06.全てを知って……今も、これからも見ていてね
昨日の作戦会議を受け、24日。朝早くに山下が仙台に向けて出発した。清水ら2年1組のほぼ全員、3組の湊と三河は渡波駅に寄り合っていた。彼女達もまた、アテがないながらも〝祖志継家〟の事を調べようとしていた。
「山下さんが行ったとこ、お兄ちゃんが連れてってくれるって」
倉埣が電話を切りながら言った。
「5人まで連れて行けるけど、誰か行く?」
「うち行くー!!」
美園が1番に名乗り出た。
「私も行ってみようかな」
「なら、うちも!」
須江と竹浜が続いた。
「俺も行くよ」
「そうなったら俺もー」
相野谷と伊原津で定員が埋まった。
「それなら私達も出掛けましょ」
「どこにー?」
「私の地元。あそこにも前、祖志継さんいた……と思うんだ、確か」
「そうなの!? 行こ行こ!」
湊と三河も他の所に行くようだ。
「松並君も来る?」
「俺? もれなく中野も付いて来るけど」
「いいよ! 清水さん達はどうする?」
三河に聞かれ、清水と沙月、アコ、雅、凪助は顔を見合わせた。
「皆出掛けるなら、うちらは留守番かな。こっちでもネットなり何なり使って調べとくよ」
雅が5人を代表して答えてすぐ、3手に分かれた。清水らは近くの、凪助の家に移動した。
「凪助お帰り……って、おい!」
弟が女子を4人も連れているのを見てか、迎えてくれた凪助の兄が愕然とした。
「今まで女子連れて来た事ねぇのにどうした!?」
「勉強しに来ただけだよ」
「健全だなー、偉い偉い」
凪助の兄にからかわれつつ部屋に上がった。凪助が、兄貴がちょっかい出しに来そうだから、とぼやきながら鍵を閉め、ノートパソコンの電源を入れた。少し経って検索画面が出たので〝祖志継家〟と入力した。
『祖志継家 仙台末娘事件』
『祖志継家 毒キノコ混入』
『祖志継家 過去の事件』
続けて出た検索ワードを片っ端から見ると、今までに知った内容に加え、ニュースを見たけど忘れていた物も発見した。また、2〜30年前にも〝祖志継家〟による事件が相次いでいて、あるホームページで年表にまとめられていた。
「うわー、結構やってるねぇ」
沙月と雅は呆れていた。事件の詳細を見る事が出来たので、一つ一つ確かめた。
それらを見終わった頃、相野谷からメッセージが届いた。
『そっちはどう? ……って、南境さんから』
『順調でーす! スケちゃんちでネット見たら色々出たよー』
清水は相野谷に返事を送った。
相野谷から山形県内に着いたと返事が来たのを確認した後。うるさいのがいるから、と凪助が言うので清水達は彼の家を出た。
「カイちゃんとこ行かね?」
「カイちゃんとこ……お墓参りだね。行こう!」
清水らは凪助の提案に乗った。途中、大街道が好んで食べていたスナック菓子と炭酸飲料を買い、清水の自宅からお彼岸に使い切らず残っていた線香とマッチを持ち出した。
5人は電車と徒歩で、大街道が眠る石巻市北部某所に到着した。そこで彼の姉に会った。
「あれっ? 洋太のクラスの……」
「そうです! 俺は北村凪助で、女子が千石沙月ちゃん、清水琴浬ちゃん、雲雀野アコちゃん、渡波雅ちゃん、です」
凪助が自分と清水らを大街道の姉に紹介した。
「そっか……皆、来てくれてありがとうね。私は今終わった所だから、ごゆっくり」
「はい」
清水は大街道の姉に返事した。彼女は近くに停めていたピンク色の軽自動車で去って行った。
5人は大街道の墓前にお菓子とジュース、線香を備え、一緒に手を合わせた。
(カイちゃん、うちらね――)
清水は心の中で大街道に今までの事を語りかけた。
(どうか見守ってて)
この後大街道の事を喋りながらお供え物を片付け、各自帰った。清水は家に着くなりベッドに突っ伏して、うたた寝した。
夢の中で、清水は教室にいた。隣の大街道の席に花瓶はなく、彼が入って来るなり清水に近寄った。
「カイちゃん?」
「琴浬ちゃん、さっきはありがとな」
「さっき? あぁ。いいえ、どういたしまして」
「皆の事、ちゃんと見てるぞ。どうなろうと俺は2年1組のクラス委員だから……此岸は任せた。」
彼は静かに消えた。清水はそこで目を覚ました。
(カイちゃん、任せてね……さてと!)
清水は起き上がってすぐ明日の用意をした。今夜は勉強せず、須江や山下とメッセージを送り合ったり、妹と喋ったりして、早めに就寝した。
そして、25日。修了式の日。
「以上を持ちまして、平成24年度、学校法人秀堂学園石巻浦見台高等学校修了式の一切を終わらせていただきます。この後、2年生はこのまま体育館、1年生は武道館にて学年集会がありますので、各自そちらへ」
教頭の閉式宣言後、1年生が出て行くのと同時に皆が動き始めた。祀陵高校のはとこやその同級生と連絡する山下を除いて1組の生徒達は詳しい事情を知らない2年生を体育館前方に集めた。何かが始まると気付いたのか、落ち着かない様子の同輩の姿が目立った。
まず南境、蛇田、瀬里、丸沼が事件の真相を説明し、蒼子と洋乃が綾海を皆の前に連れ出した。彼女の裏での言動が明らかになると、辺りがざわつき始めた。
「綾海……誰も気づかないと思っただろ? 甘いぞ、お前がやった事知ってるの、こんなにいるんだからな」
南境の声を聞きながら、清水は綾海を睨んでいた。
(この子がカイちゃんを……)
「お前が大街道や3組……なぎさも含めて、タメ全員にやった事、認めるか?」
南境が綾海に問いかけた。
「うん、認める」
綾海が即答した瞬間、一斉に野次が飛んだ。清水は、普段だったら不愉快な汚い言葉が今は正しいと、言われて当然だと、口にはしなくとも思っていた。
そこに妙見、鮎川が桃生と樫崎、一人の中年女性を連れて現れた。そして校長である桃生から直に、綾海に対する退学処分が言い渡された。
「分かりました……けど、最後に一つだけ言わせて下さい」
「私からもお願いします」
綾海、伯母と紹介された中年女性が何か言いたいようだ。同時に顔が青くなった三河を、彼女の友人達がかばうようにした。
「あたしがどんな人間か分かったでしょう?」
綾海は強気な姿勢だった。
「うん。全部分かってる」
清水が言い返した。
(あんたの事、皆調べたんだから! この極悪人が)
本当はもっと言ってやりたかったが止まらなくなりそうなので一言で済ませた。
「なら話が早いわ……貴方達は私達の〝敵〟。これから気を付ける事ね」
「出たわね、祖志継家の得意文句……上等よ、何とでもお呼びになって?」
湊が伯母に言葉を返すと、松並、蒼子と恵野が驚いた顔で湊を見た。最近知り合ったとはいえ、湊らしくないと清水も感じていた。
「湊さん、今のでバレたんじゃない?」
綾海がクスクス笑うと、湊は一目散に体育館から抜けて行った。その直後、綾海は大街道の件で訪ねて来た刑事の任意同行に応じ、伯母は彼女の荷物を持って帰った。
「これで解決したかな」
「いや、まだだね」
丸沼と瀬里が綾海達を見送りながら話していた。休憩を挟んで静かになった所で学年集会が始まり、冒頭で大街道への黙祷が執り行われた。
放課後、綾海の去り際に浮上した二つの問題――祖志継家からの宣戦布告とも言える脅迫、湊が挙動不審だった理由が分かった。
こうして、学年内で相次いだ事件は幕を閉じた。
帰り。清水は沙月、アコと雅、凪助と一緒に学校を出た。
「事件も、2年生も終わったぁ」
「だね、まだ油断は出来ないけど……そうだ」
清水と話していた沙月が何か思いついたようだ。
「受験とかあるけどさ、祖志継家に1番詳しいのたぶん1組じゃん? また何かあった時動こうよ」
「やるやる!」
凪助が1番に名乗り出た。雅、清水、アコと続く。
万石橋の近くで凪助と別れる間際、彼は沙月を家に誘い、彼女はそれに応じた。
「お二人共仲良くねー」
清水はアコ、雅と手を振りながら渡波駅方面に向かった。
家に帰り、スマートフォンのアルバムを開くと、2年生の間に撮った写真がたくさん入っていた。そのほとんどに大街道が一緒に写っていた。
(カイちゃん……終わったよ。でも、まだまだやる事いっぱいあるから、ずっと見守っててちょうだいね)
清水は大街道を想いながら、彼とのベストショットを壁紙に設定した。
次第に夜が更けていく。完全に元通りではないけれど、事件を越えた日常が明日から始まる。