共同戦線
「私は綱。天乃 綱です。貴女の名前は?」
「私は逢。」
お互いに名乗り合い、暫く沈黙が続く。
綱から話を始める。
「逢。貴女はここの山の主なのですか?」
「ううん。違うわ。」
「なら何故貴女はここに?」
「この山から下りた妖が人里で悪事をはたらいたと聞いてね、慌てて隣の山から来たのよ」
「…やはり。貴女はあちらの山の出身なのですね?」
「そうなるわね。お父様に言われてね」
「お父様…『朱天』ですか?」
「ええ」
『朱天』の娘。それはつまり『朱天』と『涼風』、最強の鬼2人の娘ということ。綱は『逢』の強さに納得がいった。
「綱。貴女は妖狩りよね?やっぱりこの山の妖が人里を襲ったから討伐に来たのね」
「ええ。逢、貴女のように『悪の妖』を狩る妖もいるんですね。驚きました。一昨日までは普通に妖に襲われたのに昨日になって一気に静まり返ったのは貴女のおかげだったんですね」
「まあまだ全部を抑えられた訳じゃないんだけど…」
そこで一旦言葉を区切り、
「私…というより元々はお父様やお母様の考えになっちゃうんだけど、そもそも人間と敵対するつもりなんてないの。私達は平穏に暮らしたい。それだけ。でもどうしても…」
逢のセリフを綱が引き継ぐ。
「どうしても人を襲う妖がいる。それを狩るのが『妖狩り』の役目です。」
「ハッキリ言っちゃうとそう言う人を襲う妖怪の方が少数なんだけどね。人間が犯罪者だらけじゃないのと同じでね」
そこからまた沈黙が続く。
また綱が
「…昨日はすいませんでした。いきなり斬りかかったりして。私は…勘違いをしていたみたいです。『妖は全て悪』。そう信じて疑わなかった自分を恥じています。」
「昨日のことは全然大丈夫。綱こそ肩大丈夫だった?抑えないとすぐ暴れだしそうだったから結構力を入れちゃったんだけど…」
「それはもう痛かったですね。とっても痛かったです。ぶっちゃけ泣きそうでした。」
「ええっ!?そこまで!?」
「流石に泣きそう、は冗談ですが。それでもすぐ応急手当をして陰陽庁で治療はしてもらったのでもう大丈夫ですよ」
「良かった…あれで綱みたいな可愛い女の子に消えない痕を残しちゃったんじゃないかと心配だったのよ」
「………!?可愛い!?」
「え?ええ。可愛いじゃない、綱。髪も綺麗だし顔も可愛いしちっちゃくてとても可愛らしいわ」
そう言うと逢は綱の頭を撫でる。
「ちょ、待ちなさい!」
「んー?」
なでなで。
「あの、その…照れるので…やめてもらえませんか…?」
「(可愛い)」
顔を赤くした綱をニマニマと眺めながら逢は撫でるのをやめる。
「こほんっ…とにかく!私は…貴女のことを信じます。貴女の『人間と敵対するつもりは無い』という言葉も」
「こうして話をしてくれた時点で私は貴女を信じてるわよ、綱。それで…早速お願いがあるんだけど…いいかしら?」
「何でしょうか?」
「未だこの山に巣食う『妖』…それの討伐に力を貸してくれないかしら?」
「当然です。そもそも私はそのために来たのですから」
ここに、まさかの『鬼』と『妖狩り』の共同戦線が引かれたのであった。