01.舞い込む凶報! 暗き事件の幕開け
2013年3月4日17時06分。8校時が終わってすぐ、2年1組に担任、副担任が入って来た。いつも通りの帰りのSHR、のはずだった。
「皆、落ち着いて聞いて欲しい……4時間目で早退した大街道が帰る途中、川に落ちて亡くなった」
級友の訃報を知らせる担任、それを告げられた生徒達はこの世の終わりのような絶望感を露わにしていた。
清水は、使用者がいなくなった隣の空席を見た。
(カイちゃん、嘘でしょ? こんなのあんまりだよ……)
当然ながら、次の日もクラスは暗い雰囲気に包まれていた。それでも授業は普段通りあって、3校時まで淡々と進んだ。
(カイちゃん、昨日の今頃まではいたんだよね……)
休み時間、清水は大街道の席に置かれた花の手入れをしていた。
「清水ちゃん」
声を掛けてきたのは凪助だった。
「スケちゃん、どうしたの?」
「保健室行くから、次の授業ん時言っててくんないか?」
「分かった、言っとく……辛い時無理しないで帰った方良いよ?」
「いや、大丈夫。ちょっと休めば治る」
「そっか」
凪助が教室を出た。
4校時は副担任による現代文で、冒頭に大街道の通夜と告別式について知らされた。共に石巻市北部の自宅で執り行う、との事だった。
昼休み開始直後、凪助が戻って来た。
「おかえり。カイちゃんのお通夜と……」
「それより聞いてくれ! とんでもねぇ事分かった!!」
清水の話を遮り、凪助はクラス全員を黒板の前に集めた。
「保健室行く途中、挙動不審な女子を見かけたんだ」
「挙動不審な女子?」
沙月が聞き返した。
「あぁ。で、後をつけたらそいつ、隠れて電話し始めてさ。カイちゃんの件、事故として片付いたって言ってたんだ」
「事故〝として〟? ……殺人事件だった、って事?」
「あぁ」
「それまじだったら大変だよ! ね、その電話してたのってどんなやつ?」
「後ろ姿しか見てねぇけど……髪黒くて、長さは肩あたり。そんなに背高くなくて、2年のやつ。普段見かけないから、たぶん総合コースだと思う。ぎっちょんって名乗ってた」
「ぎっちょん? 誰だろ。同中の子総合コースにいるし、聞こっかな」
「あぁ、頼む」
沙月がさっそく6組に聞きに行ったが、すぐに帰って来た。
「だめ、分かんないって」
クラス中が落胆した。この後、大街道の通夜と告別式について話し昼休みが終わった。
放課後、清水が沙月らと一緒に学校を出ようとした時、クラス委員の女子とその相棒に呼び止められた。
「ぎっちょんが、今度は凪助君に……ちょっと来てくれる!?」
「うん!!」
教室に戻ると、凪助が手と頭を怪我していた。
「便所から戻ったらこれ置いてあって、中の刃で指切って、悶絶してたら後ろから殴られたんだ。顔は見てないけど、声でぎっちょんだって分かった……」
凪助がふらふらしながらゆっくりと説明した。
「で、刃と一緒だったのがこれ」
凪助が紙を差し出した。パソコンを使ったであろう、きれいな明朝体で一言書かれていた。
『俺達の事は他に漏らすな。さもなくば貴様らを消す』
「向こうは本気みてぇだ……」
「そう、だね……」
集まったクラスメート達の間に不穏な空気が流れた。