表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

囚人と管理人



 20XX年。

 東京のとある研究施設。

 研究内容は非人道的。故に一般公開はされていない。


 そしてこの施設の管理部署に移動してきた一人の男。

 その男の名は、九条はじめ。



 九条は社員証をカードキーに通して施設の中に入った。

「君が九条君だね?」

 穏やかで優しい声が聞こえた。

 声の主はここの研究職員。

 白衣を纏った男は、自分のことを太田と名乗った。




「待っていたよ。来て早々だが案内するね」

 その声は低く、安心できる声色だった。

「仕事の内容はもう聞いているね?」

「はい」

 対照的に、九条は低く、威圧的な声で返事をした。

 太田のことが気に入らないわけではない。


 少々性格に難あり。

 ただそれだけのことだった。





「君の仕事はこのNO.236の管理だ」


 NO.236と呼ばれているのは、三畳程度の牢屋の中壁にもたれかかり、丸くなっている少女だった。

 小柄で細い。歳は十二歳くらいだろうか。


 なるほど。なかなか生気を感じさせない容姿をしている。

 手入れされていないボサボサの髪で表情はよく見えない。

 身につけている囚人服は可愛げの欠片もない。



「明日から君がこの囚人の食事・体調・スケジュール等の管理をする。マネージャーみたいなものだと考えてくれればいい。特に専門的な知識もいらない。詳しいことは別室で話そう」

 二人の会話で気がついたのか、NO.236と名付けられた少女は顔を動かさず横目でチラリと九条を確認した。

 まるで猫が興味のないものを見るかのように。

 何故か少女は、右頬だけが少し赤かった。



「NO.236。今日からお前の管理人になった九条だ」

「……」


 少女からの返事はない。

 檻で隔てられているから、無視をしても平気だと思ったのか。

 はたまた返事をする元気もないのか。

 初対面の九条には判断が出来ない。


「聞こえたら返事をしろ」

 冷たく吐き捨てる。

「……はい」



 九条の予想していた声よりも、少女の声は透んでいた。

 しかしその声は、九条にとって幻聴のように感じられた。


 人の形をした何かが、なんの前触れもなく話し始めたような。

 それほどまでに少女からは生気を感じなかった。


 もうほとんど廃人だな。

 これから自分が管理する囚人に対して九条は思った。



「じゃあ、よろしく頼むね」

 まるでこの空間には二人の人間しか存在していないように、太田は九条に話している。


 こんな陰気臭い場所に、長居は無用だ。

 九条は部屋を出るとき、少女に向かって吐き捨てるように

「ゴミが……」

 と、言葉を残した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ