第4話「彼は遅れて青春を謳歌するかもしれない」
僕は今、病院のロビーにいる。
見飽きた程の光景、聞き飽きた程の電子音が、五感を支配する。
左手には、未だ包帯が巻かれ、退院まであと3日。
それまでは、家族の面会が数回あり、最初の面会では、妹の晴香にこっぴどく泣かれながら叱られた。
まあ、頭を撫でたら直ぐに泣き止んで、泣き疲れたのか親父におぶられながら病室を後にした。
学校では勉強はある程度進んでいるだろうが、問題はない。
病院生活の中で、やる事が無かったから勉強だけしていたら、いつの間にか国立大学がやるようなものまで終わらせていた。
実際、何をしても詰まらないし、待合室にあるワードパズルの雑誌は全て解いて、見なくとも問題を溶けるレベルまで達している。
あれ!?あたしのリア充度少なすぎ!?
と、自分の中で茶番をしていた最中、後ろから声をかけられた。
「あのっ!」
余りにも近距離で声をかけられた為、若干警戒しながら後ろを向いた。
そこには、僕の通う高校の制服を来た少女が立っていた。
…………誰?
「あの、どちら様?」
取り敢えず名前を聞く。長年、病院暮らしと言えど、ある程度のコミュニケーションは出来るはずだ。出来るよな?あれ?不安になってきた。
名前を聞かれた少女は、少し頬を染めたような顔をして、
「あの、あたし、立野 朱音って言います。先日は助けて頂き、ありがとうございました」
立野 朱音と名乗る少女は僕に対して深々と頭を下げた。
先日?あー、刺されたんだっけ?なんか、長すぎる入院生活で病院が実家になってて感覚が麻痺してるな。
「別に、僕のすぐ隣りに犯人が居たから止めただけだろ。君を助けた訳じゃない」
立野は、少し驚いた顔をして、そしてその後、にっこりと笑みを浮かべ、
「それでもあの時、あなたが庇ってくれ無かったら、あたしは死んでいたかもしれない。
だからこそ、お礼が言いたいんです」
そう言って、立野は頭を下げた。
そして思い出したかのように、
「あっ、そうだった。これからよろしく科館君」
これから………?よろしく………?
「これからよろしくって、どう言う事?」
その質問に、立野は笑いながら答える。
「知らなかったの?あたし達、同じクラスだよ」
こうして、僕は少し遅れた青春を謳歌するかもしれなくなった。