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NO.236の管理





 少年は両手で両親の手をとって幸せそうに笑っていた。

 「お父さん」「お母さん」と呼ぶと返事が返ってくる。

 それだけで嬉しかった。




「………」

 カーテンからもれた朝日が、まだ荷物の整理が出来ていない小さな部屋に差し込まれる。


 夢。


 小さいころの夢。

 なんで今さらあんな夢を……?



 なんとなく理由が分かるようで分からないモヤモヤした気持ちを抱えながら、九条は仕事へいく準備を始める。

 研究所につくころにはそんな夢を見たことすら忘れていた。





「NO.236。飯の時間だ。食え」

「………?」



 少女は驚いた顔をした。

 そんな反応をされたのは初めてだったので九条も少々面を食らう。


「どうした?」

「あっ……その、前の管理人さんのときには三日に一回だけだったから」



 よく見ると、少女の体は同年代と比べて一回りか二回りほど小さい気がした。

 引き継いだ日誌を見て薄々感じていたが、前任の管理人は随分いい加減な性格をしていたようだ。




「今は俺が管理人だ。黙って食え」

 食事を渡し終えると、九条も牢屋の前におかれた事務机で自分の分を食べる。


「いただきます……」


 一人つぶやく少女を片目に食べながら報告書に目を通す。

 食器の音だけが響いていた。







「………。……あったかい……」

 少女が漏らした言葉は、九条の耳にも届いていた。



「おいしい……、温かいご飯久しぶりに食べるなぁ……」

 そう言うと少女はポロポロと静かに涙を流した。

 本人は気づいていないのか、拭うことっをしなかった。


 九条は何も言葉を出さずに、静かに様子を見ていた。

「管理人さん……ありがとう……」



 少女は笑ってお礼を言った。

 笑った顔を初めてみた。

 笑えるのだと思った。


「いいから黙って食え」

 九条は小さな溜息を吐いて、そう言った。




 10月14日 摘出作業

 10月16日 摘出作業

 10月19日 摘出作業

 10月21日 摘出作業





 予定よりも早いペースで作業は行われていた。

 その度に吐血で血まみれになった少女を牢屋に運び入れる。

 それも管理人の仕事の一つだ。





「かんり…にん………さん」


 消え入りそうな声で少女は話しかけた。

 いつも運び入れるときは気を失っているのに、今日はたまたま起きるのが早かった。


「なんだ……?」

 九条は手に持った白いタオルで顔についた血を拭っていた。



「いつも……わたし汚いのに……きれいにしてくれて……ありがとう……」

「……仕事なんだよ」


 独り言のように呟きながらタオルはだんだん赤に染まっていく。



「でも……管理人さんは……やさしい……」



 仰向けに倒れている少女は静かに腕を伸ばし九条の頬に手を添えた。

 一瞬驚いたが、九条はその手を拒むことはなかった。




 輪郭をなぞるように

 その存在を確認するように

 その温かさを知るように

 初めて二人の意思で触れ合った。





「優しくなんかないよ」

 初めて九条は人として少女と話した。

 触れた手はたしかに温かかった。


 同じだ。

 この子も自分と同じで、悲しかったら泣くし、嬉しかったら笑う。



 二週間程度の関係。

 それでも少しずつ会話も生まれていた。

 少女はだんだん笑うようになった。

 幸せそうに笑っていた。



 それにつられて九条も笑うようになっていた。

 二人の壁はだんだん薄くなっていった。



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