プロローグ
同名のフジキ リウと言うアカウントがありますが、これは作者がメールアドレスとパスワードを忘れてしまった為に、このアカウントで小説の更新を行うことにしました。
すみません。
僕は縛られていた。学校でよく見る木と鉄パイプでできた椅子にだ。
麻縄で強く両手と足首を縛られていた。
とある部活動の部室と思われる教室には、お偉いさんが座るような高級そうな椅子と、その前にある机。接客用に利用されるであろう、相対的に向き合うように配置された黒いソファがあった。
壁には本棚が設置されていて、様々なファイルや推理小説、ミステリー小説がズラリと並び、綺麗に整頓されている。
それにしてもここは何処なのだろうか?
思いつく事を考えて見たが、思い当たる節も見当たらない。
蛍光灯もついていない薄暗い部屋で、何時間ぐらいいたんだ?
それも、何故気絶してたのかがわからない。
思い出そうとした途端、頭に痛みが走った。
さっきまで知覚していなかったが、どうやら頭を強打されたらしい。後頭部が痛むから多分、後ろからの奇襲されたんだろう。
そう考えているうちに、後ろの方からドアが開く音が聞こえた。
「やあやあ、手荒な真似をしてすまないね。科館君」
カツカツと足音を鳴らしながら、僕の視界へとそいつは現れた。
そいつの名前は九村 華奈。
多分、僕をここに閉じ込めた張本人だ。
「こんにちは、私がこの特別創立部活動探偵部部長の九村 華奈だ」
胸をそらしてえっへんと誇らしげに俺の目の前に立つ。
「あの〜、なんで僕は縛られているんですかね?」
恐る恐る質問してみる。
「ん?勧誘に決まっているだろう?」
「それだったらこんな事しないで普通に勧誘して下さいよ!」
「君が逃げるからに決まっているだろう!」
「決まっているだろう!ってあんなの勧誘って言うんですか!?」
僕が今まで受けてきた勧誘は、昼休み中追いかけ回されたり、放課後も後をつけられて帰路を回り道しなければいけなかったり、挙句の果てには俺がいる個室トイレの扉の前に何時間も居座られた事がある。
「君が入部届に名前を書いてくれればそれで万事解決じゃないか」
「僕の意思はどうなるんですか?」
「君の意思などどうでもいい。私は君が欲しいのだ」
そう言って両腕を広げる。
「僕が欲しいって言っても、そんな得をするような事は……………じゃなくて!早く開放してください!じゃないと叫びますよ!?」
「ああ、やってみろ」
ケロッとした顔で応答した九村 華奈。
「じゃあ、行きますよ」
何か怪しいけど今は叫ぶしかない。
僕は大きく息を吸って叫ぶ準備をする。
「常咲!」
「うぇっ!?むぐっ!」
九村 華奈が誰かの名前を言った途端、僕は誰かによって口をタオルで塞がれていた。
「お嬢様がせっかく勧誘なさっているのに、なんて失礼な野郎でしょう」
そう言って現れたのは、僕のクラスメイトである常咲 奏だった。
口のチカラだけでタオルをズラす。
「ぷはぁっ、お前、常咲!何でお前がこんなところに!」
常咲と言えば、俺の隣の席のやつだ。まだ慣れない学校生活で勇気を出して声を掛けたが冷たい目でスルーされた苦い思い出がある。
それ以来、僕はこのクラスメイトが苦手だ。
「お前も探偵部ならこの空オツムの部長さんに言ってくれよ!」
しかし常咲は、同じ冷たい目で僕を見て、
「お嬢様の言動は絶対です。例えあなたが死のうとも……」
まさかの裏切り!?いや、同盟すら組んでないけど。
「そういう訳だ。常咲は私の家に代々仕えている召使いの家系でな、到底、私以外の命令は聞かん」
僕は冷や汗を掻きながら言葉を口にする。
「召使い?え、それって逃げられないって事?」
そう聞くと、九村はにっこりした顔で
「今までの勧誘は全て常咲が考案したものだ」
もう逃げられないじゃないっすかー!!!!
1対2と言う、不利な状況に、こちらは椅子に縛り付けられると言うペナルティを課せられている。更に僕は若い女性、同世代の女性と言うものに慣れていない。ずっと病院ぐらしだった為か、身近にいた女性と言うのは年配の患者と年増の看護婦と母親ぐらいだけだった。
もうこの部屋から一目散に逃げ出したい気分だ。
「さて、科館君。私は君にどうしても探偵部に入部してもらいたい。その有り余る知識を活用する事は、何よりも有意義な事だと思うのだがね?」
そう言って、入部届を差し出して来た。
「断った場合は?」
「殺します」と常咲が何処からかナイフを取り出した。怖ぇよ。目が本気だよ。
「実際、私には逆らわない方がいい。常咲はさっきも言ったが私の命令しか聞かない」
「お嬢様の命令はどんな事でも遂行します」
冷淡と吐き出したセリフにまた冷や汗を掻く。
「つまり、解っているだろうが断った場合、君はどうなるか解っているな?」
殆どが恐喝で強引な勧誘は、九村 華奈、彼女の不敵な笑みに僕が負けた事で終わりを告げた。
いや、終わった訳じゃない。
ここから僕の最も関わりたくなかった日常が始まる。