堕ちた光竜
「・・・危なかった・・・!」
フィードに乗る風太は、間一髪危機を免れたことに安堵と同時に戦慄していた。先ほどまで自分達のいた場所が、巨大なクレーターと化していたのだから。
「・・・風太がすぐにフィードを召喚できてよかった・・・。」
「・・・いや・・・よくないよ。・・・寧ろ状況は最悪だ・・・!」
『・・・。』
同乗する渚も安堵している中、ソウとフィードは、緊張した面持ちで上空を見上げる。風太と渚も、釣られて上を見る。
そこには、全身が雪のように真っ白で、神々しさを感じる竜の姿があった。姿形はブレイと同じようだったが、大きさは若干小さく見えた。
「・・・あれは・・・竜・・・だよな・・・?」
「・・・白い竜・・・エリアス、あの竜は・・・!」
渚は、エリアスのサモンカードを手に、エリアスに竜の正体について尋ねる。いや、おおよその予想は付いていたので、確認のためという感じだったが。
『・・・あれは・・・五大竜の一体にして・・・ヤミーと対になる存在・・・!』
『・・・光竜セイク・・・!』
フィードは、絞り出すように、その竜の名を告げる。
「・・・あれが・・セイク・・・!」
「でも・・・どうしてセイクが!?セイクのいるユニバスは、今は通れないようになっているはずだ!通れても、ヤミーの眷属だけのはず・・・!?」
「・・・考えうる限り、最悪だよ。・・・セイクは・・・ヤミーの眷属にさせられたんだ・・・!」
「!?」
ソウに言われ、風太はハッとした。神々しく感じた空気が、実は全く逆の、禍々しいものであることに。身体から放たれるオーラは、純白の身体とは似ても似つかぬ真っ黒なもので、見ているこちらも不快感を覚えるほどである。目も異様に血走り、口元も鋭い牙がはっきりと見え、見るからに危険な存在であることを如実に語っていた。
「・・・よくよく見てみると、明らかに普通じゃないな。怒ったブレイよりもおっかない顔してるしな。」
「ヤミーの力で意識を奪われて、破壊衝動に突き動かされているみたいだ。分かりやすく言えば、洗脳されている。ヤミーの敵を滅ぼすだけの兵器にされたんだ。」
『・・・ヤミー・・・!』
ヤミーの行いし所業に苛立ちを覚えるフィード。だが、そんなことはお構いなしに、狂ったセイクは第二撃目のブレスを放とうとしていた。
『!風竜の息吹!』
セイクのブレスに対し、フィードもブレスで迎撃する。強烈な突風と、眩い閃光がぶつかり合う。
『ぐ・・・!なんて強さだ・・・!』
徐々にではあるが、風のブレスが押し返されていく。
「フィード!魔力が足りないなら、俺のを好きなだけ使え!」
『ありがとう・・・!』
風太の魔力をさらに受け取ったフィードのブレスは強化され、大きくなる。だが、拮抗に持ち込むことができただけで、押し返すには至らない。
『渚!私を召喚してください!フィード一人では危険です!』
「わ・・・分かった!【サモン・エリアス】!」
渚はエリアスに促され、彼女を召喚する。フィードの横に、エリアスが並び立つ。
『水竜の息吹!』
エリアスの水のブレスが、フィードのブレスと共に、セイクのブレスを迎撃する。二体のブレスは、光のブレスを徐々に押し返し始める。
「よし!いけるぞ・・・!」
「頑張って!エリアス!」
(・・・おかしい。契約の影響で弱体化しているとはいえ、ここまで魔力を供給している二体のブレスでようやく押し返せる程度だなんて・・・どうなってるんだ?)
「!」
セイクのブレスの強さに疑問を覚えるソウ。だがその時、突然、光のブレスがさらに大きくなる。それは、今までとは比べ物にならない勢いで二体のブレスを押し返す。
「!まずい!フィード!逃げろ!」
「エリアス!逃げて!」
『!』
『!』
二体はブレスを中断すると、その場を離れる。光のブレスは先ほどまで二体のいた場所を通過し、爆発と同時に下の地面をクレーターに変えてしまう。
「・・・嘘だろ・・・!五大竜二体分のブレスを押し返すなんて・・・!」
『・・・あり得ないよ・・・セイクの強さは僕達と同じくらいなのに・・・!』
『これが・・・ヤミーによる強化なのですか・・・!?』
「・・・こんな出鱈目なのに勝てるの・・・!?」
眷属化したセイクの強さに驚愕する風太達。二体がかりだというのに、まったく歯が立たないのだ。このまま戦ったところで、勝ち目はない。
「・・・!ソウ!【絶対制御コード】だ!あれを使えば・・・!」
「・・・無理だよ・・・距離が離れすぎている・・・!最低でも2mは近付かないと・・・!」
「・・・近付ければ・・・いいんだな・・・?」
「!まさか・・・!」
「フィード!セイクにできるだけ近付こう!あくまで近付くのが目的だ!できるか?」
『・・・無茶言うね。・・・できるかと言えば・・・できると思うよ。どんなに強くても、ブレスは直線的な攻撃だから回避しやすいんだ。近付くだけなら・・・できるかもね。』
フィードは、風太の無茶振りに苦言を呈するも、できなくはないと告げる。
「なら頼む。エリアス。援護を頼む。」
『あなたと契約してはいませんが・・・この場合は仕方ありませんね。渚、私達はセイクを牽制しましょう。この中で、一番素早く動けるのはフィードです。フィードに彼を運んでもらい、【絶対制御コード】を発動してセイクを封じます。お願いできますね?』
「いいよ。魔力は好きなだけ使っていいから。」
「・・・よし・・・行くぞ!」
作戦を決めた風太達は、すぐさま行動を開始する。フィードはセイクに向かって突っ込んでいく。当然、セイクは放置するはずもなく、フィードに対してブレスを放つ。フィードはブレスをスレスレのところで回避する。
「・・・危ないな・・・ギリギリだ・・・!」
『・・・思ったより速いな・・・!近付けばもっと速くなるはずだから、当てられてしまうかも・・・!』
「フィード!もっとスピードを上げるんだ!俺の魔力を使えばできるだろう!」
『・・・分かった・・・!』
風太からの魔力供給を受け、フィードはさらにスピードを上げる。セイクは再びブレスで迎撃するが、今度はフィードを捉えることなく回避される。セイクは尚もブレスを撃とうとするが、そこにエリアスがブレスを放ち、攻撃を防ぐ。
エリアスの牽制もあり、フィードはセイクに徐々に近付いていく。
「よし!これなら・・・!」
成功を確信する風太だったが、次の瞬間、その考えは打ち砕かれてしまう。なんと、セイクの周囲に、大量の光の剣のようなものが浮いていたのだ。
「何だあれ!?」
『・・・まずい・・・!光竜の剣製だ!威力は低いけど、大量に出せてスピードも速い!しかも、どんな角度からでも攻撃できる厄介な技だ!』
「・・・どこかの無線兵器かよ・・・!?」
「!来るよ!」
セイクの作りだした大量の光の剣が、ブレスとは比較にならないほど凄まじい速さでフィードに迫る。フィードは間一髪のところで回避するも、ブレスの時とは違い、絶え間なく攻撃が飛んでくるため、フィードは回避に専念せねばならず、近付くことができなくなってしまう。
「フィード!もっと速く動けないのか!?」
『これで限界だよ・・・!かわすのが精一杯だ・・・!』
「渚!エリアスに剣を壊させてくれ!」
「エリアス!お願い!」
『水竜の息吹!』
エリアスはブレスで光の剣を攻撃する。だが、いくら破壊しても、瞬時に新しい剣を展開されてしまい、妨害にすらならない。
「くそ!壊してもほぼタイムラグなしに作りだせるなんて・・・!」
「エリアス!同じような技で対抗できない?」
『無理です。私も水球を周囲に展開して高速で撃ち出す技が使えますが・・・光と水ではスピードに差があります!』
「ならフィード!お前は!?」
『できればやっているよ!あんなの、光を操るセイクだからできることだよ!』
エリアスもフィードも、セイクのような攻撃はできないと告げる。
「・・どうしよう・・・これじゃあ近付けない・・・!」
「・・・同じ手が駄目なら、範囲の広い攻撃で剣諸共セイクを一気に攻撃しよう!」
セイクの無数の剣による絶え間ない攻撃に対し、風太は範囲の広い攻撃で制圧する方法を考える。
「・・・その考え自体は悪くないよ。あの手の攻撃は、本体が攻撃されれば消えることが多いんだ。消えないタイプでも、攻撃を受けている間は新しく作れない。近付く時間は稼げるはずだ。・・・ただ・・・。」
「よし、フィード!攻撃範囲の広い技だ!」
『・・・それって、セイクを傷付けるかもしれないんだよね・・・?』
風太の指示に対し、フィードは渋る様子を見せる。
「?何言ってるんだ。さっきブレスを思いっ切り撃ってたじゃないか。」
『・・・。』
「・・・風太。余裕がないのは分かるけど、少々デリカシーがないよ。」
「え?」
「君、風子ちゃんを自分から全力で殴れって言われて殴れるかい?」
「!・・・悪い・・・フィード。」
ソウから指摘され、風太は自身がどれだけ無神経な発言をしたのか理解し、フィードに謝罪する。
『・・・ううん。・・・それしかないなら・・・仕方ないよ・・・。』
「・・・。」
当のフィードは、仕方がないと言いつつも、どこか迷いが見て取れた。
『・・・フィード、私も協力します。あなただけが悩む必要はありません。これは、私達が負うべきことです。やるのなら、私も一緒です。』
そんなフィードを見かねて、エリアスは自身も手を貸そうと告げる。セイクのことでフィードだけが責任を感じることのないよう、思ってのことだった。
『・・・ありがとう。・・・いくよ!』
エリアスの言葉を受け、気持ちを切り替えたフィードは、風太の作戦を行うことを決める。二体は自分の属性の力をどんどん高めていく。そして、フィードは巨大な竜巻を、エリアスは巨大な大渦を巻き起こす。
『・・・セイク、痛いけど我慢してくれ。』
『・・・受けなさい!』
二体の放った竜巻と大渦は一体化し、さらに巨大になり、セイクに向かっていく。大渦の前にセイクの光の剣は、アッサリ呑み込まれ、セイクも同様に呑み込まれてしまう。
「今だ!」
セイクが呑み込まれたと同時に、フィードは全速力でセイクの方に突っ込む。この機を逃せば、もはやチャンスはないであろう。
時間にすれば、五秒も経っていなかっただろう。大渦の中から凄まじい光が発せられ、それと同時に大渦はかき消された。現れたセイクは、全くの無傷であった。
だが、それだけの時間があれば、近付くには充分であった。フィードは渦を脱出したセイクに纏わり付く。
『捕まえた!』
「ソウ!今だ!」
「【絶対制御コード】発動!」
ソウは、セイクに【絶対制御コード】を使用する。セイクの周囲に魔法陣が展開される。
「よし!これで・・・!」
セイクの無力化を確信した次の瞬間、魔法陣は突然粉々に砕け散ってしまう。
「!?【絶対制御コード】が・・・!?」
「効かない!?」
『そんなはずが・・・!』
「・・・【絶対制御コード】・・・対象は私・・・。・・・だから効かない・・・。」
「!?」
どこからか、女性の声が聞こえ、風太は周囲を見渡す。すると、セイクの背中に一人の少女が立っていた。
「・・・誰だ・・・!?」
謎の少女登場!果たして、彼女の正体は・・・?