第11章:暇だ……
綾が次の問題集に取り掛かってから、既に30分は経っている。けど未だに聞いてこない。これはちょっと予想外だ。さっきのを見る限り、何回も聞いてくると予想してたんだけどな……。まぁ聞いてこない方が楽で良いんだけどな。
「咲ちゃ〜ん、ここ分かんない。」
遂に聞いてきたか。さて、どんな問題なのかなぁ。
「ここなんだけど……。」
「えっとですね、これはこちらの式を変換して、こちらに移項したら出来ますよ。」
「おぉー! 流石咲ちゃん!」
「いえいえ。 さっき使った公式は、色々と応用がききますから、覚えておくべきですよ。」
「へぇ〜、分かった。」
そして次の問題に取り掛かった綾。さっきの問題は、あの問題集の中でも結構難しい問題だったから、聞いてきたのも分かる。しかし綾、結構出来てるじゃないか。この調子で残りの問題集も終わらしてくれたら楽なんだけどなぁ。
聞いて来てから一時間が経った。綾は休憩せずにずっと問題集と向かい合っている。綾が頑張ってる間に、俺は二冊目の問題集が終わった。綾もそろそろ終わるかな?
「咲ちゃん! 終わったよ。」
「そうですか。 どうでした?」
「ちょっと難しかったけど、分からないことは無かったよ。」
「それは良かったです。 時間的にそろそろお昼にしませんか?」
「あっ、うん。 舞ちゃんはそれで良い?」
「良いわよ。 でも綾、さっきは凄い集中してたわね。」
「うん。 何か簡単だったから、スラスラ解けて楽しかったの。」
「へぇ〜。 咲、一体どうやったの?」
「綾さん用に問題集を持ってきたんです。 どれぐらい出来るか分からなかったので、基礎の基礎から持ってきたんです。 それで、一番簡単なのをやらせてみましたら、直ぐに終わらしてきたので、そこからどれぐらい出来るか予想して、それにあった問題集を渡してやってもらってたんです。 しかも、その問題集も出来るだけ薄くて、内容が詰まってるのを持ってきたんです。」
「なるほどね。 問題が簡単に解けると気分的には嬉しいし、問題集が薄ければ、やる前からやる気が無くなることも無いってことね。」
「まぁそんな感じです。 それよりお昼はどうするんですか?」
ここで食べれるなら食べてみたいなぁ。きっと美味しいだろうし、お金も使わずに済むし。
「一応ここで食べるつもりよ。 何にするかは綾しか知らないけど。」
「既に私がシェフに頼んでるから大丈夫。 今から連絡して作って貰うね。」
「お願いね。」
「お願いします。」
「は〜い。」
返事をしたら、直ぐに綾は携帯を取り出して電話をしだした。同じ家にいる人相手に一々電話しないといけないのか……。もういい加減驚く気力も無くなってきたぞ。でもホント、こういうのを見ると、やっぱりこの二人はお嬢様何だな〜ってのを改めて実感させられるな。
「あと15分もしたら出来上がるらしいから、食堂に向かおう。」
「それはいいけど後15分って早いわね……。」
「なんか向こうが、私達がそろそろ終わるんじゃないかと思って、少し前から用意を始めてたみたい。」
なんだか予知能力みたいだな……。まぁこんな家だ、色んな人がいたって可笑しくはない。だから気にしないことにしよう。じゃないとやっていけない……。
「ふ〜ん。 じゃあ早く行きましょ。」
「うん。」
「はい。」
部屋から食堂に向けて歩き出してからそろそろ15分が経つ。しかしまだ歩いていた。一体どこにあるんだ……?
「綾さん、まだ着かないのですか?」
「もうすぐだよ。 あっ、あの扉が食堂だよ。」
ようやく着いたか。なんでこんなにも無駄に広い家に住んでるんだ?どう考えてもこの時間は無駄な上に疲れるだろ……。これがたまにならいいさ。でもこれを毎日だろ?俺なら速攻で家出しそうだ……。
「綾さんは毎日こんな苦労を?」
「うん。 家って無駄に広いからね〜。」
一応自覚はしてるんだな。これで自覚してなかったらどうしようかと思ったぜ。あれ?綾でこれならもしかして舞も……?
「何よ咲。 言っておくけど、私の家はもっと小さいわよ。 この辺りでは一番小さいぐらいよ。」
「そ、そうですか。」
まぁあの話を聞いた後に舞のことを見てたら誰でも気づくわな。でも舞までもがこんな家じゃなくて良かった。もしそうなら行くのを躊躇してしまう。
「さっ、着いたよ。 もう準備も出来てる筈だから入って。」
「はい。」
今度は綾に促されながら食堂に入った。………まぁ予測はしてたけど、ここも無駄に広いな。だがもう驚かないぞ。と言うか驚くのに疲れた。それで、綾が頼んだと言う料理は何なんだ?また予想もつかないやつか?
「パスタ、ですか。」
「うん。 パスタ嫌いだった?」
「い、いえ、好きですよ。」
「そう? なら良かった。」
これはある意味予想外だったな。絶対普段はお目にできないような料理が出てくると思ってたのに。まぁ個人的には、そんな食べたことも無いよく分からん料理よりも、パスタみたいな料理の方が好きだから、これで満足なんだけどな。
「じゃあ早く座って食べよう。 舞ちゃんは何時もの場所だから。」
「分かったわ。」
何時もの場所?ってことはよくここで食べてるって事か。ホント、この二人は仲が良いなぁ。俺にはここまで親しい奴は一人もいないのに……。まぁいつか出来るか。
「咲ちゃんはここ。」
綾が指してる場所は綾の隣の席である。舞は綾の向かい側に座っている。しかしここのテーブル、むちゃくちゃ長い上にイスがズラズラと並んでるけど、一度にこんなにもの人数で食べることなんてあるのか?まぁ俺が分かる訳無いか。兎に角食べるか。
「では、頂きますね。」
「頂くわね。」
「どうぞ〜。」
俺が言うのを合図に、皆で一斉に食べ始めた。さて、どれぐらい美味しいかなぁ。………んー、美味しいんだけど、なんだろう、何故か母さんの方が美味しく感じる。
「どう? 美味しい?」
「はい。 とても美味しいですよ。」
「いつも通り美味しいわね。」
「良かったぁ。 これで口に合わなかったらどうしようかと思ったよ。」
これで口に合わない人は殆どいないだろ。
いても味覚が可笑しい奴ぐらいだろ。
俺はそう感じるぐらい、これは美味しいと思うぞ。
まぁ俺の母さんの方が美味しく感じるのは、味付けの問題だろうな。
この料理の味付けは、色んな人皆に美味しいと感じて貰う為の味付けで、母さんのは俺や母さんにだけ合わしてるから、母さんの方が美味しく感じるんだろうな。でもそう考えると、母さんの料理はかなり凄いことになるよな……?まぁ今更驚きはしないけどさ。それから三人で談笑しながら食事して、全員が食べ終えたらまたあの部屋に向けて歩き出した。
あの長い道のりを歩き終え、また皆勉強を始めた。綾には、今度は舞が付いている。だから俺は今、問題集をやってるのだが一つ問題が出た。それはやる問題集が無くなったと言うことだ。俺は普段、家ではそんなに勉強をするわけじゃないが、する時はいつも大学の問題をやっているから、今更こんな問題をやっても簡単すぎてすぐ終わってしまう。俺の予想では、綾の世話にかなりの時間が掛かって、自分のは全然終わらないと思ってたんだ。だけどやりだしてみたら予想外な事に、綾は全然聞いてこない。お陰で俺の方が凄い勢いで進んで、速攻で終わってしまった。ホントにどうしよう……。………そうだ。舞の持ってる問題集をやらして貰おう。舞も俺と似たようなペースだったから、もう何冊か終わってても可笑しくないしな。そうと決まれば早速聞くか。
「舞さん。」
「ん? なに咲?」
「舞さんの終わった問題集貸してくれませんか?」
「いいけどどうして?」
「自分で持ってきたのが全て終わってしまって、やることが無くなったんです。 ですから、問題集が何冊か終わってそうな舞さんに頼んだんです。」
「なるほどね。 でもそれ難しいわよ。 大丈夫なの?」
「大丈夫です。 調べる用意はちゃんと持ってきてますので。」
実際はこんな物に頼らなくても解けるけどな。でも周りには隠してるんだから、使わないといけないんだよな〜。
「そう、なら心配無いわね。 はい。」
「ありがとうございます。」
よし、これで新たにやることが出来たな。さぁ〜て舞はどんな問題をやってたのかな〜。………これはたぶん3年でやる問題だな。舞はこれをスラスラ解いてたって事は、舞もかなり頭が良いんだな。綾とは大違いだな……。まぁこれなら舞に関しては何も問題は無いか。よし、やるとしますか!
舞の問題集をやりだしてから、2時間が経った。
あれからずっと舞が教えてるみたいだから、俺の出番が無い。
………俺来る必要あったのか?俺ここに来てやったことって、自分の問題集を仕上げること。
しかも古いやつ。
次に綾に問題集を渡して、一・二問教えること。
後は舞から問題集を借りてやっていること。
これぐらい何ですけど……。綾とは少ししか関わってないし、舞から借りた問題集も、普通なら難しいだろうけど俺にとっては何も問題は無い。そして舞から借りた問題集も、もうすぐ終わる……。どうしよう……。これじゃあまた振り出しだ。………とりあえず休憩するか。二人はどうするか聞いてみるか。
「舞さん、綾さん。 私今から休憩でお茶を入れるのですが、二人とも要りますか?」
「んー、どうする舞ちゃん?」
「そうね……。 結構進んだから、一度ここで休憩を挟みましょうか。」
「やった! じゃあ咲ちゃん、私も頂戴。」
「私も貰うわ。」
「分かりました。 では、少し待ってくださいね。」
「は〜い。」
「えぇ。」
二人ともこれを気に休憩するみたいだ。じゃあさっさと準備して、二人でゆっくりするか。