囚人と管理人
20XX年。
東京のとある研究施設。
研究内容は非人道的。故に一般公開はされていない。
そしてこの施設の管理部署に移動してきた一人の男。
その男の名は、九条はじめ。
九条は社員証をカードキーに通して施設の中に入った。
「君が九条君だね?」
穏やかで優しい声が聞こえた。
声の主はここの研究職員。
白衣を纏った男は、自分のことを太田と名乗った。
「待っていたよ。来て早々だが案内するね」
その声は低く、安心できる声色だった。
「仕事の内容はもう聞いているね?」
「はい」
対照的に、九条は低く、威圧的な声で返事をした。
太田のことが気に入らないわけではない。
少々性格に難あり。
ただそれだけのことだった。
「君の仕事はこのNO.236の管理だ」
NO.236と呼ばれているのは、三畳程度の牢屋の中壁にもたれかかり、丸くなっている少女だった。
小柄で細い。歳は十二歳くらいだろうか。
なるほど。なかなか生気を感じさせない容姿をしている。
手入れされていないボサボサの髪で表情はよく見えない。
身につけている囚人服は可愛げの欠片もない。
「明日から君がこの囚人の食事・体調・スケジュール等の管理をする。マネージャーみたいなものだと考えてくれればいい。特に専門的な知識もいらない。詳しいことは別室で話そう」
二人の会話で気がついたのか、NO.236と名付けられた少女は顔を動かさず横目でチラリと九条を確認した。
まるで猫が興味のないものを見るかのように。
何故か少女は、右頬だけが少し赤かった。
「NO.236。今日からお前の管理人になった九条だ」
「……」
少女からの返事はない。
檻で隔てられているから、無視をしても平気だと思ったのか。
はたまた返事をする元気もないのか。
初対面の九条には判断が出来ない。
「聞こえたら返事をしろ」
冷たく吐き捨てる。
「……はい」
九条の予想していた声よりも、少女の声は透んでいた。
しかしその声は、九条にとって幻聴のように感じられた。
人の形をした何かが、なんの前触れもなく話し始めたような。
それほどまでに少女からは生気を感じなかった。
もうほとんど廃人だな。
これから自分が管理する囚人に対して九条は思った。
「じゃあ、よろしく頼むね」
まるでこの空間には二人の人間しか存在していないように、太田は九条に話している。
こんな陰気臭い場所に、長居は無用だ。
九条は部屋を出るとき、少女に向かって吐き捨てるように
「ゴミが……」
と、言葉を残した。