第7章:もうテストか……
遂にこの時がやって来た。
身体測定の時間!俺は先に先生に提出すれば良いだけだけど、周りの視線が凄そう……。『なんで貴方だけ家で調べてるの?』って言う視線にさらされるのか……。別に視線自体は気にしないのだが、俺はここでは注目される訳にはいかないんだよなぁ……。でもここで出さなかったらバレてしまうから腹をくくるしか無いか。
「もうすぐ身体測定を始めます。 先ずは体操服に着替えて、体育館に集合して下さい。」
よし、言うなら今しかない!
「あの、先生。」
「どうしました桐生さん。 何か問題でも有りますか?」
「いえ、これを先生に渡したくて。」
そう言って先生に身体測定のプリントと、理事長さんの許可書を渡した。
「これは………。 分かりました。 確かに受け取りました。 それでは桐生さんはここで自習をして待っていて下さい。」
「はい、分かりました。」
ふぅ、とりあえずこれで受けなくて済む。周りの視線は予想してた通りだから気にならないが、注目されるのは不味いな……。まぁ兎に角今は何もせず、静かに時が過ぎるのを待つか。
「それでは皆さん、着替えて移動して下さい。」
「「はい。」」
返事と共に皆が着替えを始めた。………ちょっと待て。もしかしてここで着替えるのか?っと言うことは………。
「あれ? 咲ちゃんどうしたの? 顔が真っ赤だよ?」
「い、いえ! 何でもありません! 気にしないで早く着替えて下さい!」
「う、うん。」
綾は俺が必死に言うものだから戸惑いながらも言う通りにしてくれた。俺は今非常に目のやり所に困っている。俺は男で周りはみんな女子。しかも着替えてるから下着が見えたり見えなかったり……。兎に角顔を伏せる!そして皆が着替え終わるのを待つ!頼むから早く終わってくれ!
「咲どうした? 顔を伏せて。」
「ち、ちょっと今日は寝不足でしたので少し睡眠を取ろうかと。」
次は舞がやって来た。気にかけてくれるのは嬉しいが今は全然嬉しくない!
「ふ〜ん。 でも話すときぐらいは顔を上げないさいよね。」
「は、早く寝たいので出来るだけ目を瞑ってるのです。」
「ふ〜ん。 そこまで言うなら邪魔しちゃ悪いから私は行くね。」
「は、はい。 行ってらっしゃい。」
「うん。」
舞は行ったか。
もう少しの辛抱だ。
頑張ろう!そのまま数分したら物音が聞こえなくなったのでそぉーっと顔を上げてみると………良かった、誰もいない。ここでお約束として誰か一人残ってたりするのかと思ってヒヤヒヤしたぜ。でも無事やり過ごせたみたいだな。さて、先生も言ってたことだし予習でもするか。別にしなくても分かるけど。でもその前に少しだけ寝ようかな。昨日の夜は意味無く緊張してたから良く眠れなかったし。それじゃお休み…。
「さ……ん……て。」
ん?話し声が聞こえたけど誰かいるのか?
「咲ちゃん起きて。」
俺を呼んでるのか。しかもこの呼び方ってことは綾か。
「ん……。」
「あっ、ようやく起きた?」
「はい、お陰様で起きました。 それで、何か用事ですか?」
「うん、もう皆帰ってきてるからそろそろ先生が来るだろうと思って起こしたの。」
「そうなんですか。 態々有難うございます。」
どうやらもう皆帰ってきたみたいだな。
しかも既に制服を着ていると言うことは着替えも終わったと言うことか。
良かった……。
また着替えを見せられたらたまったもんじゃないぜ。それにしても俺は皆が行ってから帰ってくるまでの間ずっと寝てたってことになるのか?時間にしたら1時間ちょいか……。俺ってそんなに疲れたのか……?まぁ寝てたお陰で着替えを見なくて済んだからよしとするか。とりあえずまだ少し時間は有るだろうから綾と話でもするか。
「綾さん、身体測定はどうでしたか?」
「うっ。 あ、あんまり良くなかった……。」
「そんなになんですか?」
「前よりも0.5キロも太ってた……。」
0.5って……。そんなのどうでも良いだろ。
「それぐらいでしたらそんなに問題は無いんじゃ無いですか?」
「確かに大袈裟に言うことでも無いけど……。 それでもちょっとでも体重が増えたのは問題なの! 私達女の子は体重の増えた量よりも体重が増えたことに問題があるの! 咲ちゃんだってそう思うでしょ?」
俺は男だから分からないけどね。でもそんなことは死んでも言わない。
「まぁわかりますけど……。」
「ならあんなこと言わないで! 分かった!?」
「は、はい。 分かりました。」
「宜しい。 それで咲ちゃんはなんで受けなかったの?」
「私ですか? 私は」
「皆さん、静かにして下さい。」
言おうとしたら先生の声が聞こえた。先生いつの間に入ってきたの……。
「先生が入らしたので、この話しは後でしましょう。」
「うん。」
とりあえず今は先生の話を聞くのに集中することにした。普段ならこんなに集中しては聞かないけどこの学院なら話しは別だ。先生の連絡を聞き損ねてバレたとなったら目も当てられない。
「皆さん身体測定は終わったようですね。 今日はもう授業も無いのでこれで終わりですが、その前に連絡事項を言います。 来週には実力テストがあります。 テストの時に苦労しないように、早い内から勉強を始めておきましょう。 連絡事項はそれだけです。 皆さん、今日も1日お疲れさまでした。」
もうテストの時期か。何だかあっという間だったなぁ。
最近は毎日が無駄に疲れるせいで時間が短く感じるな……。これは良いことなのか悪いことなのか微妙なところだ。
「咲ちゃん帰ろう。」
「あっ、はい。」
綾に誘われていつも通り3人で帰っていた。
「うぅ〜、テストなんて嫌だよぉ……。」
「私も好きじゃ無いわね。 綾程では無いけど。」
「お二人ともそんなに嫌いなんですか?」
別に俺だって好きでは無いが、別に嫌いでもない。テストとかで特に困ったことなんて無いしなぁ。
「嫌に決まってるじゃない! あれは拷問よ拷問! 何時間も分からない問題を無理矢理解かせようとするなんて拷問以外には考えられない!」
「まぁ綾程では無いけど嫌いね。 分からない問題を解こうとしてると苛々してくるし。」
「舞は勉強出来るから良いじゃない! 私は全然なのよ!?」
「そ、そんなこと無いわよ。」
「舞さんは成績が良いのですか?」
綾は成績が悪くて舞は成績が良いのか?まぁ雰囲気で何となくは理解出来るけど……。
「舞はね、毎回テストで上位10位以内には絶対いるの。 凄いよねぇ。」
へぇ〜、上位10位以内か。凄いじゃん。
「舞さんは凄いんですね。 綾さんはどうなんですか?」
何となく聞かなくても分かるけど……。
「わ、私は、ほら、ね。 わ、私のことなんかよりも咲ちゃんは!?」
言えないほど酷いのか……。まぁこれ以上は聞かないでおくか。それより俺か……。どうしよう、普段なら毎回1位を取ってるって言うけど、この学院では目立たない為にも成績は抑えるつもりでいるからな……。まぁここはこれからの為にもちゃんと答えるか。嘘を。
「私はいつも平均点を前後してますね。」
これぐらいが無難な答えだろ。正直平均点ぐらいの点数で話題を盛り上げるなんて絶対無理だろうしな。
「咲は平均点を取れてるってことはそこそこ出来るってことね。 これで問題なのは綾だけね。」
「うぅ〜。 な、何とかなるもん。」
「勉強をしませんでしたら何とかなるものもならなくなりますよ?」
「うっ……、そ、そもそも勉強なんか生きていくのには必要無いじゃん! なんでそんな必死にやるの!?」
勉強出来ない奴の常套句だな。ここまで言うってことは相当酷いみたいだな……。どうする、勉強を見てやっても良いが俺の実力は平均点並みと言うことにしている上に、勉強を教えるってことは学校が無い日にもこの格好(女装)をしなければならないんだよな……。これは綾には悪いが頑張って貰うとするか。
「必死にやるのは成績の為よ。 まぁこれ以上この話をするのは綾には可哀想だからこの辺で止めるわ。」
「そうですね、それが良いと思います。」
「そ、そうだよ! 勉強の話なんかよりもっと楽しい話しようよ!」
この話しは綾が振ってきた筈なんだが……。まぁ深くは突っ込まないでおくか。それからは他愛もない話をしてそれぞれ家に帰った。
「なぁ母さん。」
「なに?」
「今度実力テストがあるんだけどさ、別に真面目にやらなくても良いよな?」
一応母さんに聞いとくことにした。真面目にやらないってことは当然点数が下がり、成績が悪くなるから親としては見過ごせないかもしれないしな。
「んー、あまりに酷い点数じゃ無ければ良いわよ。 どれぐらいを目指してるの?」
やっぱり許可してくれたか。母さんはそんなに成績に煩い人では無いし、俺が出来るのは知ってるしな。
「目標は平均点ぐらいかな。 テストを見て適当に予想を付けてその点数を取る。」
これが俺のやることだ。平均点って言っても分かるのはテスト返却の時だから、予想は出来るだけずれないようにしないといけないのが難しいけど……。
「そぉ、まぁ翔ちゃんなら簡単でしょう。 頑張ってね!」
「あぁ。」
それから晩飯を食べて、風呂にも入り後は寝るだけになったけど、やっぱり寝るには早い時間だ。
そうだな、測定の時間に寝てしまったから今から少し勉強するか。………あっ、そう言えば綾に何で俺だけ受けなかったのかを教えるの忘れてたな。まぁそんな大事なことでは無いしまた今度教えるか。それから勉強してたら段々といい感じに眠気が襲ってきたから、この時を逃さない為にもさっさと寝ることにした。