が!?」
エリアスの背にいた渚が、風太と対峙する少女に気が付く。だが、少女も渚を認めると、渚に向かっていく。
「!」
少女のスピードは、風太と比較にならないほどで、一瞬で渚に肉薄し、槍で突き刺そうとする。
「!」
「!渚!」
風太は渚を守ろうと風の魔法を飛ばす。魔法は少女を直撃し、吹き飛ばす。少女はそのまま落下していく。
「渚!大丈夫か!?」
「・・・あ・・・風太・・・。・・・大丈夫・・・。」
「・・・よかった。」
「・・・風太。あの子は?何でこんな所に女の子が?」
「セイクの契約者・・・らしい。・・・セイク同様洗脳されていたみたいだ。」
「え・・・じゃあ・・・。」
「・・・悪いことをしたかな。操られていただけだったのに・・・。・・・それに、風子と同い年くらいの子だった・・・。」
渚を守るためだったとはいえ、操られていただけの、しかも、風子と同い年くらいの女の子を殺したことに、風太は罪悪感を覚える。まるで、風子を手にかけたように感じたのだ。だが、すぐにその考えは消え去ってしまう。
なんと、落ちたはずの少女が、何事もなかったかのように宙に浮いて現れたのだ。
「!?嘘だろ!」
「空を飛べるなんて・・・飛行魔法!?」
「飛行魔法まで使えるのかよ!出鱈目すぎるだろ!」
あまりの規格外な少女の力に、戦慄する二人。だが、ソウは別の意味で戦慄していた。
(・・・慌てていて気付かなかったけど・・・彼女の魔力、確かにヤミーの力による上乗せはある。・・・でも・・・それ以上に・・・!)
「・・・二人共、よく聞いてくれ。・・・あの子には・・・勝てない!」
「何だ急に!?ヤミーの力は強いだろうけど、二人掛かりでやれば・・・!」
「ヤミーの力はおまけだ!彼女の魔力量は、単純に君達を上回っている!本気でやれば、一瞬で圧殺されるほどだ!」
「!?」
「・・・どういうことなの・・・!?」
「・・・彼女の魔力は、ヤミーの力のせいで濁っている。・・・だけど、思ったほど濁っていないんだ。魔将軍なんて、濁り切っているのに・・・。つまり、それほどヤミーから力を与えられているわけじゃないんだ。」
「・・・じゃあ、あの子のとんでもない力の数々は、ヤミーのせいじゃなくて、彼女自身のものだって言うのか!?」
「・・・そうとしか言えない。」
「・・・ソウ。・・・あの子の魔力・・・どれくらいあるの・・・?」
「・・・最低でも・・・風太の一万倍だ・・・!」
「!?」
ソウの言葉に、二人は絶句する。異世界から来た面々で、風太は一番の魔力量を誇るのだ。周りの人間達からも規格外と言われていたというのに、その風太の一万倍など、冗談としか思えないほどだった。
「・・・そんなのとどうやって戦えっていうんだ・・・!?」
「・・・セイク。」
少女がセイクに命じると、セイクは纏わり付くフィードとエリアスを引き剥がそうとする。剥がされまいと抵抗する二体だが、セイクはアッサリと二体を引き剥がしてしまう。
『!あり得ません・・・!』
『僕達二体掛かりを・・・!』
「契約者である彼女の魔力量が高すぎて、本来の強さを引き出すどころか、強さが増しているんだ!それにヤミーの力が加われば、君達二体でも勝てない!」
「・・・やって。」
二体を引き剥がしたセイクは、二体を遠くに放り投げようとする。
「!まずい!」
風太は、ソウの手を取り、フィードの方に戻る。それと同時に、二体は遠くに投げられてしまう。
「くっ!どうすれば・・・!」
全く勝機が見出せない風太。だが、考える間もなく、セイクはブレスを二体に向けて放とうとする。
(まずい!この体勢じゃかわせない・・・!)
もう駄目だと思われたその時、凄まじい速さで何かがセイクにぶつかる。さすがのセイクも体勢を崩し、ブレスは全く見当外れな方向に飛んでいく。
「!?何だ!?」
突然のことに困惑する風太。だが、セイクの側に現れた存在を見て、理由を知る。
『・・・間に合ったか・・・!』
そこには、炎のように真っ赤な竜、火竜ブレイがいた。
ピンチ回、まだ続きます。
一部を修正します。こっちの方が風太っぽいので。