第2章:これが……桜聖……
俺は今、女装をして街中を歩いている。もしこんなとこを知り合いに見られて、俺だとバレたら俺の人生終わりだな……。
「あのう。」
「!! は、はい?」
「あなた、どこかでお会いしましたか?」
誰かに呼ばれ、定番のセリフを言うからどんなナンパ野郎かと思い、振り返って見た。
「!!!!」
そこにいたのは中学のクラスメイトで、少ししか話したこと無いけどナンパが出来るほどの勇気は無い、内気な奴だったはず。そんな奴が話かけてきたってことは……。や、やばい!!やばすぎる!!
「い、いえ。 そんなことはないと思いますけど。」
「そうですか……。 すいません、少し雰囲気が似ていたもので。」
「か、構いませんよ。 そ、それでは!!」
俺は別れの言葉を言ったら、すぐに逃げ出した。あ、危なかった……。1日目で、しかも知り合いにバレるとこだった……。もしバレてみんなに女装してるのが伝わったら……。
「桐生君って気持ち悪いね。」
「おい変態、近づくなよ。」
うわぁぁぁぁ!!い、嫌だ!それだけは絶対に嫌だぞ!こうなったら、何としてもバレないようにしてやる。そう固く決意して、再び桜聖に向けて歩き出した。あれ以降誰にも会わなかったけど……。これは通学路を変えた方が良さそうだな。じゃないといつバレるか分かったもんじゃない。そんなことを考えてると校門が見えてきた。
「ここが、桜聖……。」
遂に、遂に来てしまった。こんな所、来る予定なんか無かったはずなのに……。そろそろ腹を括るか。
「よし! 行こう!」
「お待ち下さい。」
「え?」
行こうとした直後に止められた。いったいなぜ?振り返ると、そこには警備員らしき女性がいた。俺はここの生徒なんだから、止められる理由なんて無いはずなのに……。はっ!まさかバレたとか!?
「学生証を見せて下さい。」
が、学生証ぉ?何で学校に入るだけで学生証がいるんだ?制服を着てるんだから問題ないはずじゃ……。
「学生証を見せて下さい。 もし持っていないなら不信人物として、警察に突き出しますよ。」
け、警察ぅぅ!?は、早く出さないとヤバそうだな……。
「これです。」
「ふむ。」
何かすっごい念入りに調べてるな……。あっ、何かの機械に通してる。あれは何の為に?
「はい、ありがとうございます。 偽物ではないようなので通って良いですよ。」
偽物では無いって何で分かったんだ……ってさっきの機械か。どうやらあれで本物か偽物かの違いが分かるらしいな。でもあんなこと、全生徒に対してやってるとしたら……。気が遠くなる作業だな。
「どうしたんですか? 早く行きませんと入学式に遅れますよ。」
「あっ! 教えて下さりありがとうございます。 それでは!」
俺は走って体育館に向かった。走るときにも走り方に気をつけなければならないから、いつも以上に疲れた……。はぁ〜、来て早々こんなんじゃ先が思いやられるな……。
体育館に入ったら、すでにたくさんの人がいた。
この学校は入学式のときは適当に座らして、終わった後にクラスを教えてくれて、それから言われたクラスに行くことになってる……らしい。ともかく人が少ない所に座って始まるのを待つとするか。それにしても……。右を向いても左を向いても、四方八方どこみても女、女、女。こんなに多いとかなり恐怖を感じるな……。早く帰りたいなぁ。
『只今より、平成××年度、第○○回、始業式を始めます。 まず最初は、校長先生のお話です。』
「皆さんおはようございます。 今日からあなたたちは…………………以上です。」
な、長い!長すぎる!校長の話が長いのは定番だけど、30分も話すなよ!危うく寝るところだったじゃないか!
「さて、次は校歌を歌って貰います。 皆さん、ご起立下さい。」
校歌?俺校歌とか知らんぞ。あっ、学生証に乗ってるかも。えっと、校歌校歌っと………ない。ならどうしろと?
「〜〜♪〜〜♪〜〜〜♪」
始まってるよ!こうなったら口パクしかない!
「〜〜♪〜〜〜♪〜♪〜〜〜」
『以上で、入学式を終わります。 次はクラス発表と先生紹介です。』
ここは生徒からの一言とかは無いのか。まああれもいらないしね。
『ここに紙を貼ってます。 右側の列から順番に見ていって下さい。』
俺はいつかなぁ……って一番目かよ。ならさっさと見て戻るか。さて俺は………無いな。……何故に?
「あっ。」
そう言えば名前は咲に変えてるんだったな。すっかり忘れてたぜ。え〜っと、咲、咲、咲っとあったあった。1年9組、最後のクラスか。
『それでは前の方は降りて下さい。 次の列の方、前の方が降りましたら見に来て下さい。』
あっともう終わりか。さっさと降りるか。席に座り、時間が経つのをただひたすら待った。
『皆さん自分のクラスが分かりましたね? それでは次は、先生の発表です。』
先生の発表か。別に誰でも良いから適当に聞き流すか。
『私は1組………………はい、有難うございました。 これにて入学式を終わります。 皆さん、自分の教室にお戻り下さい。』
さてと、確か9組だったな。行くか。
「ここが9組のようですね。」
9組に着いた。まだ誰も来てないみたいだし、先に入って座って待つか。ここは周りは女子しかいない上に、作法などを考えないといけないから、ただ話すだけで疲れてしまう。座って待ってると、続々と人が入って来て、全席埋まった。埋まったと同時に先生が入って来た。
「先程も紹介しましたが、もう一度紹介します。 私の名前は笹瀬麗子です。 今から皆さんに自己紹介をして貰います。 1番の方、前に出てきて下さい。」
自己紹介か。面倒だな……。さすがにバレはしないと思うが……。あまり人前に立ちたくないし目立ちたくもない。そんなんでバレたら俺は終わりだ……。
「次の人は……桐生さんですか。 お願いします。」
遂に俺か。当たり障りの無いこと言って済ますか。
「私の名前は桐生咲です。 よろしくお願いします。」
完璧だ!喋り方、お辞儀の仕方、歩き方、座り方、全てに置いてミスは無いはずだ!
「はい、有難うございます。 では次の方………。」
この後も俺は、ただただ座って前を向いてるだけで過ごした。今は一限目のHRも終わり、休み時間である。だが俺は話しかけない。周りは既に話し掛けたりしているが、俺は話し掛けない。自分から話し掛けて、もしボロを出したら目も当てられない。ここは静かに、時間が経つのを待てば良いのだ。
「桐生さん。」
「!! は、はい?」
話し掛けられた!くそっ!ボロを出さないよう気をつけなければ!!
「少しお話しませんか?」
どうする俺!?ここで断れば怪しまれる、かと言って話ていればボロを出すかもしれない。どうする俺!!
「桐生さん? どうかしたんですか?」
「あ、は、はい。 良いですよ。」
しまったぁぁぁ!!OKしてしまったぁぁぁ!!こうなったらボロを出さないよう、細心の注意を払って会話をするか。
「有難うございます。 では何を話ましょうか。」
そっちが話掛けて来たのに話題の準備してないのかよ!!
「よう綾。 どうした?」
「あっ、舞ちゃん。」
また誰か増えたぞ。くそっ!人が増えると困るな。だが一度OKしたんだから、今更無しには出来ない。えぇいこうなりゃヤケだ!
「こちらの方が私に声を掛けて下さったんです。」
「ん? 君は?」
「私は桐生です。 あの、あなた方のお名前は?」
「あっ、私は波井綾です。 よろしくお願いします。」
「私は鈴堂舞だ。 よろしく。」
ふむ、少し冷静に(ヤケに)なったところで、この2人をじっくり見てみるか。さっきまで焦りまくって、見てる余裕なんか無かったからな。ん〜綾は髪が腰近くまであって、なんか大和撫子みたいな雰囲気だな。そんで舞は髪は短くて、ボーイッシュな感じだな。ん?波井に鈴堂?どっかで聞いたこと有るような……。
「あっ!!」
「どうかしたんですか? 桐生さん。」
「桐生、何かあったんか?」
「もしかしてあん、あなた達は波井財閥と鈴堂財閥の娘さん達ですか!?」
あぶねぇ〜。危うくあんたらとか言うところだったぜ。
「はい、そうですよ。」
「そうだけど。」
「へ、へぇ〜。 そうなんですか。 凄いですね。」
いきなり凄い奴らに声を掛けられたな。ってちょっと待て、もしこの2人に俺の正体がバレたら、それはこの日本を支えていると言っても過言じゃない、2つの財閥にバレるってことで、そうなると俺は………。絶っっっ対にバレてはならない!何が何でも隠し通すぞ!
「何が凄いんだ? ただ親が凄いだけで、子供は普通だよ。」
「そうです。 私達は普通ですよ。」
ん?何かコイツら随分自分のことを低くしてるな。何でだ?
「あ、あの、どうして、そんなに自分を低くするんですか?」
子供とは言えあの財閥の子供何だから、少しは偉そうにしても良いのに。まぁアニメや漫画にいる令嬢みたいに、口元に手を当てて『オーッホホホ』とかは言わなくても良いけどさ。でも何か、ちょっとだけ辛そうな顔してるな……。
「昔から皆さん、私達が財閥の娘だから必要以上には話をしたりしなくて、友達が出来なかったからこれからは出来るだけ家のことは否定して、友達を作ろうかと思ったんです。」
なるほどな。金持ちの家に生まれても、良いことばかりでは無いって訳か。この2人も苦労してるんだな〜。
「そうですか。 すいません。」
「い、いえ! 謝らなくても結構です!」
「そ、そうだよ! 気にすることないって。」
「ですが……。」
知らなかったとは言え、あまり言いたくないことを言わしたことには変わらないしなぁ。
「なら、私達と友達になってくれませんか?」
「え?」
友達?それは良いことなんだろうか?それとも悪いことなのだろうか?友達になればこの学院生活も、少しは楽しくなるだろう。でもその分バレる危険性は一気に跳ね上がる。これはどうするのが最良なのだろうか……?
「ダメ…ですか。」
「そう…だよね。 財閥の娘とは友達になりたく無いよね……。」
それを言った時の2人の顔は、何かを諦めたような悲しい顔をしていた。その顔を見たとき、俺の心は決心した。
「いえ、良いですよ。」
「い、良いんですか?」
「ほんとに良いの?」
「はい。 私からもお願いします、友達になって下さい。」
「は、はい!」
「う、うん!」
この時、俺達は友達になった。