04.仇の正体ついに判明! 秀才と一緒にあの子を追え
18日、午後の時点で今日は何も起こっていない。事件が終わっていない以上まだ不安は残っているが、それでも落ち着いて普段通りに過ごしていた。
7時間目は古典の授業、演習で有名な大学の過去問に挑戦した。かなりの難問に清水を含め大半が苦戦している中、相野谷が涼しい顔で次々と正解を答えていた。
「正解! 何だぁ? 今日は相野谷ばかり活躍してるなぁ」
先生が目を丸くした。その後も相野谷の独擅場は続いた。
休憩時間、清水と須江は相野谷に先生の説明だけでは分からなかった所を聞いた。凪助や倉埣など、国公立大学を目指している他の子も同じような質問をしていた。
「皆どの辺分からなかった? まとめて説明するよ。黒板使うからまだ消さないで」
相野谷は黒板を消そうとしていた男子に一声掛け、さっきの授業で使われなかった赤いチョークを手に取った。簡潔明瞭な解説でしっかりと理解出来た。
「あれ? 古典の先生変わった?」
英語の先生が冗談を言いながら入って来た。
「そうなんですよー。1組だけ相野谷先生に」
凪助が返した。
「そっかそっかー……それよりスケちゃん」
「はい」
「元の明るさに戻って来たな。やっぱ君はそうでなくっちゃ!」
「えっ!? そうすか!?」
凪助自身は自覚していなかったようだが、確かに大街道の事件直後に比べると回復している。今のような冗談を聞くのも久々で、清水は安心した。
8時間目の英語では、先生お得意のジョークを交えながら侍や忍者にまつわる長文を読み解いた。後半は脱線して先生の大好きな女優が出演している時代劇の話になった。
帰り、清水が沙月らいつものメンバーと喋りながら歩いていると、相野谷に猛ダッシュで追い越された。4人は唖然とした。
「相野谷待って! 俺達も連れてってー!!」
今度は伊原津だ。竹浜と須江も遅れてついて来た。
「ねぇ、一体どうしたの?」
「ぎっちょんが外で変な事してるみたい……清水さん達も来る?」
須江から事情を聞いて、清水は友人達に目配せした。彼女らは揃って首を縦に降った。
「うん。行こう!」
清水ら4人は伊原津達に混ざり、渡波駅近くで相野谷に追いついた。駅に着くと南境と蛇田、青みがかったポニーテールの女子生徒がいた。
「南境さん、メッセージ見たよ!」
「おう!」
相野谷は南境から〝ぎっちょん〟らしき女子生徒の目撃情報を送ってもらっていたらしい。
「で、そっちの子は?」
「鮎川。俺と同じ部の子だよ」
南境が鮎川を紹介した。彼女は〝なぎさ〟という子がやったと思われる嫌がらせの濡れ衣を着せられているらしい。その〝なぎさ〟もまた、学校外での不審行為を3組の生徒に目撃されていて、鮎川はその話を聞いて来たそうだ。
そこに列車が到着し、皆同じ車両に乗り込んだ。移動中、鮎川も目的地が同じだと分かり、さらに聞くと目撃情報の内容も〝ぎっちょん〟と〝なぎさ〟の件で一致していた。
「同一人物かもね」
同乗者の証言から相野谷が予想した。それは的中した。
石巻市内、既に他の生徒が集まっていた所に問題の女子生徒――川浜なぎさはいた。彼女は〝ぎっちょん〟とも名乗り1組と3組に手を下した事を認め、須江家から盗んだ古書を返した後出頭した。
家宝が無事に戻った事で須江は喜んでいた。さっそく彼女から親に連絡しその旨を伝えると、取り戻したご褒美としてその本は須江が持つ事になった。もちろん、読んでもいいとの事だった。
「須江やったじゃん! ね、うちも見ていい!?」
竹浜は古書に興味津々だ。
「いいよ! それじゃ、私んちで見よっか」
「やったー!! んじゃ、須江んち行こーっ!!」
竹浜と須江は楽しそうに帰っていった。
「とりあえず、ぎっちょんはこれで大丈夫だね。後は……」
「総合コースのタクヤ、だな」
相野谷と伊原津がもう一つ残っている問題を挙げた。そこで改めて先週、特に14日に起きた事について情報を交換し、お開きとなった。