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僕らは少年探偵団  作者: フジキ リウ
3/5

第2話「不幸な日」

「春うらら」


そんな言葉を聞いたことがある。


ずっと狭い部屋に閉じ籠っていた僕としては、昔から知っていたけど、初めて会うような感じがする言葉。


そんな言葉から始まる、生徒会会長の祝辞は、一時の静寂と共に速やかに終わった。


その後は、各自教員からの連絡など。


これから僕は、初めて自分と同じ年代の他人と関わることになる。今なら「強制移民」の気持ちも解るかもしれない。




入学式から数時間、驚くほどに、コミュニティが既に出来上がっていた。男子だけのグループ、女子だけのグループ、そして、男女混合のグループ。去年、つまり中学からあるグループもあるだろう。


場所は教室。僕の席の位置は、教室の目立たない場所、そして目立つ場所である教室の窓側一番端。授業を受けていれば、嫌でもクラスメイトの行動は目に入る。ある程度の人間関係、癖、視線、行動。それらを繋ぎ合わせればその人間の性格は殆ど把握できる。人間は自らを意識的な存在と言うが、結果は無意識の集合体でしかない。


そう言う僕も、無意識の集合体であり、自らの過去も意識に覆われた無意識の産物と思いたい。


担任教師のホームルームが終わり、明日からは通常授業だとの報告があり、今日は解散となった。まあ、コミュニティに所属していない僕としては、解散も帰宅も返戻も殆ど同じ意味だ。決して前には進まず、ただ安定した安寧がこの手の中にあればいい。


「学園生活を目立たずに静かに暮らす」


それが僕の今の学園生活での第一の課題だ。


配られた教科書とプリントをカバンに入れ、教室を出ようとすると、僕の隣にまだ誰かいた。


前髪を分けて、長髪を後ろで低めに結っている。ポニーテールと言う髪型だっけ?そして、その端正な顔立ちに違和感を覚えた。


それは、彼女がこのクラスで一番の美女。あ、美少女か。年齢的に。


つまり、このクラスで一番の美少女が僕の隣の席だと言うこと。


クラスが始まるや否や彼女の周りには人が群がっていた。女子が僕の机に座ってきたときは流石に心臓が止まりかけました、まる。


それは、「学園生活を目立たず静かに暮らす」と言う目標の邪魔をする不安要素でしかないと断定できよう。


そしてこのムスッとしたような無表情。普通の人間なら「あ、こいつ友達いねぇな」と感知されすぐさまお友達関係はオサラバである。


ボクニオトモダチ?エ?イルヨ?イルイル、ウン。イル(震え声)


そんなムスッとした美少女の名前が「常咲 奏」だ。何処が奏でてるのだろうか。四分三十三秒、もとい永遠に黙っているほどだと思える。もうこのクラスの他の生徒達は僕ら二人を残しただけだ。


異性と2人きり、ましてや、喋ったこともないやつとこの空間で2人きりというのは、落ち着かない。


早急にバッグを背負い、常咲を一瞥して教室から出る。


教室を出て窓を見ると、赤いオレンジ色と薄い青色が混ざりあった空になっていた。


時刻は4時半。今日は両親と妹が外出していて今日帰りは遅くなると言っていた。料理ならある程度は作れる方だが、面倒くさい。


「ここら辺にファミレスってあったっけ」


独り言につれて地図アプリを開き、近くのファミレスの位置を確認する。地図を見て、携帯をスリープにしてポケットにしまった。


校門から出て、真っ直ぐ駅へと向かう。


グラウンドからは、未だに練習している野球部の声が木霊している。


駅に着くと、通勤帰りや学校帰りなどの人々が行き交っていた。


目的地のファミレスまでは、まだ少しある。人混みに酔いそうだ。


周りには人人人人。ずっと病院暮らしだったからこんな人がいる場所は何故か落ち着かない。早くこの人混みを通り越してしまおう。


そう思った矢先、隣で歩いていた男が、パーカーのポケットから何か銀色の何かを取り出した。男はニヤリと笑うと、目の前を歩いていた女子の集団に視線を向ける。


男の手に握られていたのはナイフだった。


「…………マジか!」


両手で握りしめられたナイフは1人の女子へと勢いをつけた。


次の瞬間、体に悪寒を感じ、左手には生暖かさを感じた。


目の前を見ると、男が怯えている。


「ひっ………、あ、ああああああ!!!!」


男は叫びながら、紅く染まったナイフを握りめ、腰を抜かしている。


すると、ポタポタと水音が聞こえてきた。


足元を見ると自分の靴やズボンが紅く染まっていた。


「……………え」


左手を見る。そこには縦に細い穴が出来ていた。


「………あ、はは」


視界がぼやける。


誰か気付いたのか悲鳴をあげた。


意識が遠のいていく。


ああ、もう。


──世話無いわ。



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